ホイールが変われば 走りは変わるのか?|BBS RI-D × KW V4

MOTOR THINGS 2023/05/01

BMWチューナーであるコートナーが製作したBMW M4コンペティション。彼らが製作したフロントスポイラーとリアフラットウイングのほか、アクラポヴィッチのスリップオンラインが装着される。その上でサスペンションは下に挙げたKW V4。ホイール選びの最中で今回のテストを実施した。

街中からハイウェイ、そしてサーキットまでいかなるシチュエーションを満足させるBMW M4という存在はいつも万能選手だ。だからこそ足まわりの構築は難しい。サスペンションやタイヤ、ホイールを含めて誰もがベストアンサーを探求している。今回、ホイールの違いに焦点を当てた、サスペンションをめぐる冒険が始まった。

まるで路面を捕えて離さないような接地感を感じながら、G82型BMW M4クーペ・コンペティションを走らせる。これは新進気鋭のBMWチューナーであるコートナーが構築したM4で、サスペンションはKW V4(旧バージョン4)に改められている。それが功を奏してフットワーク性能は秀逸だ。KWの核技術であるツインチューブダンパーシステムがもたらす乗り味の良さに加え、KW本国でのシミュレーションと実走テストによって導き出された減衰力もまたドンピシャだと思える。街中からハイスピードクルージングまで何のストレスも感じさせず、サーキットへ連れ出しての全開アタックもできる。極限まで低められた車高と、彼らがオリジナルで製作したボディパーツが相まって、そのスタイリングも抜群にいい。実に大人っぽく上質なスポーツカーとしてまとまっている。
このM4には、コンペティショングレードの標準となる鍛造ホイールが装着されていた。G82型M4は前後異径サイズを採用するのが特徴で、サイズはフロント9.5J×19インチ、リア10.5J×20インチというものだ。そこに組み合わされるタイヤサイズは、それぞれ275/35ZR19、285/30ZR20である。なお、M4のベースグレード(ピュア)ではフロント18インチ、リア19インチの設定で、純正オプションであるMパフォーマンス製になるとフロント20インチ、リア21インチまでが用意される。ここまで豊富なサイズ設定を敷くあたりにBMWのこだわりが見え隠れする。
あくまで前後異径サイズを貫くBMWに対して、各ホイールメーカーやチューナーが軒並み挑むのが“前後同径化"だった。一例として、BBSのフラッグシップモデルにあるRI-Dを取り上げる。彼らがG82型M4用に設定したのは、フロント9.5J、リア10.5Jの20インチだ。それは純正と比べて、どんな違いがあるのか。今回、ふたたびサスペンションをめぐる冒険と銘打って、275/30ZR20、285/30ZR20のミシュラン・パイロットスポーツ4Sを組み合わせて、その功罪を感じ取りたい。

M4
BMWチューナーであるコートナーが製作したBMW M4コンペティション。彼らが製作したフロントスポイラーとリアフラットウイングのほか、アクラポヴィッチのスリップオンラインが装着される。その上でサスペンションは下に挙げたKW V4。ホイール選びの最中で今回のテストを実施した。

サスペンション
サスペンション
KW V4は伸び側16段階、縮み側の低速域6段階、高速域14段階の減衰力調整機能を持つ3ウェイ方式を採用する。縮み側はアジャストメントダイヤルで、伸び側はピストンロッドの先端から調整する。G82型M4はフロント20〜35mm、リア15〜30mmの範囲でのローダウンが可能となる。


ホイールやタイヤのサイズが変われば、走りに影響を及ぼすことは容易に想像がつく。もちろん、サイズだけでなく重量差もまた然り。超超ジュラルミン鍛造製法を駆使しながら、極限まで鍛え上げられた造形を持つRI-Dは、実際に相当に軽い。今回のサイズを見ると、フロント8.6kg、リア9.2kgである。持ち運んでみても、純正ホイールとの重量差は明確に伝わってくる。また、純正ホイールは前後異径だからこそ、前後の重量差も大きいはずだ。前後で600gしか変わらないRI-Dに履き替えたらどうなるか。そうした意味でも軽量性能が走りにどう効くのか興味がある。
また、走りに違いが生じたときに役立つと思えるのが、KW V4が持つ、幅広くきめ細い減衰力の調整幅だ。これは伸び側16段階、縮み側の低速域6段階、高速域14段階の減衰力調整機能を持つ3ウェイ方式を採用する。車高はフロント20~35mm、リア15~30mmの範囲でのローダウンが可能だ。ホイールを換えたことで何らかの影響が出るのだとすれば、それを踏まえて車高や減衰力をベストアンサーへと導くことができる。その答えは走るフィールドやユーザーの好みによっても変わるはずで、それこそが奥深きセッティング道である。

しかし、BBS RI-Dによる前後20インチ化は、減衰力を筆頭にサスペンションの設定を変えるほどではなかった。とはいえ、その効果は想像以上に大きいものだった。街中で動き出したその瞬間から、違いを鮮明に訴えかけてきた。ストリートでは前後同径化によるものというより、その“軽さ"の効果が何より大きい。動き出しが軽やかで、ばね下の重さをまるで感じさせない。足もとに何も重量物がないような感覚には驚く。それでいて掌で路面を掴むかのような接地感は変わらず。ただし純正ホイールに合わせて設定されるスプリングレートと減衰力だから、ホイールが軽くなったぶん、少し引き締まったような印象もある。とはいえ過度な突き上げは感じられず、M4の性格には合っているように思えた。
このM4を製作した張本人であるコートナーの代表、渡邊史郎もまた、ホイールによる乗り味の違いに驚いていた。
「走り始めた瞬間から、その軽さには驚きました。立ち上がりで、今までよりもクルマがぐいぐいと前に進む感じ。ばね下の重さを感じないから、たとえ挙動が乱れたとしても、元の姿勢に戻すのが容易で、よりコントローラブルになった。このパッケージは本当に素晴らしく、これ以上、減衰力を触る必要はないと思いました」
渡邊もこの仕様に対して減衰力を触る必要はないと言った。むしろ純正ホイールよりも重いホイールを履いていた過去にこそ、減衰力を触りたくなったという。

ホイール

BBS RI-D
RI-DのG82型M4用は、フロント9.5J、リア10.5Jの20インチ。リアは純正とほぼ同等で、フロントのみ1インチアップして前後同径とした格好だ。特にフロント8.6kg、リア9.2kgという軽量性能が光る。コンケーブしたクロススポークは美しく、キャリパーとのクリアランスも申しぶんない。


「純正を基点とするのなら、RI-Dのような軽量ホイールとはまるで対極の、重いホイールを履いていたことがあります。乗った感じが全然違うんですよね。重いホイールのときは跳ねる感じこそしなかったけれど、逆に重さがもたらす入力を抑え切れていない状態で、その時は減衰力を上げたくなりました。しかし、RI-Dは今の仕様にベストバランスだと思います」
KWオートモーティブジャパンのテクニカルアドバイザーとして、数多くのKWユーザーへ対してセッティングを指南してきた天野恭兵も、その認識はまた同じだった。彼は鈴鹿ツインサーキットを舞台にひとしきりテストした後でこう述べた。
「足まわりの軽快さが際立つのは確かです。それはホイールの重量差が効いているのでしょう。その上でフロントを1インチアップしたことが手伝って、特に回頭性が上がりました。純正ホイールとは明らかに印象が異なりますが、しかし減衰力を変える必要がないというのは僕も同じ意見です。むしろ、タイヤとホイール、そして減衰力を含めたサスペンション、そのすべてが調和していると思いました」
と、天野はRI-DとV4とのコラボには高評価を下していた。その上で興味深いのは、初発の印象だった「軽快さ」と「回頭性の良さ」だけではなく、その中から彼はまた別の感触も感じ取っていた。
「軽快だけど、その中にマイルドな動きが潜み、とても扱いやすい印象を受けます。粘りのあるグリップ感というのか。それはホイールの効果があるのではないかと思います。軽いんだけどただ硬くて無機質な金属というのではなく、適度にしなって粘りのある金属。だからこそ、入力に対して唐突な動きにならず、そこにはコントロールしやすい特性が共存しています」
クルマにとってサスペンションの効果を発揮するのは、決してダンパーとスプリングだけではない。その先にあるタイヤやホイールもまた、適度なしなりを持ってサスペンションの効果を果たす。RI-Dとパイロットスポーツ4Sの塩梅は、このM4に対してうまくマッチングしていた。
かといって、誰にも勧められるベストアンサーというわけではない。あくまで主体をストリートに置き、たまにサーキット走行も楽しむようなサンデーレーサー向けの選択肢だとも言った。よりハイグリップタイヤや、コンペティション向けの車高調を入れるなどして、主軸をサーキットに置くようになると話は変わってくる。
「鈴鹿ツインサーキットは速度域が低く、低速コーナーばかりが続く。そうしたフィールドでのマッチングは抜群だと思いました。しかし、より高速コーナーが存在するコース、例えば富士スピードウェイなどに持ち込んだら、また別の側面を見せるのかもしれません。あるいはよりハイグップタイヤを入れて、それに見合うスプリングレートや減衰力にしたら、RI-Dの持つ旨味が逆に悪さをするのかもしれない」
と、天野は推測する。200km/hオーバーからフルブレーキングして飛び込んでいく富士の1コーナーや、あるいはAコーナーなど、過度な負担がかかる場所では、軽さよりも剛性が求められるのかもしれない。あるいはよりダウンフォースが効くマシンに仕立てた場合も同様だ。しかしそれは、タイヤにあらゆる方向性があるのと同じ。RI-Dはストリートを意識したスポーツタイヤであるパイロットスポーツ4Sのような存在なのだと思う。たとえ少々重くても剛性を追い求めていくのなら、BBSにはLMのような存在があるし、あるいは究極的にはBBSモータースポーツ製ホイールのようなものへと行き着く。ホイールもまた、タイヤやサスペンション選びと同じような観点で見るべきだということを再確認する。また、そうした次元になってこそ、KW V4の調整幅が活きてくるのだということも。もっともKWにしても、V4はストリートパフォーマンスと括られる。よりサーキットユースを求めるのであればその先にクラブスポーツ系があり、さらに究極的な存在としてレーシング系がある。
「今回はストリートレコメンドという、ストリートでの推奨値のままコースを走りました。それで充分速く、意のまま操れて気持ちのいい走りができたからです。これをトラックレコメンド(サーキット推奨値)にすれば、タイヤやホイールとのミスマッチが起こるのかもしれない。しかしM4の方向性を考えると、今回のセッティングがひとつのベストなのかなと思います」
ホイールを換えたら、確かに走りは変わる。それは紛れもない事実だった。しかし、今回のような軽量化と前後同径化程度では、KWが提示した減衰力を変更する必要性はなかった。しかし、よりハードなシチュエーションや、コンマ1秒を詰めていくような目的を持つと、また話は別だということも示唆させた。だからこそアフターパーツメーカーは多種多様な製品群を用意しているのだ。今回の仕様は、BMW M4コンペティション自体の方向性と見事なまでに同じベクトルを持っていて、より上質なスポーツカーになったことがわかった。
「KWの推奨値という減衰力の状態から乗り始めて、その後、さんざん変更してみた。アレコレ触るのが好きだからね。でも結局、自分がベストだと思えたのは、一周回ってKWの推奨値近くだったんだ」
かつて、スタディの代表を務める鈴木“BOB"康昭がそんなことを言っていたのを思い出す。彼は今回のテストと同じG82型M4を愛車として、しかも同じBBS RI-DとKW V4を組み合わせていた。まさに今回のテストを地で行くようなエピソードである。そしてなによりもBBSとKWの魅力を象徴するような言葉だと思う。
BBSジャパンはG82型M4/G80型M3に対して、今後、BMWに寄り添いつつもちょっぴり攻めた前後異径を、具体的にはフロント20インチ、リア21インチを開発中だという。KWもまたクラブスポーツやレーシング系など、よりコンペティション寄りをG82型M4に設定する可能性は高い。そうしたスペックが登場した際には、また改めてホイールやタイヤを含めてのサスペンションをめぐる冒険をしてみたい。
(文中敬称略)

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COUTNER TEL:0774-66-5203

初出:eS4 No.97(2022年8月号)

写真=神村 聖 Kamimura Satoshi 文=中三川大地 Nakamigawa Daichi