運転免許とセットでセールスされたパブリカを1967年に購入 以来乗り続けているワンオーナー パブリカ 800 1

それほど重たいモノを運ぶこともなかったので、軽自動車でも事足りていた。しかし、やってきたディーラーの営業マンから意外な提案があったという。そのおかげで、今ここに美しき一台のクルマが存在している。

67年式 パブリカ800デラックス

トヨタ初の小型大衆車として1961年に発売されたパブリカ。当初0.7リットルだった排気量は66年のマイナーチェンジで0.8リットルに拡大され、パブリカ800を名乗ることになる。
 67年式パブリカ800デラックスを購入し、以来乗り続けている石山四郎さん。
 その出合いには意外な経緯があった。
 パブリカ ヘッドライト


 福島県の片田舎で、カタカタと動く機械を道ばたから食い入るように眺めていたのは、幼い頃の石山さん。
 その視線の先には、女中さんが器用に操るミシンと、縫い上げられる洋服だった。

 モノを作ることが好きだった石山さんは、その姿を夜遅くまで眺めていたという。あまりにも遅いので、父親によく怒られた。
 当時、小学4年生だったが、すでにその時、ミシンを使う仕事、洋服を作りたいと心に決めていた。

 学校を卒業し、就職を迎えた石山さんは迷わず、テーラーという仕事を選んだ。
 当時は奉公という形で技術を身につけるため、東京の新橋へ奉公に出た。
 初めての東京で不安だったというが、故郷に錦を飾るつもりで、仕事に励んだという。

 幼い頃から目指していた職業だけに、技術は日に日に身に付いていった。
 4年の年季を終え、礼奉公として2年働いた後、裁断の勉強のため学校へ行き、晴れてテーラー職人となった。
 その後3年間、テーラーの社員として働き、お金を貯め、27歳の時に独立。「テーラー石山」をスタートさせたのだ。

 独立するまでの間、幼い頃も含めて、まったくといっていいほどクルマとの縁はなかった。
 しかし、仕事をするうえで、何らかの移動手段が必要になってきたのだ。
 それは、テーラーという仕事柄、必要不可欠なモノだった。

 洋服の注文を受けたりと、すべてが店舗の中で終える仕事ではなかった。採寸、仮縫い、配達など、その都度、お客の所へ行かなければないことも多い。
 そこで最初は中古の自転車を購入。その後スクーターを手に入れたが、すぐに手放すことになった。
 あまりの寒さで領収書を書けなかったこともある。
 
 そして、何よりも自身の移動だけであればよかったが、洋服を運ぶ際にバイクでは都合が悪かったのだ。
 生地を守るためには雨風をしのがなければならなかった。
 そして選んだクルマがスバル360。
 当時、発売し始めたばかりのクルマで、屋根付きの移動手段としては最適であった。
 運ぶモノも洋服とあって、この小さな軽自動車で十分に仕事をこなしていた。
 
 スバル360では家族旅行へも行ったという。仕事用ではあったが、子供も生まれ、さまざまな場面で重宝していた。

 しかし、今では考えられないことだが、ある日、トヨタのディーラーから営業マンがやってきて、軽自動車からの乗り換えを勧めてきたという。

 「当時、私は軽自動車の免許しか持っていなかったし、軽自動車で十分でした。トヨタに軽自動車があるわけでもなく、トヨタのクルマを買うには免許を取る必要があったんです。すると、ディーラーの営業マンが免許を取らしてくれるというんですよ。まだ、当時は普通自動車の免許を持っている人も少なく、ちょっと驚きましたね。その営業マンの熱意に負けて、免許を取りに行きました」

 ディーラーと教習所がどのようなつながりだったか、石山さんは分からなかったが、ほどなくして教習所へ通うことになり、なんなく免許を取得できたという。
 1科目300円で、合計約3万円もの費用を営業マンが出費してくれたという。しかも、石山さんは友達を誘って、数人でその恩恵にあずかったということだ。

 そして、普通自動車免許を取り、友人と一緒にトヨタのクルマを購入することになった。
 仕事で8年間もスバル360に乗っていたこともあり、なるべく小さいクルマがいいと思っていたという。

 当時、トヨタ乗用車のラインナップはパブリカ、コロナ、クラウンの3種ぐらい。この中で一番小さいクルマということでパブリカが選ばれたのだ。
 「軽自動車と似たようなサイズで、独立したトランクルームを持った3ボックススタイルがとても可愛く感じました。スタイリングも新鮮で、どことなく紳士的な雰囲気がパブリカから漂っていて、すぐに惚れ込んでしまったんです」


コンパクトなボディサイズながら手の込んだデザインを採用したパブリカ。石山さんはこのスタイリングから紳士的なイメージを感じ取った、最初はトヨタの一番小さなクルマということだったが、最終的に石山さんの志向に一番合っていたのがこのパブリカ800だったのだろう。



リアトランクフードに取り付けられている「DELUXE」のエンブレム。その下にはスッキリとしたデザインのリアコンビネーションランプが装着されている。




エンジンルームは驚くほどシンプルな構造だ。空冷方式の恩恵を受け、コンパクトなエンジンユニットが完成した。おかげでメンテナンスしやすく、今でも元気に可動するのだろう。



独特の「パブリカ」の文字にUP20が刻印されたプレート。シリンダー数、最高出力などが明記されている。左フロントサスペンションの上部付近に装着。


掲載:ノスタルジックヒーロー2008年08月号 vol.128(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

photo:Tatsuo Sakurai/桜井健雄

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