日本初のスポーツモード付き4速AT!|今だから語れる80日本カー・オブ・ザ・イヤー 第15回COTY受賞車 エフティーオー

       
今から20年前の1994年は、リレハンメルで冬期オリンピックが開催された年だ。南アフリカ共和国ではアパルトヘイト撤廃に向けて、人種制限のない普通選挙が行われた。そして5月にネルソン・マンデラさんが黒人初の大統領に任命されている。

 日本でも村山富市さんが首相になった。豊田章一郎さんが経団連の会長に就いたのも、この年だ。快挙としては、大江健三郎さんのノーベル文学賞受賞があげられる。日本初の女性宇宙飛行士、向井千秋さんを乗せたスペースシャトルが打ち上げられたのも94年だ。

 悲しい出来事も多かった。ホンダのF1エンジンをチャンピオンに導いたアイルトン・セナ選手がサンマリノ・グランプリで事故死したのである。日本にもファンが多かっただけに、衝撃が走った。また、ギャルの聖地であり、パラダイスだったジュリアナ東京が閉店に追い込まれている。これはバブル終焉を意味する出来事だ。

 自動車の世界では、RV戦略がことごとく当たった三菱自動車の元気さが目立った年だった。この年、三菱は積極的にニューモデルを発売している。デリカスペースギアやパジェロを軽自動車にダウンサイジングしたパジェロミニなど、RV攻勢を強めたが、スポーティーモデルも投入した。それが10月にリリースした三菱FTOだ。

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 三菱は、90年秋にGTOの名を復活させている。FTOは、スポーティークーペ路線のリバイバル第2弾として市販に移された。初代と同じようにGTOの弟分と位置づけられ、エクステリアも日本車離れしたアグレッシブなデザインだ。太いCピラーを持つショートデッキのノッチバッククーペで、異形ヘッドライトを採用した顔立ちもスポーツカー的なルックスだった。

 ノーズは薄く、そこから峰を立て、ウエービングさせながらリアエンドへと続くボリューム感のあるサイドラインも斬新だ。ハイデッキのリアエンドはスパッと切り落とされた。小振りな横長コンビネーションランプの上にはスポイラーが付いている。

 全長は4320mmと短いが、存在感は強い。全幅は1735mmだ。小型車枠を超えた3ナンバー、普通車枠に踏み込んだボディを採用する。全高も1300mmと、かなり低い。

 デザイン以上に目を引くのはパワーユニットである。3機種のエンジンを設定しているが、もっともパワフルなのは可変バルブタイミングにリフト機構を加えたMIVEC採用の2LV型6気筒DOHCエンジンだ。この6A12型エンジンは過給器に頼らず200ps/20.4㎏‐mを達成した。MIVEC機構のない6A12型DOHCエンジンは、170ps/19.0㎏‐mを発生する。もう1機種は、直列4気筒SOHCの1.8Lエンジンだ。

 エンジンとともに注目を集めたのがトランスミッションである。日本で初めてスポーツモード付きの4速AT、INVECSⅡを主役の座に据えた。これはドライバーの意思で操作して好みのギアに入れる、マニュアル車感覚のシーケンシャルシフトだ。今では珍しくないが、当時はセンセーショナルだった。ちなみに全グレードに5速MTも設定している。

 サスペンションはストラットとマルチリンクだ。駆動方式は前輪駆動のFFで、自慢の4WDはない。V6エンジンを積みながら、優れた回頭性を披露した。ステアリングを切り込むとノーズがスッと入り、オン・ザ・レールの気持ちいい走りを楽しめる。

 この年は久しぶりのヴィンテージイヤーだった。日産は新世代ラグジュアリーFFセダンに生まれ変わったセフィーロを市場に投入する。注目はパワーユニットで、こちらも3Lと2.5LのV型6気筒DOHCだ。このVQ系V6エンジンは、VG系に代わる新世代V6だった。キャビンも広くて快適な上級ファミリーカーで、幅広いユーザー層に愛されている。

 また、コンパクト・ファミリーカーのサニーもモデルチェンジし、5月にはリーンバーンエンジンの追加とともに個性派クーペのルキノを送り込む。

 トヨタはサニーのライバルに成長したターセル/コルサ/カローラIIが注目の存在である。ビスタ/カムリ、セルシオと、4ドアセダンも一新し、さらに快適性を高めた。が、ジャーナリストの視線を集めたのは、クロスオーバーSUVの先駆けとなるRAV4の発売だ。デビュー時は3ドアのショートボディだけである。が、余裕ある2Lのハイメカツインカムを搭載。これにフルタイム4WDを組み合わせ、刺激的な走りを楽しめた。

 ホンダからは、クリエイティブムーバー(生活創造車)を掲げてオデッセイが登場する。マルチパーパスのミニバンだが、アコードベースで、他のミニバンより背が低い。また、パーソナルジェットをイメージした、快適な6人乗り仕様も用意された。

 これらのほか、マツダは名門のファミリアをモデルチェンジさせたし、ダイハツも主力の軽自動車、ミラを一新する。ミラは上質なモデルノや刺激的なTR‐XXアバンツァートなど、ワイドバリエーションを誇り、軽自動車のチープさを払拭した。

 このなかから日本カー・オブ・ザ・イヤーの栄誉を手にしたのは、三菱のFTOだ。上質なV型6気筒エンジンのパワーフィールとスポーツモード付き4速ATの操る楽しさ、意のままのハンドリングなどが高く評価された。また、特別賞には、新しい価値観を提案したオデッセイが選ばれている。

 この第15回日本カー・オブ・ザ・イヤーでは輸入車にもスポットライトが当てられている。輸入車の販売シェアは年を追うごとに拡大してきた。そこで輸入車の存在意義を高めるために「インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」を設定したのである。

 一世を風靡したメルセデス・ベンツの190の後継として登場したCクラスを筆頭に、BMW3シリーズ、オペルオメガ、ジャガーXJシリーズ、ファラーリF355などの中から、ハレの受賞車に選出されたのは、新しいコンパクト・ファミリーカーの価値を提案したベンツのCクラスだった。



FTO
90年にGTOの名前を復活させた三菱が放った「第2弾」がFTOだ。初代の(ギャラン)GTO/FTOの関係と同様に、GTOの弟分的なキャラクターが与えられた。ボディはGTOよりも一回り小柄で、日本車離れしたデザインが話題になった。駆動方式は、GTOやエクリプスと違って、4WDは用意されず、FFのみのラインナップだ。

FTO
インテリアはパーソナルクーペとしてのスポーティー感と演出。隣に彼女を乗せて走るためのスペシャリティーカーとしての側面もあり、プレリュードやセリカ、シルビアなどをライバル車として想定していたようだ。

FTO
フロントシートは、ヘッドレスト一体型のスポーティーなバケット形状のシート。シート表皮はミックス柄でオシャレな雰囲気を演出。

FTO
日本初のスポーツモード付き4速AT INVECSⅡを装備。今でこそ当たり前になったマニュアルシーケンシャルシフト付きATだが、日本初ということで、大いに話題になった。

Mercedes
輸入車の販売シェアが拡大されてきたこともあり、この第15回から設定されたインポート・カー・オブ・ザ・イヤーには、メルセデス・ベンツCクラスが輝いた。これは輸入車のなかで最も高得点を獲得したクルマに与えられる賞だ。



クリエイティブムーバー(生活創造車)を掲げて登場したオデッセイは、特別賞を受賞。他のミニバンよりもルーフを抑えた独特のフォルム、走りを意識したコンセプトは、4代目まで引き継がれることになる。


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掲載:ハチマルヒーロー 2014年 05月号 vol.25(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Hideaki Kataoka / 片岡秀明

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