今だから語れる80日本カー・オブ・ザ・イヤー 第19回COTY受賞車 アルテッツァ

1998年はスポーツが盛んだった年だ。2月に長野で冬季オリンピックとパラリンピックが開催され、日本中が五輪ムード一色に染まっている。

6月にはフランスでFIFAワールドカップが開催され、日本代表が初めて出場した。このときも、多くの人がテレビの前に釘付けになり、熱い応援を送っている。また、秋には横浜ベイスターズが38年ぶりに日本一に輝いた。

 モータースポーツの世界では、トミ・マキネンがドライブする三菱のランサー・エボリューションがWRC(世界ラリー選手権)で大暴れ、ドライバーズチャンピオンとマニュファクチャラーズチャンピオンに輝いた。F1ではマクラーレン・メルセデスのミカ・ハッキネンがチャンピオンになっている。

 自動車の世界でもっとも大きなニュースは、軽自動車の規格改正だ。660ccの排気量は変わらないが、安全性の向上を目的に、ボディサイズを拡大したのである。新規格のボディをまとった軽自動車は10月に続々と登場し、ニューフェイスも多かった。

 登録車も豊作だ。ビッグネームが相次いでモデルチェンジしている。筆頭はスカイラインだ。5月に10代目のR34スカイラインが誕生した。走りを重視した設計コンセプトは不変で、そのために全長とホイールベースを切り詰めている。パワーユニットは改良型のネオストレート6だ。2Lの直列6気筒エンジンもあるが、主役は2.5Lの直列6気筒とした。4速ATも新技術を加えたM-ATxを採用する。

 40万台を超える大ヒット作となったマツダのロードスターも第2世代となり、正常進化。ボディサイズはほとんど変わっていないが、アイコンのひとつだったリトラクタブルヘッドライトは廃止されている。エンジンも1.8Lの直列4気筒DOHCに加え、1.6Lの直列4気筒DOHCを復活させた。1.8Lモデルにはクロスレシオの6速MTが組み合わされた。

 初代、2代目ともに大ヒットし、ステーションワゴンブームの火付け役となった富士重工業のレガシィも、98年にモデルチェンジを敢行する。3代目もキープコンセプトだ。が、開発リーダーの桂田勝さんは、小型車枠のなかで最高のクルマを目指して開発を行い、自信をもって送り出した。

 6月にベールを脱いだのは、売れ筋のツーリングワゴンとクロスオーバーカーのランカスター(後のアウトバック)だ。セダンはB4を名乗って12月に登場する。主役を務めるのは水平対向4気筒DOHCエンジン搭載車だ。

 RV王国を自負する三菱は、パジェロとパジェロミニの間に、フルタイム4WDを採用した、1.8L直列4気筒DOHCエンジン搭載のジャストサイズSUV、パジェロioを投入。まず4人乗りの3ドアがベールを脱ぎ、夏にホイールベースを延ばし、全幅を広げた5人乗り5ドアのロングボディを追加している。

 意欲的にニューモデルを放ったのがトヨタとホンダである。トヨタはバブルが弾けた後も攻めの姿勢を貫いた。カテゴリーの枠からはみ出した個性的なクルマを積極的に発信したのである。クロスオーバーSUVのRAV4やラウム、カローラ派生のスパシオはその代表だ。また、気持ちいい走りを満喫できる後輪駆動、FRのスポーツセダンにも色気を見せている。その回答が10月に誕生したアルテッツァだ。

 AE86レビン/トレノ以来のFRスポーティーカーで、セダンボディをまとっているが、走りの実力は高いレベルにある。ちなみに海外では、レクサス一族のエントリーモデル、ISシリーズとして販売を行った。

 AS200は2Lの1G-FE型直列6気筒DOHC、RS200は日本専用モデルで、3S-GE型直列4気筒DOHCを積む。後に3Lの2JZ-GE型直列6気筒DOHCエンジンを積むアルテッツァジータAS300も登場した。サスペンションは4輪ダブルウイッシュボーンで、RS200とAS200の6速MT車はトルセンLSDを標準装備する。

 アルテッツァとプラットフォームを共用する大人のFRセダン、ブレビスもCOTYの10ベストに名を連ねた。また、パッケージングに徹底的にこだわったFFセダンのアルデオと機能的なワゴン、ビスタアルデオも送り出す。

 ホンダはSUVテイストのコンパクト・クロスオーバーカー、HR‐Vが注目を集めた。最初は3ドアだけだったが、後に使い勝手のいい5ドアを加えている。また、ハイトワゴンのキャパもホンダらしいマルチパーパスカーだ。軽自動車ではミッドシップ方式4WDの、第2世代ホンダZも脚光を浴びた。

   10台に絞り込まれた新型車のなかから日本カー・オブ・ザ・イヤーの称号を与えられたのはアルテッツァだ。レガシィと激戦の末に勝ち名乗りを上げた。FRならではの気持ちいい走りを、現代のテクノロジーで上手に表現したことが高く評価されている。また、上質な6気筒エンジンを主役にしたプレミアム性の高さも絶讃された。

   特別賞を受賞したのは、個性が際立つホンダZだ。だが、前評判の高かったアルテッツァもホンダZも、その後の販売は今一歩に終わっている。

   インポート・カー・オブ・ザ・イヤーは、5台が最終選考に残っている。そのほとんどがドイツ車だ。

  メルセデス・ベンツは鳴物入りでデビューしたAクラス、BMWは日本人好みの3シリーズが選ばれた。フォルクスワーゲンはベストセラーのゴルフをモデルチェンジし、日本市場に投入。GM傘下のオペルはゴルフのライバル、アストラを刺客として送り出した。ドイツ勢に果敢に挑んだのは、アルファロメオの快速セダン、156だ。

  強豪揃いだったが、激戦のなかから抜け出し、イヤーカーの栄誉を勝ち取ったのはメルセデス・ベンツ初のコンパクト2ボックス、Aクラスだ。走りの実力も高く、燃料電池車としても使えるように、フロアを二重構造にした革新的なパッケージが高く評価された。



全長4400㎜、全幅1720㎜と、実質的には5ナンバーセダンと変わらないコンパクトなFRセダンは、この時代にあっては貴重な存在。スポーティーな4気筒モデルRS200と、6気筒モデルのAS200の2モデルで、それぞれに上級グレードのZエディションが設定された。RS200は6MTと5AT、AS200は4ATのみの設定。4輪ダブルウイッシュボーンサスペンションが、高い運動性能と乗り心地の良さを両立。4気筒モデルのRS200 6MT車には、トルセンLSDを標準装備する。オーバーハングを切り詰め、タイヤを4角に配置するレイアウトで個性的なスタイルとし、高い居住性を確保。6気筒モデルのAS200では、15インチホイールが標準装備。4気筒のRS200 6MT車と5ATのZエディションは17インチが標準装備となる。



インパネは、腕時計の「クロノグラフ」をイメージしたメーター配置が特徴。ペダルはスポーティーなアルミ製を標準装備する。



4気筒モデルは、吸排気ともに可変バルタイ機構を備えるBEAMS 3S-GE VVT-i型エンジンを搭載。6MT車には量産車としては世界初となるチタン合金製バルブを採用している。



6気筒モデルのAS200が搭載するのは、可変バルブタイミング機構を備えたハイメカツインカムエンジンの1G-FE VVT-i型。



黒を基調にしたインテリアは、スポーティーなファブリックシートが標準。4気筒、6気筒の両モデルに設定されるZエディションでは、4ウェイアジャスター付きが標準装備となる。


メルセデス・ベンツ初のFF乗用車Aクラスが、インポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。サンドイッチ構造と呼ばれる特徴的な2層式のフロア構造を採用し、コンパクトなボディながら高い安全性を誇る。メルセデスでは、前年のSLKに続く受賞。



70年代のZは、「水中メガネ」と呼ばれる黒い樹脂性の太枠を備えたリアウインドーが特徴的なクーペだったが、24年ぶりに復活したZは、SUVタイプの4WD車となった。パワートレインを後部座席の下に搭載しているのが大きな特徴だ

掲載:ハチマルヒーロー 2015年 05月号 vol.29(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

TEXT : HIDEAKI KATAOKA/片岡英明

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