オートマじゃない! オートクラッチってなんだ?〈80Times〉旧車の疑問にズバリ答える!|ハチマル的Q&A Part 2

スバル360の時代からオートクラッチを取り入れていた富士重工業は、80年3月に、レックスで復活。サイドに「Auto clutch」の文字か入る。

1980~90年代にかけては日本の自動車史のなかでも希にみる発展を遂げ、既存のシリーズも新型車も高性能であり贅を尽くした設定のモデルが多数登場する。それから40年近くが経過し、令和の今となってヤングタイマーとして人気車となっている。そんな時代のクルマたちを快適に維持していくための情報源として、「ハチマルヒーロー」誌の読者から寄せられた質問をピックアップして、自動車評論家の片岡英明さんがわかりやすく解説。旧車の疑問にバッチリお答えする!!

関連記事:部分強化ガラスって何? 旧車の疑問にズバリ答える ! ハチマル的Q & A Part 1 


Q
オートクラッチについて教えてください。 



A
 クラッチ操作を自動化したトランスミッションがオートマチックだ。1930年代にヨーロッパでマニュアルトランスミッションのクラッチ部分だけを自動化したセミオートマチックが誕生した。低価格車に多く採用されたのが、アクセルの操作量によって変速を行う遠心クラッチである。それ以上のクラスでは、アクセル開度に応じた電圧の変化によってクラッチを断続する電磁クラッチが多かった。往年の自動車マニアには吸気管負圧を利用した真空式(バキューム式)のサキソマットもなじみ深い自動クラッチだろう。また、大型車の一部には流体継手を用いた流体クラッチもある。
 煩わしいクラッチ操作から解放され、マニュアル車のようにキビキビと走ることができるのがセミオートマチックの強みだ。マニュアル車のようにシフトレバーで変速操作を行うが、2ペダルである。クラッチを断続する操作は必要としない。これらは自動クラッチ、またはオートクラッチと呼ばれている。
 古くから採用され、もてはやされたのは、低コストで簡単に量産できたからだ。マニュアルトランスミッションをベースにしたシンプルなメカニズムだから、生産性とコストの面で有利だった。変速のためのシフトレバーとギアボックスが機械的につながっているため、修理するのもそれほど難しくない。これもオートクラッチが普及した理由のひとつにあげられる。
 オートクラッチのなかで、もっとも普及したのが電磁クラッチを用いたセミオートマチックだ。一般的なのは、シフトレバーに触れることでクラッチを断続するタイプである。フォルクスワーゲンのビートルやポルシェ911などには、電磁クラッチを用いてイージードライブを提供するモデルが存在した。
 オートクラッチを採用したクルマは日本にも数多く存在する。今ではトラックとバスの専門メーカーとなっている日野自動車も、乗用車を生産している頃はコンテッサにオートクラッチ車を設定していた。富士重工業もオートクラッチにこだわったメーカーのひとつだ。軽自動車のスバル360は64年4月にオートクラッチ車を発売している。その後継モデルとなるスバルR‐2にも搭載車が用意された。また、日産も2代目のチェリー(F‐2)に採用。後継のパルサーにも搭載車を設定する。富士重工業はレックス登場時にオートクラッチを廃している。が、80年3月、レックスにオートクラッチ付きモデルを復活させた。81年9月にFF方式に生まれ変わったレックス・コンビにもオートクラッチ搭載車が用意され、注目を集めている。
 これらのクルマは電磁クラッチ車だが、ダイハツが80年6月に発売したミラ・クオーレはバキューム式のオートクラッチを採用し、話題となった。

ダイハツ クオーレ
バキューム式のオートクラッチを採用したクオーレ/ミラ。イージードライブ機構とうたい、シフトにPレンジがあるのが特徴だった。


 オートクラッチは、手軽なイージードライブ車として60年代から80年代にかけて親しまれた。体の不自由な身体障害者にも愛されている。が、軽自動車やコンパクトカーにオートマチックが採用されるようになると、オートクラッチはイージードライブの牽引車としての役目を終え、すたれた。渋滞が増え、低速走行時のドライバビリティに難があったことも衰退に拍車をかけたようだ。
 軽自動車は一時期、セミオートマチックの2速ATが主役の座に就く。が、80年代後半には上級クラスと同じようにトルクコンバーターを用いたフルオートマチックの3速ATが全盛を迎えている。
 オートクラッチ車の魅力は、メカニズム的にシンプルで、コストの面で有利なことだ。マニュアルトランスミッションと同じように軽快に加速し、燃費もフルオートマチックよりはるかによかったことも普及した理由のひとつにあげられる。70年代まで、オートマチック車はパワーロスが大きく、小排気量車には適していなかった。技術の進歩によって、この弱点が解消されたのが80年代だ。
 ATに主役の座を譲ったが、富士重工業は87年に市場に送り出したジャスティとレックスでECVT(電子制御電磁クラッチ式無段変速機)を実用化し、新世代オートクラッチの扉を開いている。このECVTは、オートクラッチの技術の蓄積から生み出されたものだ。

トルコン CVT
87年2月にジャスティに追加されたECVTは、電磁式クラッチにスチールベルトとプーリーを組み合わせたもの。現代のCVTの源流だ。


掲載:ハチマルヒーロー 2009年1月号 Vol.10(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

RECOMMENDED

RELATED

RANKING