V型8気筒エンジン搭載の330セドリックも! 旧車はいじって楽しむのがニュージーランド流 1

オークランドでの「オールドスクール」のミーティング。ニュージーランドでさかんなスポーツ「ネットボール」の競技場の駐車場に、土曜日の夕方に集まってくれた日本旧車ファンの人たち。車種はより取り見取りで、ドリフト好きのハチロクのグループも参加していた。「日本旧車の雑誌なんですよね?」と聞かれ、はたと思った。「ハチロクよりも後に生まれた彼らにとっては、ハチロクも旧車になるのか……」。日が長い夏のミーティングは、夜8時を過ぎてもまだ散会しなかった。

ニュージーランドの人たちは、自分たちのことを「ニュージーランダー」とは呼ばず「キウイ」という。北と南の2つの島に分かれるニュージーランドだが、南島最大の都市クライストチャーチは、イギリス国外で最もイギリスらしいといわれた町。だが、それも昨年2月の地震で大打撃を受けた。ゆがんだ道路のあちこちに段差があり、それを避けながら車高を下げたクルマがくねくねと走っていく姿が目に入る。
 日曜の朝に空港で迎えてくれたアンディ・ギャラファーさんが、緑色のダットサン1200の車内に招いてくれた。内装がはがされ、古いバケットシートの付いた乗り込みにくいクルマだ。未知だったニュージーランドの日本の旧車の世界に心のどこかで期待していた、程度良く維持されたオリジナルの日本旧車というものには、容易には出合えないことを予感させた旅の始まりだった。


 南半球の夏のイメージからはほど遠い、今にも雨が降り出しそうな寒い日。「午前中はガレージツアーを計画しておいたよ」と言って、最初に案内してくれたのが、見た目も若いグディングさんの住む家の裏庭。エンジンスワップされたスターレットが1台入っていたガレージは、新品リフトのある広くきれいな空間で、中に立つだけでうらやましくなるほど。屋外には友人所有のGX61マーク2、AE85スプリンター、セフィーロなど、日本の旧車がゴロゴロあった。もちろんこれらも全て改造途中だった。

ガレージ クルマ 人物
友達が集まってのんびりできる、広々としたリフト付きガレージを持っていたキャラム・グディング
さん(赤いTシャツ)は、まだ19歳! こんなガレージに日本旧車を保管できるなんて、幸運としか言
いようがない。


 次に訪れたオーバレンドさんの家では、降り始めた雨の寒い中、車庫を開けてMX40クレシーダとダットサン1200の改造作業中。庭にはやはり改造されたクルマと改造待ちのクルマ、B210サニー、330セドリックとグロリア、230セドリックワゴン、MA61セリカXX、C32ローレルが止められたまま雨に打たれていた。
 仲間から信頼を得ているモレセイさんのガレージでも、2台のダットサン1200がボディシェルだけになっていた。モレセイさんを慕って集まった仲間たちも、皆、改造されたダットサン1200のオーナーだった。奥さんのエリンさんのチェリーだけが、きれいなオリジナルの姿を見せていた。

クルマ 人物

仲間から絶大な信頼を得ているクリス・モレセイさんと奥さんのエリンさん。エリンさんの愛車は
真っ白いチェリーセダン。ダットサンのコレクションアイテムも多く所有。


 ヴァンビークさん宅を訪れると、きれいに整頓されたガレージに、V8エンジンを積んだセドリックがあった。ボディを切り取り、サスペンション全体に大胆に手を入れるその改造を見て、思わず「シャコタン」という言葉が口をついた。

人物 クルマ ガレージ
ジョーン・ヴァンビークさん(クルマの脇、前から2番目)はプロの改造チューナー。自宅のガレー
ジで78年式セドリックの大改造中だった。「トヨタのV型8気筒エンジンならもう少し簡単に手に入
るだろうけど」といいながらニッサンのV型8気筒エンジンを積み、後輪には自分で設計したという
超ネガティブキャンバーがつけられていた。「ボウソウゾクって知ってますか?」と聞いてきた。
そりゃ知ってるけど……ちょっと趣味は違うよね。前列中央がテイラーさん。



 これだけの日本旧車を一気に見ても、オリジナルの状態を保つクルマはほとんどなく、誰もがそれぞれのガレージでそれぞれの改造にいそしんでいた。そんなオーナーたちを見て、心中に疑問がわき始めていた。その日の午後、幸いにも雨の心配はなくなり、予定していたミーティングが行われた。そこにはタイムスリップしたのかと錯覚するくらい、さまざまな日本の旧車が姿を見せていた。
 驚いたのは、どのオーナーもとても若いこと。そして何よりもショッキングだったのは、これだけ集まった中に程度が良く、オリジナルの状態を保ったクルマがほとんどないことだった。エクステリアなどにはこだわらず、エンジンの載せ替えなどは当然のことのように見えた。独自の改造をうれしそうに自慢する若いオーナーたち。
 それでいて公道では礼儀正しくツーリングする姿、そして何台かのクルマに乗せてもらった体験などから見えてきたものは、日本旧車ファンを自称しながらもオリジナルを維持することではなく、改造によって速いクルマに仕立てることに意義を感じていた彼らの姿だった。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2012年6月号 Vol.151(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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