今だから語れる80日本カー・オブ・ザ・イヤー 第10回COTY受賞車 セルシオ

年号が昭和から平成に変わった1989年は、日本が世界に通用するクルマを積極的に送り出した年だ。日産は今も名車として語り継がれているR32スカイラインとZ32フェアレディ300ZXを送り出した。マツダもFRオープンスポーツのユーノス・ロードスターを発売し、日本だけでなく海外でも大きな話題となっている。  

 トヨタも負けずと、カリーナEDやFFセリカ、トヨタMR2などを第2世代にモデルチェンジ。だが、最高傑作はクラウンの上に位置するプレステージ性の高いプレミアムセダンとしてリリースされたセルシオだ。海外展開のために設立した「レクサス」チャネルのフラッグシップで、海の向こうではLS400を名乗っている。  
 
 トヨタは80年代になると積極的に新世代ツインカムを開発し、エレクトロニクス技術にも力を注いだ。その努力は80年代半ばから花開く。クルマは高性能になり、信頼性も飛躍的に高まっている。だが、日本一の自動車メーカーでありながら、トヨタには世界が認める高級セダンがなかった。トヨタの頂点にはVIP向けのセンチュリーが用意されていたが、これは後席重視のショーファードリブンだ。  

 世界に通用する高級なドライバーズカーの開発はトヨタの首脳陣にとってもエンジニアにとっても悲願だった。これを実現したのが、時代を先取りした「源流対策」を徹底し、「技術革新」に力を注いだセルシオである。トヨタの技術の粋を集めて開発され、89年1月のデトロイトショーでレクサスLS400がベールを脱ぎ、10月にセルシオの正式発表となった。  エクステリアはオーソドックスだが、飽きのこないエレガントなデザインだ。驚かされるのは、燃費向上のために徹底して空力性能を磨いたことである。当時はベンツ提唱のハイデッキスタイルが主流だったが、デザイナーは低いトランクの美しいシルエットにこだわっている。にもかかわらず、セルシオはセダンとして世界トップレベルのCd=0・29を、レクサスLS400の欧州仕様ではCd=0・28を達成した。  
 
 エンジンは4ℓのV型8気筒ハイメカツインカムだ。その当時としては大排気量だったが、アメリカのガス税をクリアする低燃費を実現した。また、痛快だったのは静粛性に代表される快適性能である。ベンツやBMW、キャデラックなどの高級車をはるかに凌駕する静粛性を実現し、老舗の高級車メーカーをあわてさせた。  もちろん、動力性能も世界トップレベル。早い時期から最高速度は250㎞/h確保を目標に掲げ、パワーだけでなく操縦安定性もセダンとしては最高レベルを狙っている。サスペンションは4輪ダブルウイッシュボーン。A仕様はコイルバネ、B仕様は画期的なピエゾ素子を使った電子制御サスペンションTEMS、トップグレードのC仕様は電子制御エアサスペンションと3タイプを設定する。  

 インテリアも仕立てがいい。自発光式の電子式アナログ表示のオプティトロンメーターを採用し、インパネなどに積極的に本木目パネルを採用した。21世紀の高級セダン像を提案し、日本車の技術水準を大きく引き上げたのが初代セルシオである。当然カー・オブ・ザ・イヤー受賞の最有力候補だった。  

 セルシオが発表された8日後、日産はインフィニティQ45を発売。こちらは4・5ℓのV型8気筒DOHCエンジンを積み、サスペンションは4輪ともマルチリンク。しかも先進的なアクティブサスペンションによって異次元のハンドリングとさえたフットワークを身につけている。このインフィニティQ45もカー・オブ・ザ・イヤーを狙える位置にいた。  

 さらに、日産にはもう2台、新しい技術をふんだんに盛り込んだすばらしいクルマがあった。Z32フェアレディ300ZXとR32スカイラインだ。Z32はエモーショナルなデザインで、エンジンは3ℓのV型6気筒DOHC。ツインターボは国産最高の280psを誇示した。サスペンションもマルチリンクに4輪操舵のスーパーHICASやビスカスLSDを組み合わせた。  

 また、8代目のR32スカイラインはデザインからメカニズムまで、真のフルモデルチェンジを行った意欲作で、最大のニュースとなったのは「GT‐R」を復活させたことだ。2ドアのクーペボディに2・6ℓのRB26DETT型DOHCツインターボを搭載し、驚異的な加速を見せつけた。ハイパワーを支配下に置くために電子制御トルクスプリット式のフルタイム4WDを採用する。このスカイラインもカー・オブ・ザ・イヤーの有力候補だった。  

 マツダは新チャネルとして立ち上げたユーノス店のイメージリーダーとしてロードスターを送り出している。フルオープンのFRライトウエイトスポーツで、意のままの気持ちいい走りを存分に楽しむことができた。さらにスバルからは、傑作の誉れ高いレガシィが、ホンダからは異色の直列5気筒エンジンを搭載したアコードインスパイアと兄弟車のビガーが登場した。  

 89‐90日本カー・オブ・ザ・イヤーはヴィンテージイヤーとなり、強豪がひしめいている。そのなかから抜け出したのはセルシオだ。さりげない高性能に加え、ケタ違いの快適性能を実現し、富裕層をとりこにした。欧米の名門たちを震撼させたセルシオは、圧倒的な強さでCOTYの称号を手に入れるとともに高級車のベンチマークの栄誉も手に入れている。


セルシオ
空力性能に優れた流行のハイデッキデザインを採用せず、トランクの低い美しいシルエットにこだわりセダンらしいたたずまいを見せるセルシオ。それでもCd値は0.29という世界トップレベルの空力性能を誇った(欧州仕様のレクサスLS400では同0.28)。グレード構成はオーソドックスなショックアブソーバーとコイルバネを持つA仕様とピエゾ素子を使った電子制御サスペンションのB仕様。そしてエアサス装備のC仕様の3タイプ。C仕様には、ショーファードリブンを意識して、リアパワーシートやリアシートヒーター等を備えたFパッケージ装着車も設定された。

セルシオ
ウッドパネルには最高級素材であるウオールナットが使用されている。模様まできっちりそろった格調高い木目が高級車の証し。


セルシオ
A仕様からC仕様まで、標準装備のインテリアはファブリックだが、B仕様、C仕様にはオプションで本革仕様を選ぶこともできた。クッションやシートバックなど大きな力が加わる場所には、伸びが少ない牛革の背中部分を採用。素材だけでなく、使用する部位にまでこだわって仕立てたインテリアは、高級感にあふれ居心地の良さも抜群。よくできた応接間のようなシンプルで高品質なインテリアだ。

セルシオ
4輪ダブルウイッシュボーンサスペンションに加え、ホイールストロークに応じて硬さをコントロールする電子制御エアサスペンションを装備し、フラットな乗り心地と高速走行での操縦安定性を高いレベルで両立させることに成功。

セルシオ
エンジンは新開発のV型8気筒4ℓ DOHCの1UZ-FE型。豊かなトルクと余裕のパワーを生み出すエンジンは、静粛性も抜群。ECT-iの電子制御4速ATと相まってどこまでもスムーズな走りを提供する。

ロードスター
1.6ℓ DOHCエンジンを搭載した軽量コンパクトなフルオープンのユーノス・ロードスター。「人車一体」の感覚を楽しめるライトウエイトスポーツカー。

スカイライン
「GT-R」の名前が復活したR32スカイライン。GT-Rのポテンシャルの高さははもちろんだが、2ℓ級セダンとしては、異例に短いホイールベースとされた4ドアセダンモデルのスポーツ性も非常に高い。



掲載:ハチマルヒーロー 2013年 02月号 vol.20(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Hideaki Kataoka / 片岡秀明

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