スバル360開発者 百瀬晋六さんの奥さまにお会いできました!|スバル360で素敵探検 大貴 誠のレディーバードの旅 第8回

レディーバードを見て、ほんとうにうれしそうにしてくださった奥さま。太田でも、今はめったにスバル360は走っていないとのことでした。

歌劇団で「男役」を演じ、職業柄あらゆる「素敵な男性」を観察してきた大貴誠が、「本当に素敵な人」「一度でいいから会ってみたかった」と憧れる百瀬さん。そのご自宅に伺って、奥さまからたくさんの思い出話を聞きました。百瀬さんのご自宅は、まるでそこにまだ百瀬さんがいるように息づいていたのです。


 群馬県太田市にあるスバル360の開発をした百瀬晋六さんのお墓参りをした大貴誠は、お墓に上がっていたタバコを見て「きっと百瀬さんのことを今でも大好きで、尊敬している人がお供えしたのに違いない」と想像して感動していたら、あるスバルOBの方のご尽力で、その「お供えをした方」とお会いできることになりました。百瀬岱子(たいこ)さん。百瀬さんの奥さまです。そして奥さまが百瀬さんと暮らしていた、そのご自宅にお邪魔させていただくことになったのです。

人物
以前は、宝塚や松竹の歌劇を見ていたという奥さま。大貴誠が男役スターだったと聞いて「まあ、
羽根を背負ってらしたの! ぜひ見たかったわ!」。見てもらいたかったです。


 住所を頼りにレディーバードを走らせていると「百瀬さんの家」としか思えない素敵なたたずまいの家を発見、クルマを寄せてみると表札に「百瀬」の文字。やっぱり!
 奥さまに出迎えていただき、お部屋に通されると、そこにはまさに「百瀬さんが今もそこにいる」ような空気がありました。「昭和の良き家庭」のような、あったかい、でもモダンで居心地よさそうなお宅なんです。
「集めていた画集を入れるために、主人がつくってくれたんですよ」という、到底手作りに見えない、天井まである素敵な本棚や、百瀬さんが描いたという、旧・中島飛行機三鷹研究所(現・国際基督教大学)の森の水彩画。ケースに入った、スバル360の日本に一つしかない模型。「つい、たくさん飾ってしまって」と奥さまが笑いながらおっしゃった。

人物 絵画
百瀬さんが描いた旧三鷹研究所の森。以前訪れたときに大貴誠がほれ込んでしまった場所。あの森
の空気が見事に描き出された水彩画に、すっかり見とれてしまいました。


 そして、奥さまの語られる、百瀬さんの思い出話……。
「この居間で、会社の若い方たちが集まって、百瀬も一緒に、夢中になってクルマの話をしていました」
「お酒が入って気持ちよくなってきたら、ブラザース・フォアのレコードをかけてくれって。好きだったんです」
「いつでも仕事のことばかり考えている人でした。『オレは仕事ばかりで家のことをやってやれないから、お前は自分の好きなことを何でもやってもいいよ』なんて言っていましたけど。でも、いろいろなところに旅行に連れていってくれたりしたんですよ」
「旅行の時はクルマの運転はしませんでした。タクシーで。『俺にクルマに乗せてもらおうと思うなよ』って言ってましたから。クルマをつくる人間が、遊びの時に自動車事故を起こすようなことがあってはならないって。私も、それはその通りだと思って、免許は取りませんでした」


 ほほ笑みながらのお話の、ほんの一部分なんですが、本やテレビ番組で紹介された「スバル360の開発者としての百瀬晋六」という人ではなく、「ひとりの家庭人としての百瀬さん」を教えていただいて、奥さまが百瀬さんのことを今でもとても大切に思ってらっしゃることがしみじみ感じられました。やっぱり百瀬さんて、どんな時でもほんとに優しくて素敵な人だったんだ、と前よりも、もっと百瀬さんのことを好きになってしまった大貴誠でした。

スバル360模型
焼き物
(写真上)このスバル360の模型は、スバル360が生まれて30周年の時に、当時の富士重工業・田島
敏弘社長から贈られた記念の品物。(写真下)百瀬さんの言葉が刻まれた焼き物。デザイナーの佐々
木達三さんが一つ一つ手作りしたものだそうで、素晴らしい記念品です。


 スバル360に乗ってきました、というと奥さまはものすごくびっくりして「本当? まあ、まあ、こんなにきれいに乗ってくださって。これからも可愛がってやってくださいね」と、目をキラキラさせながら、真っ赤なレディーバードを優しく撫でてくれたのです。
 ええ、もちろん。これからもずっと、百瀬さんが生み出してくれたレディーバードと一緒に、走り続けますから!

スバル360
「今日はありがとうございました!」 ほんとうに忘れられない時間を過ごさせていただきました。
奥さまに見送ってもらいながら、太田を後にしました。


人物 大貴誠
大貴 誠(だいき・まこと) OSK日本歌劇団・元男役トップスター。ノスヒロをむさぼり読んでい
た日本で唯一の歌劇スター。2010年夏、念願のスバル360を入手。このクルマと一緒に日本中を旅す
る予定。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2012年10月号 Vol.153(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Rueka Aoki/青木るえか photo:Rumi Matsushita/松下るみ

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