創世期のアウトバーンに君臨した豪奢なベンツ220SカブリオレA 2

重厚にして時代を超越したメルセデス独特の世界

 現在の「Sクラス・カブリオレ」の祖先にあたる220SカブリオレA。したがって、当時としてはかなり高級なパーソナルカーなのだが、愛きょうのあるマスクや「ポントン」の語源となったリアフェンダーのモールドなどが、なんとも可愛らしい印象を醸し出す。  コンパートメントに目を移すと、戦前からのダイムラー・ベンツ製パーソナルカーの伝統である白いステアリングや、野球用グローブのような分厚い本革レザーのシート/インテリア。そして、木工技術の粋を集めたウッドキャッピングからも、往年のドイツ工芸の素晴らしさが感じられる。同じ「木と革の世界」であっても、同時代の英国車のごとき洒脱なセンスは望めないが、武骨なドイツ風デザインがなぜだかホッとさせてくれるのだ。

 しかしその走りは、さすがメルセデス製の高級パーソナルカーらしく、実に重厚なもの。高速道路で矢のように直進するスタビリティーも時代を感じさせない。また、日産L20型が大きな影響を受けたことでも知られる直列6気筒SOHCエンジンは、かなり低回転で頭打ちとなるものの、2200ccという小さな排気量とは思えない分厚いトルク感を堪能させてくれる。

 あらゆる点で感じるドッシリとした重厚感と作りのよさは、さすが佳き時代のメルセデスと思わせるが、その一方で戦後復興を懸命に図ろうとしていた時代ゆえの健気さもうかがわれる。このカブリオレAは、220Sと58年に追加された220SEと合わせても、わずか2178台のみが生産されたといわれる希少モデル。日本国内では数台程度が生息しているに過ぎないという。熱心なメルセデス愛好家にとっては、まさしくかけがえのない一台であるのに違いないのである。





ノスタルジックヒーロー 2018年4月号 Vol.186(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Hiromi Takeda/武田公実 photo:Daijiro Kori/郡 大二郎

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