40年近い時を隔て撮影された2枚の写真。ある日突然、赤のGXが見つかる【1】過去と未来をつなぐ、2台のダットサンB210

1978年式ダットサンB210のGXグレードの2台。緑と赤、どちらもオリジナルのままの実に美しいコンディションだ。両車にはディテールの違いがいくつか見られ、サイドモールの取り付け位置もそのうちのひとつ。「それぞれのディーラーで任意の高さに取り付けたのだと思います」とオーナーのエイジェイ・アドラーさんは説明した。

       
複数台の旧車を所有するオーナーには、いくつかの傾向があるようだ。ある人は自分が好きな異なった車種を並べる。別の人は自分が好きな1車種にこだわって、歴代の型式やグレード違いを集めて楽しむ。そしてもう一つは同じ車種、同じグレードを何台も手に入れる人。それぞれのこだわりがオーナーの趣味を表しているのだが、今回紹介するオーナーは、子供の頃の思い出のクルマをずっと探し求めて、ようやく自分の元に引き寄せたのだった。

【アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方 過去と未来をつなぐ、2台のダットサンB210 Vol.1】

 今から14年前、あなたはいくつだったでしょうか。そのときの夢を、今でも覚えていますか。
「14年間。14年間も探し続けたんです。ようやく見つけることができた」
 鬱積していた思いを吐き出すように、興奮した声でエイジェイ・アドラーさんは言った。アドラーさんは以前このコーナーに登場してくれたこともあるダットサンB210の熱狂的ファン。本誌161号で紹介した淡い緑色のクルマを覚えている方もいるだろう。そのアドラーさんが14年かかってようやく見つけたというのは、同型B210の赤色の個体だった。

 赤のB210、GXグレードということに特別な意味がある、と強調したアドラーさん。それは40年も前のこと。父親のボブ・アドラーさんが初めて買った新車が赤いB210だった。大人になったアドラーさんは幼少時代の思い出を胸に、同じクルマを自分で運転したくなったのだった。

 探し始めてから4年目、緑色のB210を手に入れた父の日のエピソードは紹介した通り。美しい個体だったが、アドラーさんは心の中で今一つ満足していなかったようだ。


>> 【画像14枚】40年近い時を隔て撮影された2枚の写真など「あの日、父は新車のB210に乗って帰宅した。初めての新車だった。そのまま私を乗せてドライブに出かけた。最高の日だった」8歳のときのこと、とアドラーさんは回想した。右の写真(アドラーさん提供)を撮った日から40年近い時が流れた。2人は年を取っても、実家前の路地の茶色い木塀は当時のままだ。赤いB210を見つめるアドラーさんの目は、今でも幼心の好奇心を思わせる純粋な眼差しそのものだった。


「赤に塗装することも一瞬考えたんですよ。でも内装がベージュでしょ。それを黒に変えるのは並大抵のことじゃない。現実的な方法じゃないな、って。だから少なくとも内装が黒の個体を見つけたかった」
 緑のB210を大切に乗りながらも次の1台を探し続けた。譲れない条件は黒の内装。そんな1台に3年前インターネットオークションで出合った。

「黄色のサビだらけの個体でした。カリフォルニアからは遠いテネシー州にあって、GXではなくプラスモデルというグレード。それでもとにかく購入したんです。外見を変えるためにGXのバッジまで手に入れた」
 しかし見るからにサビがひどく、レストアには相当な金額がかかりそうだった。手をつけるのをためらう間に1年がたった。そんなある日のこと。

「いつものようにインターネットでパーツ探しをしていました。するとカリフォルニア州内に、赤の1978年式GX、オリジナルの5MT、条件にドンピシャの個体を見つけたんです」

 売り手の説明には、乗っていた母が亡くなり数年間は動かしていたがもう手放すことにした、とあった。実車を見たくなったアドラーさんは早速連絡をとり、翌日ボブさんと一緒にでかけていった。クルマの状態を確認するとすぐさま携帯電話を手にとってオークションの落札手続きを済ませ、次に銀行へ走って残金を準備して支払った。夢にまで見た赤いB210。これでもう自分のものだ。

「乗って帰る間、フリーウェイで昔の思い出がフラッシュバックしてきました。やっと見つけたという感激だけでなく、自分で運転してるんだって思ったら、もう居ても立っても居られなくなった」

 もう1年以上前のことですね、と軽快な口調でうれしそうに話を続けていたアドラーさんに、隣で聞いていた父親のボブさんがいつもと変わらないゆっくりした低い声で、皮肉交じりの合いの手を入れた。
「エイジェイ、お前、最近は赤いほうばかり運転しているじゃないか」






「あの日、父は新車のB210に乗って帰宅した。初めての新車だった。そのまま私を乗せてドライブに出かけた。最高の日だった」8歳のときのこと、とアドラーさんは回想した。右の写真(アドラーさん提供)を撮った日から40年近い時が流れた。2人は年を取っても、実家前の路地の茶色い木塀は当時のままだ。赤いB210を見つめるアドラーさんの目は、今でも幼心の好奇心を思わせる純粋な眼差しそのものだった。




カリフォルニア州バークレー市にあるアドラーさんの実家の前は、クルマ1台がギリギリ通れる路地で、奥に入ると開けた駐車場になっている。40年前の写真を撮影したのは母親のジョージーさん(右から2番目)。「私はエレガントな緑のほうが好き。とても清潔で新車のようだわ」と好みを語った。ジェイデン君(左端)はB210と一緒で始終ニコニコだった。



【2】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2017年12月号 Vol.184
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

過去と未来をつなぐ、2台のダットサンB210(全3記事)

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text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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