高度成長期とともに生まれた店舗形態|レトロ自販機の旅「自販機食堂」編

1950〜60年代。ようやくクルマを購入できるようになった日本人が日本中をドライブした時代。その需要に合わせドライブインが日本中にオープン。しかし、高度成長期で日本人の生活が変わると一気に廃れてしまい、跡地を中心に次々とオープンしたのがオートレストランやオートスナックと呼ばれた自販機だけが置かれたお店だった。
 無人で気楽、そして24時間営業の自販機店は、クルマで行楽に出かける家族や、夜に店が開いてない真っ暗な街道沿いを走る長距離トラックの運転手のオアシス的な存在として貴重な店であったのだ。
 80年代に入ると日本はバブルへと一直線に向かい、夜遅くまで営業するコンビニが日本中を席巻することになった。当時の合言葉は「24時間」でテレビ番組が試験的に休みなく放送されるなど、日本全体が24時間対応されると、自販機店はゲーム機を置くなど対応。
 その後、コンビニが24時間営業され、居酒屋、喫茶店などが朝まで営業しはじめた90年代に入ると、自販機店は少しずつ淘汰されはじめ、2000年代には、見かけることが少なくなってしまった。
 そんな自販機店ではあるが、まだかなりの店舗が残っているという。ぜひ誌面に登場させたいということで企画を進めることになった。

「今さら特集組むのですか? レトロ自販機のブームは約2年前です。かなり遅いと思いますよ」

 と、呆れた声を出すのは、本誌連載中の「自腹散財記」でおなじみの「ガレージいじりや」代表であり、メインメカニックの小林由季嬢。以前から事あるごとにレトロ自販機の企画を提案してきた彼女にとって、レトロ自販機の企画は遅かりしといったところ。しかし、せっかくなのでということで、この企画の案内人を引き受けてくれることになった。

「まずは群馬県です。全国でレトロ自販機があるのは59店舗ですが、群馬県だけで11店舗もあります」

 いきなり全部を回ることはできないため、ポイントとなる群馬県。しかも新たにオープンしたという「自販機食堂」さんを最初に取材することにした。
 実は自販機食堂の店長である都丸佳津行さんはレトロ自販機の中身、つまりそばやうどん、ラーメン、ハンバーガーなどの生産を行なっている株式会社ミトミの社員。



 今回オープンした自販機食堂はアンテナショップとして設立させたという。もともと父親が自販機店の大チェーン店「オレンジハット」の店舗のいくつか経営しており、その影響も大きかったという。もちろん現在、自販機本体の生産は行われていないため、中古を買い集め、修理し、用意した。特にグーテンバーガーの自販機は希少な1台だという。
 ちなみに自販機食堂のオープン時は開店前に約30人のファンが並んだとのこと。現在も店舗にお客さんがいないという状況は少なく、家族連れも多いとのことだ。
 来店したお客さんが書いてくれたノートが何冊もあるが、いつまでも続けてほしいという言葉が並ぶ。全国に残る自販機店の中心となっている存在なのだ。


 今回より始まったレトロ自販機の旅は、旧車雑誌らしく360㏄の軽自動車で行こうと盛り上がってしまったが、山道を600㎞など、過酷な行程が待っていた。そんな今回の相棒はマツダシャンテ。キャロルの後継として1972〜76年まで生産されたモデルだが、当初ロータリーエンジンを搭載する計画がなされていたマニア垂ぜんの車両。ロータリー搭載は見送られたが、軽量かつ高出力で、レーシーな軽自動車として歴史に名を残した。



長野から群馬までの移動中。気温の変化に合わせてアイドリング調整。珍しくメカニックのツナギではないが、腕はさすが。


店舗内は昔の食堂のような雰囲気。レトロ自販機御三家と呼ばれるそば、うどん、ハンバーガー、トーストが揃い、奥には懐かしい真っ赤な外装のガチャ自販機「コスモス」も存在している。


自販機型の箸立て。芸が細かい。


食品だけでなく、70〜80年代の懐かしいゲーム機も多数揃う。写真を撮り忘れたが、手前には畳が敷かれた座席もあり、子供連れのお客さんに好評。見るべきものが多く、長居してしまう。


自販機のメニューはその時々で変化し、そば、うどんの自販機は「天ぷらうどん」と「ラーメン」になっていた。


お金を入れて、メニューボタンを押すと「ニシキー管」と呼ばれる電光掲示カウンターがカウントダウン開始。これが故障して表示されない自販機も多いので、しっかり表示されるのは希少。


自販機食堂のラーメン自販機では、自販機内の調理過程で具が飛ばないように麺で押さえ込まれて出てくる。これを十分にかき混ぜて食べるのがセオリー。こういったレトロ自販機ならではの行程が楽しいのだ。



中身は頻繁に変更され、ライスバーガーなども用意されることもある。その都度、都丸さんがtwitterで「○○入りました」とツイートしてくれるのが楽しい。ぜひこちらもチェックを。

information
自販機食堂
〒372-0833
群馬県伊勢崎市富塚町293-3 パレス本丸
営業時間:24時間営業
TEL 070-3612-6644
twitter @jihanki_lunch


掲載:ノスタルジックヒーロー 2019年2月号 Vol.191(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text & photo:Nostalgic Hero/編集部 model & traveller:Yuki Kobayashi/小林由季

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