スイスから輸入した1台。お気に入りは欧州仕様のセリカLB 2|アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方

フリーウェイを軽快に走るセリカLB。アメリカ仕様ではSOHCエンジンとなるが、この個体は欧州仕様なうえにラリー仕様であったことで、DOHCエンジンを搭載したハイパフォーマンスな設定となっていた。

自動車趣味をもつ家庭で育ち、子どものときから日本車に興味をもったというオーナーのデイビッド・スウィッグさん。

彼のガレージには84年式ダットサン200SXコンバーチブル(ニッサンガゼール)、77年式トヨタカローラSR-5リフトバック、オリジナル状態を保つ73年式ダットサン510など日本車が9台も並べられており、そのコレクションも凄い。

しかしやっぱり、お気に入りは75年式の欧州仕様セリカLBだという。
クルマ 走り
ルーフからテールへと流れる美しいラインを持ったLBの姿は誰の目にもカッコよく映った。日本で
は、このクルマの発売当時はスーパーカーブームであり、子供たちをも深く魅了したのだ。


 シェルビー・アメリカンとタッグを組みトヨタ2000GTで68年のシーズンを戦ったトヨタは、その直後に本格的なレース路線を選び、レースカー、トヨタ7の開発へと舵を切った。

市販車には新たなスポーツカーを設定せず、DOHCエンジンを積んだハイパフォーマンスカーは、コロナの車体をベースとしたトヨタ1600GT(67~68年)とコロナマーク2 1900GSS(69~71年)にとどまった。70年になるとトヨタ2000GTの終了に合わせて新型車種、セリカがデビュー。1.6LのDOHCエンジンを採用したGTグレードが設定された。

これでユーザーにとってトヨタのDOHCエンジンが身近な存在となった。セリカのGTモデルは73年に新型エンジン18R‐G型を積んだ2Lモデルが追加されるとともに、

LBがラインナップに加わる。これらのDOHCエンジン搭載車が70年代のトヨタの市販スポーツモデルをけん引した。初代セリカの販売は長期にわたり、排ガス規制が厳しくなっていった70年代を通じて7年間続いた。

 78年になると北米市場を強く意識した6気筒モデル、セリカXXが登場。エクステリアのデザインにはトヨタ2000GTと共通のモチーフを使用することで2000GTを回想し、セリカという車種の位置づけが再確認されることとなった。ところがエンジン設定はなぜかSOHCのみであった。


クルマ ボンネット
クルマ グリル
6カ所のスリットが切ってあるだけのエンジンフード(写真上)。フロントウインドー下のエア抜き
が中央のみにあるのは、後期型の特徴。フロントグリル下には後期型の特徴であるエア抜きが備わっ
ていた。

クルマ エンブレム
クルマ エンブレム
「リフトバック」(写真上)という名前は発売当時とても新鮮に響いたものだ。TOYOTAのバッジ
の脇にあしらわれたドラゴンのマークは、ステアリングホイール、リアシートなど、室内の各所に
もあしらわれた。


 デイビッドさんの所有するセリカLBは6年前にスイスから輸入した、国内向けで言えば後期型に相当する75年式だ。一見しただけでは気づかなかったのだが、DOHC搭載の左ハンドル仕様のセリカLBは、欧州市場向けのみだったのである。

それがこれほど良好な状態で現存しているという希少性が、デイビッドさんにとっては重要な点であるという。

またバンパー周辺のデザインなどを見ても、北米仕様よりはるかに洗練されていて、クルマのデザインはどうあるべきかと考えさせられてしまう、とのことだった。

 アメリカには存在しない仕様のセリカLB、見つけたのはフランスの旧車雑誌だった。何カ月間も売りに出されたままのようだったが、その希少性に気づいたデイビッドさんはすぐに買い取りを申し出た。スイス在住だった元オーナーは70年代から80年代にかけてラリーに使っていたと説明したので、実際のクルマの状態に多少の不安があったものの、届いたクルマはオリジナルの状態を非常に良好に維持していたことに驚いた。

内装、外装、機関のどれも程度が良くすっかり気に入ったデイビッドさんは、自分では手を入れずにそのままの状態で維持することにした。唯一、ドアにある白地のゼッケンサークルだけは、自分の好みでつけたもの。かつてのラリーでの活躍の記憶を、より視覚的に残したかったからだ。

クルマ エンジン
赤くアルマイト処理されたカムカバーが美しい18R-G型エンジン。歴代トヨタの水冷直列4気筒2L
ツインカムの代表であり、それをツインカムの名門イタリアのアルファ・ロメオになぞらえて「ア
ルファ・ロメオのエンジンのトヨタ版」とデイビッドさんは表現した。

 何と言っても自慢はトヨタのDOHCエンジン。

「アルファ・ロメオのエンジンのトヨタ版だね」という、世界のさまざまなクルマに接する機会の多いデイビッドさんらしい褒め方で、それを所有する誇りを表現した。フリーウェイ走行でDOHCのエンジン音がエキゾースト音に混じって響くと、「いい音がするでしょう」とうれしそうに言った。

このセリカは特別なとき、クラシックカーラリーなどのときくらいしか走らせることはない。
それでも機関には全く問題がなく、メカ系も電気系も常に信頼していられる点は「さすがトヨタだね」と安心している様子だった。

 稀有なクルマだからこそ、出し惜しみするように大切に乗っていく。これも旧車のオリジナルの姿を保つ1つの方法なのだろう。
博物館とまでいかなくとも、個人のレベルで動体保存をしている、そういう印象であった。その走る姿をこうして記録できたことは、とても幸運なことだと思った。

クルマ インパネ
独立してインパネにつく個々のメーターは、この時代のスポーツカーを連想させるものであった。
複雑な成型の樹脂パネルに銀色の装飾が使われていることもこの年代のクルマの特徴である。

クルマ リアシート
ヘッドルームがやや狭いものの、十分なリアシートが確保されているセリカリフトバック。当時スペ
シャルティカーと呼ばれた1台。ドラゴンのマークとウッドのストライプで装飾され、スポーツカーと
は異なる贅沢な雰囲気が後部座席にも演出されていた。

クルマ サスペンション
クルマ サスペンション
「サスペンションは何だったか覚えてないな」と言いながらも、リアにはLSDが入っていることを
デイビッドさんは強調していた。フロントはストラット式で、その上部にコイルスプリングが収ま
る。トーションバーのように見えるコントロールバーがロワアームに付く方式は、この時代のクル
マには比較的よく見られた。リアはリジッドアクスル4リンクコイル式で、独立懸架より堅ろうな
機構だった。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2012年4月号 Vol.150(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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