今だから語れる80日本カー・オブ・ザ・イヤー 第18回COTY受賞車 プリウス

21世紀へのカウントダウンが始まろうとする1997年は、社会だけでなく自動車にとっても激動の年で、流れが大きく変わった年だった。この年、世界で初めてクローン羊の開発が成功し、香港はイギリスから中国に返還されている。日本では4月に消費税が3%から5%に引き上げられ、景気が落ち込んだ。

 自動車関連のニュースとしては、岡山自動車道の全線開通や東京湾アクアラインの開通が注目を集めている。モータースポーツの世界では日本車が大暴れした。世界ラリー選手権ではスバルがマニュファクチャラーズ3連覇を達成。ライバルの三菱は、トミー・マキネンがドライバーズチャンピオンになっている。また、ダカールラリーではパジェロを駆る篠塚建次郎が日本人として初めて総合優勝を成し遂げた。

 新しい時代の幕開けを告げる革新的なクルマも目白押しだ。1月にトヨタはコンパクトサイズのミニバン、カローラ・スパシオを送り込む。2列シート仕様のほか、3列シートの6人乗り仕様が用意され、いざというときには重宝した。また、デュアルSRSエアバッグやABSを標準装備している。このころから安全に対する意識が強まり、各メーカーは衝突安全ボディなどの開発にも力を入れ始めた。

 2月には富士重工業がフォレスターを送り出している。これはインプレッサのメカニカルコンポーネンツを用いたクロスオーバーSUVだ。SUVルックをまとったフルタイム4WDだが、2.0LのDOHCターボを設定するなど、刺激的な走りを見せつけた。3月には、いすゞ自動車が個性派クロスオーバーSUVのビークロスを発表している。エンジンは3.2LのV型6気筒DOHCだ。駆動方式はトルクスプリット式のフルタイム4WDだった。

 消費税が5%に引き上げられた4月には、トヨタが先陣を切ってプレミアムワゴンのマーク2クオリスを投入する。マーク2を名乗っているが、カムリ・グラシアをベースにしたFF車で、4WDも設定した。

 5月には直噴システムのGDIをパジェロのV型6気筒エンジンに採用。その直後に日産がキャラバンとホーミーをキャブオーバースタイルから短いボンネットを持つミニバンへと進化させ、車名もエルグランドとしている。後輪駆動で、ボディは3ナンバーのワイドボディだ。ガソリンエンジンは3.3LのV型6気筒、ディーゼルターボは3.2Lの直列4気筒だった。

 また、トヨタも新しいコンセプトのコンパクトカー、ラウムをファミリーカー市場に送り込んでいる。6月には日産のローレルがモデルチェンジを断行し、スタイリッシュに生まれ変わった。目指したのは、大人のためのスポーティーセダンだ。これがローレルにとっては最後の作品となった。

 後半戦のトップを切って登場したのはマツダのカペラで、ライバルたちが3ナンバー車に肥大して行くなか、7代目カペラは小型車枠を守り通した。その翌日には、ホンダ・シビックのホットバージョン、タイプRが登場。エンジンは1.6Lの直列4気筒DOHC・VTECだが、リッター当たり出力100psを誇示する。

 プレミアム指向に加え、走りにこだわるクルマ好きのために誕生したアリストもモデルチェンジを果たし、2代目になった。取り回し性を向上させたボディに搭載されるのは、3.0Lの直列6気筒DOHCエンジンだ。初代と同じようにパワフルなターボ車もある。

 9月は新車ラッシュだ。アコードが4年ぶりにモデルチェンジを実施し、5代目となった。意外にもダウンサイジングして5ナンバー車になり、兄弟車のトルネオも誕生する。セダンとワゴン、どちらも日本専用モデルだ。その3日後にはトヨタのステーションワゴン、カルディナが2代目に生まれ変わった。キープコンセプトだったが、走りの実力はレガシィに肉薄する。

 そして10月14日、トヨタは1.5Lアトキンソンサイクル直列4気筒ガソリンエンジンに電気モーターを組み合わせた、世界初の量産ハイブリッド車、プリウスを発表した。「G21プロジェクト」と呼ばれてスタートしたプリウスは、役員から「燃費を100%アップしなければ開発は中止!」と脅されたが、見事、2モーターのハイブリッドシステムによって10・15モード燃費28.0㎞/ℓを達成している。

 日産はプリウスの1週間後にクロスオーバーワゴンのルネッサを発表した。このクルマもハイブリッド車や燃料電池車の開発を意識したパッケージングだ。RV王国の三菱のRVRとシャリオをモデルチェンジした。両車は兄弟関係にあり、3列シートのドライバーズミニバンはシャリオグランディスを名乗っている。自慢のエンジンは直列4気筒の直噴GDIだ。

 日本カー・オブ・ザ・イヤーの10ベストには、97年に発売されたニューカーだけでなく96年11月に発表されたホンダのS-MXもノミネートされた。このなかから97‐98日本カー・オブ・ザ・イヤーの称号を勝ち取ったのは、世界初の量産ハイブリッド車としてセンセーショナルなデビューを飾ったトヨタのプリウスだ。21世紀を先取りした画期的なメカニズムを備え、パッケージングにも新しさを感じさせる。

 発売は12月中旬だったが、発表直後から問い合わせが殺到するなど、多くの人が注目し、話題となった。このプリウスに採用された技術の数々は、今のクルマにも積極的に採用されている。

 そしてインポート・カー・オブ・ザ・イヤーに輝いたのは、新鮮なパッケージングと気持ちいい走りが高く評価されたルノー・メガーヌ・セニックだ。VWパサートやアウディA6、メルセデス・ベンツCLKといったドイツ勢とボルボ40シリーズを押しのけて栄冠を勝ち取っている。また、特別賞は個性的なデザインと卓越した走破性能を誇るいすゞのビークロスが受賞した。



1997年12月に発売を開始。ガソリンエンジンと電気モーターを併用した、世界初の量産型ハイブリッド車として、大きな話題をさらった。近未来的なフォルムの4ドアセダンボディは、全長4.3m程度、全幅1.7m以下と、カローラに近いサイズ感。



状況に応じて、エンジンとモーターを使い分ける(または併用する)スプリット方式を採用する。


斬新なセンターメーターデザインを採用したインテリア。5.8インチのモニターを最初から取り込んだデザインは、時代をリードしたものといえる。


高出力、長寿命を求めて開発された高出力Ni-MH(ニッケル水素)バッテリーシステム。



バッテリーの直流電流を交流電流に変えてモーターに送り、モーターの出力を制御する役割のインバータユニット。



エンジン部分は直列4気筒1.5ℓのアトキンソンサイクルエンジンを採用。28km/ℓという驚異的な燃費を達成した。



93年に乗用車の生産を終了していたいすゞが放ったSUV。93年にモーターショーに出展したショーモデルのデザインを忠実に再現したデザイン性の高さが売り。現在、世界的に人気の高いプレミアムSUVの先駆けといえる存在だ。



ルノー・メガーヌ・セニックは、前年に登場したメガーヌをベースに開発された小型ユーティリティーカー。今でこそ一般的になったコンパクトミニバンの先駆者的なモデルだ。欧州カー・オブ・ザ・イヤーをメガーヌとともに獲得している。

掲載:ハチマルヒーロー 2015年 02月号 vol.28(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

TEXT : HIDEAKI KATAOKA/片岡英明

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