「将来どっちに乗りたいんだ」緑と赤、2台のこれから。【3】過去と未来をつなぐ、2台のダットサンB210

2台がそろうと、それがまるで当然かのようにアドラーさんが赤、父親のボブさんが緑のB210を運転した。「もともと240Zがかっこよかったからあこがれた。でもZは高価で手が届かなかった」とボブさん。背景の木々の色に溶け込む緑のB210は高級感を漂わせ、木々の緑の中に浮き立つ赤はスポーツカーのように走り抜けていくピカピカの2台。共に光を反射する姿がきらびやかだった

       
複数台の旧車を所有するオーナーには、いくつかの傾向があるようだ。ある人は自分が好きな異なった車種を並べる。別の人は自分が好きな1車種にこだわって、歴代の型式やグレード違いを集めて楽しむ。そしてもう一つは同じ車種、同じグレードを何台も手に入れる人。それぞれのこだわりがオーナーの趣味を表しているのだが、今回紹介するオーナーは、子供の頃の思い出のクルマをずっと探し求めて、ようやく自分の元に引き寄せたのだった。

【アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方  過去と未来をつなぐ、2台のダットサンB210 Vol.3】

【2】から続く

 子供の頃の思い出といえば、いつも赤いダットサンと一緒だったこと。アドラーさんは文字どおり、ボブさんの赤いB210の中で子供時代を過ごした。

「父の膝に座って、ペダルに足こそ届かなかったけれど、ハンドルとシフトを操作したこともある。遠出をすれば後部座席に横になり、丸いドームランプのある天井を見ながら眠った」
 あのときと同じ景色が見たい。だからこそ室内の詳細にもこだわる。

 コーヒー豆と関連機器販売会社の管理職として平日を過ごすアドラーさん。週末が家族とクルマと過ごす時間だ。まだ所有して日の浅い赤のほうはやることがまだまだたまっている。

「去年初めて赤でLAのイベントへ行った時、ある人がディーラー製のクーラーを譲ってくれたんです。父の乗っていた赤にはディーラー製クーラーが付いていたから。GXのストライプも付けたい。昔の父のクルマのように」
 今年の秋のイベントが終わると大仕事が待っている。ダッシュボードを外し譲ってもらったクーラーの取り付けと、動作していないラジオの修理だ。

 緑のB210にだってすでに10年間所有した思い入れがある。だからアドラーさんは2台とも手元に置くことにした。奥さまはエレガントできれいな緑のほうが好きだという。16歳のお嬢さんはクルマにはあまり興味がなく、10歳のジェイデン君はクルマが大好き。それぞれ好みは分かれていても、みんなが2台とも気に入っている。
 悩みのタネは駐車場。ガレージが必要になったので黄色の1台は手放して、とりあえず2台分を確保した。

「しかし今年いっぱいで1台分が使えなくなる。一度手放したら将来再び見つかることなどありえないだろうから、どうしても2台とも維持したい」
 機会を見つけては息子にも自分と同じように運転の練習をさせている。同じ体験をしてるんです、と語るアドラーさん。ジェイデン君だって緑のクルマにお父さんとおじいちゃんと一緒に乗った10年分の思い出が詰まっている。

 アドラーさんが将来どっちに乗りたいんだと聞いた。
「赤いほう」
 間髪入れずに答えたジェイデン君。
「将来は、2台とも引き継いでもらうことになるだろうな」
 アドラーさんが頼もしそうなまなざしでつぶやいた。


>> 【画像14枚】カリフォルニア州バークレー市にあるアドラーさんの実家の前は、クルマ1台がギリギリ通れる路地で、奥に入ると開けた駐車場になっている。40年前の写真を撮影したのは母親のジョージーさん。「私はエレガントな緑のほうが好き。とても清潔で新車のようだわ」と好みを語った奥さん。ジェイデン君はB210と一緒で始終ニコニコだった




この2つの個体は製造がわずか2カ月異なるだけ。2台を比べて興味深いのは当時の排ガス対策の違いが表れていることだ。緑色の個体はテキサス州で、赤はカリフォルニア州で販売された車両。排ガス規制の始まった当時、人口密度が高く環境保護意識の強かったカリフォルニア州では、全米基準よりも厳しい規制を州政府が決定した。そのため当時はカリフォルニア仕様と、他州仕様のクルマが別々に製造されたのだ。その違いはエアクリーナーにつながるホースの数などに見て取れる。緑色の個体にはメーカー純正のクーラーが備わっていた。






排気系に付く触媒の有無も異なっている。赤の個体には触媒の装着が確認できた。非カリフォルニア仕様の緑色の個体は触媒のあるべき位置のシャシーにくぼみがあるが触媒は備わっておらず、排気管がまっすぐ延びるだけ。


初出:ノスタルジックヒーロー 2017年12月号 Vol.184
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

過去と未来をつなぐ、2台のダットサンB210(全3記事)

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【1】【2】から続く

text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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