NZ オークランドに日本の旧車好きが大集合! 旧車はいじって楽しむのがニュージーランド流 3

3連休の初日だった土曜日に、Zクラブのメンバーが集まってくれた。ニュージーランドにおけるS30Zの価値を示すかのように、オリジナルの状態を良好に保つ傾向が強い。2by2が半数近くと多いのは、2シーターより安く、それでいて家族を乗せるのにも使えるからだとオーナーは口を揃えた。

ニュージーランドでの日本旧車の存在意義をようやく理解しかけていたその日、オークランドで2つのミーティングが控えていた。オークランドは世界じゅうから国際線旅客機が到着する北島最大の都市。港から小高い丘にかけて町の広がる、商工業そしてトレンドの中心地である。高速道も広がり、渋滞も多い。緊張して臨んだフェアレディZクラブのミーティングで会った人たちは、年齢層の少し高い、日本車輸入の初期からダットサンに接してきた人たちだった。オリジナルの姿を保つダットサンを見ながらオーナーと話をして、ダットサンのヘリテージを尊重する人たちも確かにいたのだと、ここでようやくほっとした。


 世界的によく知られたS30Zもニュージーランドでは複雑な歴史を持っていて、長年の間に正規輸入された個体とともにイギリスや日本から個人的に持ち込まれた個体が混ざり、現在ではそれらの素性を特定することは非常に難しい。彼らはアメリカ中心に語られることの多いS30Zの歴史を「アメリカの人たちの言い分は偏っていて、必ずしも正確でない部分がある」と主張していた。

人物 クルマ
リッキー・クーパーさんが息子のサイモン君と一緒に牽引してきたBRE仕様のZは、ピート・ブロッ
クさんと電話で直接話をして、なんと本人から公認を受けたというクーパーさん自慢のレース専用車
両だ。そんなクーパーさんは、NZのS30Zが世界からなかなか目を向けてもらえないことが残念な様
子だった。

クルマ 人物
「遅くなってごめん。テレビでクリケットの試合をやってたんだよ」と、フェアレディZ 2by2が2台
一緒に現れた。フィジー出身のモヒット・アウターさん(左)はメカニック。77年式のこのZは、SU
ツインキャブのL28型エンジンに変更されている。このZが欲しくて、自分でレストアしたダットサン
180B-SSSを昨年10月に売却、その1時間後に購入した。タージ・カーンさん(右)の、10年間探し
続けたという2台目の79年式フェアレディZ 2by2はオリジナルの状態のAT。長年見慣れた2by2の形
が好きなのだそうだ。


 土曜の日の長い夕方に集まってくれたのが、「オールドスクール」と自らを呼ぶ日本旧車ファンのグループ。こちらは再び若い人たちの集まりであった。こうした中でうれしく感じたのは、日本でもそうそう見られなくなった古いクルマを、若い世代が乗り続けてそれに価値を見いだしていること、そうしたファンをつなぐコミュニティーができていることだった。クラシックカーといえばイギリス車やアメリカ車だけだった時代が過ぎ、日本車もすでにそこへ仲間入りしたようだった。

人物 クルマ
オークランドでの「オールドスクール」ミーティングを快く取り仕切ってくれた、29歳のリチャー
ド・オウピーさん。友人のMS65クラウンに乗せてもらって以来、大型の日本旧車に憧れ、3年間探
したという愛車は半年前に手に入れた日本製72年式260C(セドリック)だ。イギリスやオーストラ
リアのクルマとは微妙に違うディテールがたまらない魅力なのだそうだ。260Cは73年からニュージ
ーランドでも組み立てられていた。


 オリジナルのクルマやダットサンのヘリテージを尊重するオーナーたちと会えたこともさることながら、何といっても印象的だったのは、若い世代、それも免許を取ったばかりの世代(15歳以上)に、日本旧車が圧倒的に支持されていたことだった。その背景には、公共交通機関の未発達の土地が多く、通勤や遊びに出かけるためのクルマの必要性が高いことが挙げられる。クルマを使って自由に移動できることが、子供から大人になるためのステータスで、一生涯の趣味としての価値もある。
 ニュージーランドでは免許を取ることは容易であり、そのうえクルマの維持にも、あまりお金のかからないことが若い世代にとっては重要な点である。安い旧車を直しながら乗らざるを得ない人がいて、間近でそれを見る人が感化される。先輩を見ながらその趣味の世界に入り込んでいく、それは大人への片道切符のようだった。3台のダットサンと2台のニッサンを所有するダットサンクラブ会長バート・シンプソンさん(34歳)はそんな後輩たちのことを「若い連中はみんないい子ですよ。熱心だし、ダットサンを大切にしている。クラブとしてはそんな新米の彼らに、改造の情報提供や手伝いをしているんです」と語る。

クルマ外観
クルマ外観
(写真上)このスズキ・キャリイは79年式のST80系。輸出仕様の4サイクル4気筒800ccエンジンを
搭載する。学生オーナーのエリック・ワンさんは「日本の軽自動車って変わってるから好き。人から
も一目置かれますよ」と話す。牧場を営む大家さんの手伝いをするのにも便利だという、現役の軽ト
ラだ。(写真下)「808」のバッジのついた輸出仕様のマツダ・グランドファミリアに「もう6年間
乗っている」と言うのはスティーブン・ホワイトさん(24歳)。ニュージーランドではRX-3はとて
も高いので、「ロータリーに載せ替えるつもりだったけど、レストアするうちに珍しいレシプロのマ
ツダに愛着がわいてきた」という。1.3Lのオリジナルエンジンに、スズキのナナハンバイクのキャブ
を取り付けている。ボディのリペイントにもオリジナルカラーを使った。


 半面、若者がクルマで徘徊し、市街地にたむろすることが社会問題化したこともあった。独立心の強いキウイの若者の絶大な支持の下、日本旧車は「サブカルチャー」(フェントンさんの言葉)として、人口増加の続くニュージーランドの社会との共存を図っているのである。

クルマ外観
69年式ニッサン・グロリアが堂々の登場! 日本のオークションサイトであてもなくクルマを探し
ていたアーロン・ブリンスドンさん(39歳)は、これを見つけて一目ぼれした。「輸入した時の状
態はとてもよかった。ボディを少し直してペイントしただけです」。希望とは少し違う色合いに仕
上がった。




掲載:ノスタルジックヒーロー 2012年6月号 Vol.151(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text & photo:Masui Hisashi/増井久志

RECOMMENDED