「三菱の出物があるんだけど」って電話で相談してきたんだ。「とにかく買っておけ!」|三菱車の世界での足跡1|ルーツが同じ仲間だからこそ、分かり合える趣味の世界 Vol.3

2011年にコンスタンティーノさんが入手したのは、1973年式三菱ランサー1600 GSR。2ドアセダンをベースにしたこのモデルは世界のラリーで大暴れした(実戦では4ドアも存在)。GSRは2代目、3代目ランサーへと引き継がれ、4代目からはランサーエボリューションへと受け継がれた血統だ。

       
アメリカには熱心なニッポン旧車の愛好家がいることは、この連載を通じてお伝えしてきた。やはりニッサン、トヨタ、ホンダのファンがアメリカでは多いのだが、今回は三菱車を大切に乗り続けているオーナーと、その仲間を紹介する。2人は、ルーツが同じであるという強い絆でも結ばれているのだ。 

【ルーツが同じ仲間だからこそ、分かり合える趣味の世界 Vol.3】

【2】から続く

 三菱重工業は60年代には自動車製造を企業活動の一部門とし、モータリゼーションの波に乗り遅れることなく、排気量を拡大しながら小型乗用車を継続的に導入していた。1969年になると時節を見て車種を整理し、コルトギャランの名の下に新生スタートさせた。

 ギャラン系車種はその後モデルチェンジごとに大型化していき、乗用車ブランドとして確立。ギャランの大型化によって空白となった小型乗用車の位置づけで1973年に登場したのがランサー。ランサーは小型車を代表する長命の車種となった。もう1つの長寿車名であるミラージュは78年にFF車として導入されたのが始まりである。

 広報活動として三菱はラリーに力を入れた。1967年コルトのオーストラリア輸出開始をきっかけに、現地開催のサザンクロスラリーに出走。初めてのラリー挑戦にもかかわらずいきなり総合4位、クラス優勝の成績を収めた。1973年からは勝つために造られたマシン「ランサーGSR」を投入。この年の1〜4位独占を皮切りに、1976年まで総合優勝の座を譲ることはなかった。

>>【画像22枚】「三菱の出物があるんだけど」って電話で相談してきたんだ。「とにかく買っておけ!」ってすぐに答えたんだよ。裏庭にあるガレージに収まる、三菱ランサーEX 1800 GSRターボ(1981年式)、TE27系レビン(1973年式)とトレノ(1972年式)など

 サザンクロスラリーで自信をつけた三菱は、世界で最も過酷といわれたサファリラリーへと挑んだ。ランサーGSRはここでも見事優勝を手にする(1974年)。3年目(1976年)に至っては表彰台を独占、その圧倒的強さを世界に見せつけた。

 サファリラリーは5台に1台しか完走できないといわれたレースだ。その過酷さは例えようもないものだが、あえて東京マラソンに照らし合わせてみよう。2016年の記録では、並のアマチュア走者には到底達成できない「4時間未満完走」が5人に1人。サファリラリーに出走するプロチームばかりの中にあって完走するだけにとどまらず、三菱の果たした上位独占という快挙。それは、世界マラソン日本人兄弟ランナーのワンツーフィニッシュにでも例えたらよいか。「そんなの、ありえない! 」と思わせるような出来事なのだった。

 ラリーの舞台での華々しい活躍と並行して、三菱は量産車でも世界へと伸張していった。世界戦略の一角、フィリピンにおける自動車組み立て開始の背景となったのは現地政府による工業化政策だった。これを通じて三菱はフィリピンで特別な地位を作り上げたのである。自動車は世界規模の産業であり、その生産は大量の雇用を生み出す。自動車の輸出ができるようになれば外貨獲得ができて国内が豊かになっていく。フィリピン政府には自動車産業で先行発展している国の助力を得たいという意向があった。



エンジンは4気筒SOHCの4G32型サターンを搭載。これにミクニソレックスのツインキャブで燃料供給する。110psの最高出力で825kgという軽い車体を引っ張るのだ。





装飾のない機能的なコックピットは競技用車両の雰囲気たっぷり。ここから眺めたサファリラリーの世界はどう見えたのだろう、と想像するだけでもワクワクする。キャビンはきれいな状態で保存され、センターコンソールに収まる8トラックのカセットは、懐かしさをそそるなかなかな一品だった。





コンスタンティーノさんの最もこだわるポイントの1つ、ボディに似合ったホイールとタイヤの組み合わせ。選んだのは、イギリス製ミニライトのホイールとヨコハマタイヤのADVANウインターラリーWR-13だ。



【4】に続く


初出:ノスタルジックヒーロー 2017年2月号 vol.179(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

ルーツが同じ仲間だからこそ、分かり合える趣味の世界(全5記事)

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【1】【2】から続く

text & photo:HISASHI MASUI/増井久志

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