部分強化ガラスって何?〈80Times〉旧車の疑問にズバリ答える!|ハチマル的Q&A Part 1 

AE86の純正フロントガラスは強化ガラスだが、アフターパーツで合わせガラスが発売されている。油膜の跡のような模様が見えるのが強化ガラスで(写真左)、クリアなほうが合わせガラスだ。

1980~90年代にかけては日本の自動車史のなかでも希にみる発展を遂げ、既存のシリーズも新型車も高性能であり贅を尽くした設定のモデルが多数登場する。それから40年近くが経過し、令和の今となってヤングタイマーとして人気車となっている。そんな時代のクルマたちについての素朴な疑問に、自動車評論家の片岡英明さんがわかりやすく回答。旧車の疑問にバッチリお答えする!!

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Q

80年代半ばまでクルマに採用されていた部分強化ガラスは、普通の強化ガラスとどう違うのですか? また、最後の頃まで使われていた車種を教えてください。


A
 自動車にフロントガラスが取り付けられるようになったのは、今から100年ほど前のことだ。それまで、ドライバーは風防メガネをかけて運転していたが、クルマの性能が向上し、スピードが上がってくると顔の大きさに拡大したガラスを用いて風防としている。1909年、フランスのトリプレックスは世界で初めて合わせガラスの実用化に成功したが、初期の自動車は板ガラスが一般的だった。これが一般のクルマに普及するようになったのは20年代だ。

 日本が昭和の時代を迎える30年代にはアメリカを中心にフロントガラスが大きな進化を遂げている。フロントに2枚ガラスを採用した乗用車が登場し、クライスラーのインペリアルはカーブドガラスを採用した。また、スチュードベーカーはリアにもガラスを入れている。安全性を高めるために、板ガラスの改良も精力的に行われた。戦後、自動車のフロントガラスや飛行機、船舶などに採用され、今では自動車のサイドガラスや住宅、ビルのガラスなどに使われているのが「強化ガラス」だ。
 これは板ガラスを強化炉に入れ、ガラスが軟化する約700℃まで過熱した後、ガラスの表面に空気を吹きつけて均一に急速冷却したガラスのことである。表面が先に硬化して安定した圧縮層ができるため、衝撃に対する強度が強化されるのが、この強化ガラスの特徴だ。普通のガラスの3~5倍の強度を持ち、衝撃や圧力、熱変化に耐えられる。しかも万一、破損したときでも破片が細かい粒状になるので、たとえ損傷しても大怪我をせず軽傷ですむ。
 これを発展させた「部分強化ガラス」は、80年代半ばまで生産されていた自動車のフロントガラスに好んで使われていたガラスだ。強化ガラスの特性を持っているが、破砕したときでも運転席の直前の一部を通して運転席の視界が確保できるように特別な処理を行ったガラスのことである。

 しかし、この時期、ヨーロッパやアメリカではフロントに「合わせガラス」を用いていた。アメリカやスウェーデンなどでは使用を義務化している。西ドイツやイギリスなどは法制化していないが、採用車が多かった。日本でも70年代半ばまでマツダは商用車を含む全モデルに合わせガラスを奢っている。合わせガラスは、その名から分かるように、2枚の薄い生板ガラスの間に樹脂などの中間膜を挟み、圧力ガマに入れて接着(圧着)したガラスのことだ。
 耐衝撃性に優れたガラスで、万一、強い衝撃を受けて破損しても強靭な中間膜によって衝撃を受けた部分だけがキズまたはヒビとなり、残りの部分にまで波及しない。破片の飛散を防げるだけでなく対貫通性も優れているなど、安全性の高いガラスである。日に透かしてみれば強化ガラスとの違いが分かるだろう。


 日本では、強化ガラス、部分強化ガラス、合わせガラスの3種類のガラスを「安全ガラス」と呼んでいた。70年代まで、国産車の多くは強化ガラスと部分強化ガラスを採用し、一部の高性能モデルや高級車だけが合わせガラスをはめ込んでいる。合わせガラスを使わないのは、価格が強化ガラスの2倍近かったからだ。
 だが、高速道路などを走行中に風圧や飛び石などでガラスが割れ、蜂の巣状になって飛び散り、失明したり、体ごと車外に放り出される事故が相次いだ。そのため運輸省(現在の国土交通省)は保安基準を改定して全車種に合わせガラスの使用を義務付けている。その期限は87年2月28日だ。これ以降に生産される新車(国産乗用車)には合わせガラスの採用が義務付けられた。ちなみに輸入車は88年3月31日までが猶予期限だ。それ以降に発売される輸入車は合わせガラスでないと日本でナンバープレートを取ることができない。
 80年代半ばには、モデルチェンジやマイナーチェンジを機に、合わせガラスを標準装備にするクルマが急増した。最後まで強化ガラスを使っていたクルマを特定するのは難しいが、80年代半ばまで生産(販売)されていた国産車の多くは強化ガラスだと思っていいだろう。ただし、海外に輸出しているクルマは、仕向け地によっては合わせガラスを用いている。だから部品で合わせガラスを取ることも可能だ。

text:Hideaki Kataoka/片岡英明 Photo:Ryota-Low Shimizu/清水良太郎 Cooperation:Carland/カーランド http://www.carland86.com/

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