リバーサイドからグランドキャニオンへ! ダットサン仲間が確かめ合った絆 vol.1|アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方 第5回 前編

会場までのパレード。この小さな町の目抜き通りが、1kmにわってダットサンで埋め尽くされる様子は壮観だった。

アメリカの有名観光地、グランドキャニオン。

その入口の町、アリゾナ州ウィリアムズまで、全米各地からダットサンオーナーたちが駆けつけた。

2011年10月初旬 「マルチステート・ダットサン・クラシック by 南カリフォルニア・ダットサンロードスター・オーナーズクラブ」と名付けられたこのイベントのレポートをお届けする。
参加したダットサン・ロードスターをはじめとするニッポン旧車のオーナーたちは、愛好家同士の絆を確かめあったのだ。

 アメリカ、ロサンゼルス地区のダットサンロードスタークラブ(SoCol ROC)が、ユニークなイベント開催を試みた。
アメリカの有名な観光地であるグランドキャニオンを目指して、全米各地から集まるというイベントだ。
企画者代表のクリス・ブレヤーさん自身も、居住するリバーサイド(ロサンゼルスから東へ100km)から、グランドキャニオンのゲートシティーであるアリゾナ州ウィリアムズまで、東へ650kmをダットサン2000コンバーチブルで走破する計画だ。

 ウィリアムズでは、各地から集まったダットサンが10月8日・土曜の朝10時に集うことになっていた。
「10台も集まれば上出来かな」と考えていたブレヤーさん。
だが広報活動が予想以上に功を奏して、事前の参加登録台数は57台にまで膨らんだ。
地元アリゾナ州を中心に、周囲のカリフォルニア、ネバダ、ユタ、ニューメキシコ、コロラドの各州、さらには国境を越えたメキシコからも参加の申し込みがあった。

 準備万端、天気予報も晴れ。
あとは当日の成功と参加者の道中の安全を祈るのみとなった。


人物
グランドキャニオンまでのドライブを楽しんだ、今回密着取材した3台と5人。右から、
ダウニングさん、コミーさんとダニエル君、モリールさんとルースさん。


 10月7日・金曜の早朝。

まだ辺りは暗い中、待ち合わせ場所のリバーサイドのレストランの駐車場に、SPとSRと3台のダットサンが集まった。
ブレヤーさんを含む5人の参加者は、すでに気分が高揚している様子。

朝のフリーウェイをブレヤーさん、モリールさん夫妻、コミーさん親子の3台が連なって走ると、通勤途中らしいクルマの人たちがほほ笑んで手を振りながら追い越していく。

1時間ほどで町中を抜け、最初の休憩地は150km地点、砂漠の中の町バーストウ。
クルマにガソリン、運転手にはコーヒーを補給していると、4台目のダットサンのダウニングさんが追いついた。

 そしてハプニングは、砂漠の中の真っすぐなフリーウェイでの巡航再開後、間もなく起こった。
コミーさんの赤いロードスターが急減速。
ブレヤーさんとダウニングさんもあわてて止まって、コミーさんのクルマに駆け寄る。
ボンネットを開けてのぞき込んだ後、ブレヤーさんが言った。

「見ろよ、ベルトが異常に熱い。
オルタネーターだな」
 オルタネーターが焼き付き、空回りしたベルトのこげたにおいが漂っていた。
斜め下を向き、焦点の定まらないコミーさんの目。

「なんでこんなときに……」と、聞こえないくらいのかすれ声だった。

この時ブレヤーさんが冷静に言った。
「まだ近い。
バーストウまで戻って、オルタネーターを交換したほうがいい」
 そうコミーさんを説得し、励ました。


クルマ 
「嫌なことは起こるもんだよ」とのブレヤーさんの言葉通り、ダン・コミーさんのダットサン
1600
がフリーウェイでトラブル発生。


 そしてブレヤーさんとダウニングさんは先を急ぐ。
明日のショーを滞りなく進めるため、現地での準備が残っているのだ。
そしてモリールさんは何か異変に気づいたのか、フリーウェイを引き返して行った。
「コミーさんに付き添っていく」とだけ、携帯電話で連絡があった。
ここで2組に分かれてしまった。
後はなるようにしかならないだろう。

 2台が到着したウィリアムズは、ささやかな目抜き通りしかない、小さな平和な町だった。
そこを時々ダットサンが走り抜けていく。
到着したばかりなのか、それとも散策のドライブを楽しんでいるのか。
標高の高いウィリアムズは寒く静かで、今日のドラマチックな旅の道中のことも、もう遠い過去のように思えた。
明日はどんなクルマが集まるのだろう。

夜が更ける頃には、明日への興味で心が満たされていた。


クルマ
アリゾナ州の旧車のナンバープレート。「ヒストリック・ビークル」と書いてある。アメリカ各州で
定められた旧車としての条件を満たせば、申請によって取得できる。こういう形で古いクルマに敬意
を払っているのだ。


人物
2Lエンジンと右ハンドルが自慢の79年式200ZXのオーナー、ケリー・マッケンドリックさんと
息子のイアンさん。84年に在日米軍関係者が持ち帰った個体だとのこと。リアについていたバッ
ジ「NAPS」の意味を散々調べたそうだ。

クルマ
「母の形見なの。子供たちに『おばあちゃんのクルマなのよ』って言ったのに、興味なしだったわ」
と話すのは、地元から参加した78年式510のオーナー、ペニー・リリーさん。ダットサン210とも
呼ばれるこの「New510」(日本名スタンザ)は、大ヒットした初代510の後継車という位置づけ
だった。


人物 クルマ
オリジナル度の非常に高かった右ハンドルの71年式サニー1200 2ドア。「毎年恒例の地元のイベン
トに持っていくのはもう飽きた。だからここに持ってきたんだ」と語ったロサンゼルスから参加のマ
ーク・ダンカンさんは、今イベントの最高位「ボンデュラント賞」を獲得。「床に固定されているア
クセルペダルがちょっと窮屈なんだよね」。上からぶら下がる左ハンドル仕様のペダルのほうが好き
だとのこと。


人物 クルマ
メキシコから国境を越えて参加した、ジム・スベデシーさんと奥さんのスーザンさん。このダット
サン2000で、1000kmの道のりを12時間ぶっ続けで運転してきたそうだ。疲れた様子も全然見せ
ず、「クルマには全く問題なかったね」とのことだった。



掲載:ノスタルジックヒーロー 2012年2月号 Vol.149(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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