「雨の多い地方だからなのか、旧車を見かけることはあまり多くない」|ルーツが同じ仲間だからこそ、分かり合える趣味の世界 Vol.1

裏庭は土地の起伏のままに一段低くなっていて、そこに巨大なガレージがある。キャンピングカー用に家の前オーナーが建てたというガレージは、天井が高いだけでなく奥行きもあって、中には日本旧車がぎっしりと9台。コンスタンティーノさんの長男アーロンさん(中央)は、「旧車はいつかそのうちに」と言い、今はトヨタ・タコマのピックアップに乗っていて満足そうだった。

       
アメリカには熱心なニッポン旧車の愛好家がいることは、この連載を通じてお伝えしてきた。やはりニッサン、トヨタ、ホンダのファンがアメリカでは多いのだが、今回は三菱車を大切に乗り続けているオーナーと、その仲間を紹介する。2人は、ルーツが同じであるという強い絆でも結ばれているのだ。 

【ルーツが同じ仲間だからこそ、分かり合える趣味の世界 Vol.1】

 取材当時の2017年は、アメリカ発の日本製エアバッグリコール問題、AT車の急発進問題、ドイツと日本メーカーの排ガスデータ不正問題と、自動車業界では数年のあいだ、世界規模の不祥事が目立っていた。世論は安全と環境に対する関心を高め、それに従い年々厳しくなり続ける安全基準と公害規制。組織がらみの不正問題では三菱自動車とドイツのフォルクスワーゲンは、ユーザーから手厳しく戒められた。真摯な科学技術は、果てしなく進歩を遂げられるものなのか。技術者の挑戦は続く。

 アメリカ西海岸の最北部にワシントン州シアトル市がある。全米を代表する大都市でありながらも、ひとたび郊外へ出れば「タコマ富士」の名で呼ばれるレーニア山を始め、多くの自然を残す。シアトル市は、かのメジャーリーガー、イチロー選手が長く活躍したことでも日本人に親しみがあるだろう。

「雨の多い地方だからなのか、旧車を見かけることはあまり多くない」
 そう語るのは、この町に長く住むラルフ・コンスタンティーノさん。トヨタ旧車のコアなファンだったのが、友人の助言によって三菱にも入れ込むようになってしまったという人だ。

>>【画像22枚】2011年にコンスタンティーノさんが入手した、1973年式三菱ランサー1600 GSRなど


 その友人というのは、以前この連載に登場してくれたTE27カローラオーナーのパトリック・ヌグさんだ。現在では家族ぐるみの付き合いをするようになった2人は、トヨタ・カローラ「ハチロク」が知り合うきっかけだった。コンスタンティーノさんが言葉を選ぶかのように、ゆっくりと説明した。

「20年も前のことですが、米国海軍の任務で、横須賀に3年いた間に、せっかくの機会だからと思って、ハチロクのパーツを買い集めました。任務を終えてアメリカに戻ってから、自分のクルマには使わなかったパーツを売りに出したら、それを引き取るために、私が当時住んでいた(クルマで7時間もかかる)サンディエゴまで、パトリックがわざわざやって来た。こうして知り合ってから、もう16年です」
 知り合って分かったのは、2人ともフィリピン生まれだったこと。今でも2人が会えば、子供のころの思い出話に花が咲く。



「走らせるのは月に1回程度」というコンスタンティーノさんも、ガレージに入ってクルマと一緒に過ごす時間がうれしい。クルマとのスキンシップを楽しみ、静かに対話する瞬間。





自宅敷地内のガレージには、日本旧車が整然と収められている。それはコンスタンティーノさんのきちょうめんな性格を表しているようだった。クルマの周りをせわしなく動き回って駐車位置の指示をしていたヌグさんは「クルマが好きで仕方ない」という様子が行動によく表れていて、見ているほうまで楽しくなった。


【2】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2017年2月号 vol.179(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

ルーツが同じ仲間だからこそ、分かり合える趣味の世界(全5記事)

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【1】から続く

text & photo:HISASHI MASUI/増井久志

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