DOHC戦略でライバルを圧倒! トヨタ スポーツテイストの軌跡2

18R-G型2L DOHCエンジンを搭載したセリカLB 2000GT

       
トヨタ スポーツテイストの軌跡2


DOHCの本格派スポーツカー登場

 トヨタ1600GTが発売された67年には、今なお日本を代表する名車としてあがめられているトヨタ2000GTも誕生した。これはトヨタ、そしてパートナー関係にあるヤマハ発動機のエンジニアが持てる限りの技術を駆使して開発した日本初のプレステージ・スポーツカーだ。発売までにレースを通して鍛えられ、まったく妥協を許さなかった。

トヨタ 2000GT 外装

 トヨタ2000GTは、本格派を実感できるプレステージ性の高いスポーツカーである。高い志と最少の制約のなかで開発が進められ、ほとんどの部品は専用設計だ。当然、メカニズムも魅力的である。長いボンネットのなかに日本で初めての直列6気筒DOHCエンジンを収めた。これにソレックス40PHHキャブを3連装し、当時の2Lエンジンとしては最強スペックを手に入れている。5速マニュアルを駆使しての最高速度は220㎞/h、ゼロヨン加速は15.9秒だ。

 OHVやSOHCのベースエンジンのヘッドまわりを大幅に改造し、DOHC化することによって高性能を得ているのが、トヨタDOHCの大きな特徴である。DOHCヘッドの架装に当たってはヤマハが重要な役割を果たした。70年代以降は、スポーツツインカムと呼ぶDOHCエンジンに「G」の称号を与え、高性能を誇示している。

 70年秋に鮮烈なデビューを飾り、一世を風靡したセリカ1600GTとカリーナ1600GTが積むのは、T型OHVを母体とする2T-G型直列4気筒DOHCエンジン。セリカLB 2000GTやコロナ2000GTには18R‐G型DOHCエンジンが搭載され、豪快なDOHCサウンドを奏でた。

セリカ 外装

 ライバルに先駆けて5速MTをスポーツモデルに採用したのもトヨタである。DOHCと5速MTをリンクさせ、スポーツイメージを一気に高めた。初めて5速MTを採用したのはトヨタ2000GTだ。これに続きトヨタ1600GTに5速MTを設定した。70年代になるとセリカを筆頭に、積極的に5速MT採用車を増やしている。

 トヨタはコロナと同じ手法で、ファミリーカーのスポーツテイストを高めていった。世界のベストセラーカー、カローラも例外ではない。ファミリーカーは3速または4速のコラムシフトが一般的だった時代に、スポーティなフロアシフトの4速マニュアルを標準として送り込んだ。また、余裕ある走りのために1100ccエンジンを積んでいる。税制面では不利だったが、ライバルのサニーより100cc大きいエンジンを積み、動力性能で差をつけた。

カローラ


 68年3月にマイナーチェンジを行ったが、このときに高性能モデルを投入している。SUツインキャブを装着し、前輪ディスクブレーキを、エキゾーストはデュアルとした1100SLだ。標準モデルは60ps/8.5㎏‐mだが、SLは73ps/9.0㎏‐mと、大幅に性能アップ。ゼロヨン加速は上質スポーティカーをしのぐ17.5秒の俊足だった。最高速度も155㎞/hをマークする。最終型では1200SLへと進化した。

 カローラのクーペモデルとして68年4月にリリースされたのがカローラ・スプリンターだ。2ドアセダンのセンターピラーから後ろをファストバックにし、スタイリッシュ度を高めている。セダンと比べると背は30㎜低い。エンジンやサスペンションなどのメカニズムは共通だ。フラッグシップはスポーティ&ラグジュアリーを掲げた1100SLである。ファストバックボディの採用によって空気抵抗が減ったこともあり、最高速度は160㎞/hと発表された。 

カローラ・スプリンター 外装


パーソナルカーでありスポーティ

 パーソナルカーのマーケットは、コロナハードトップが火をつけ、カローラ・スプリンターによって底辺を広げることに成功している。セダンが主役だった時代に、ライバルに先駆けてスタイリッシュな2ドアハードトップと2ドアクーペを送り出し、ブームを築いた。この思想を発展進化させたのがセリカだ。70年秋に登場するや、スペシャルティカー旋風を巻き起こした。

セリカ 外装

 セリカは、クーペともハードトップとも違う、キュートなルックスのスペシャルティカーだ。コロナのハードトップやカローラ・スプリンターはセダンを母体に生まれた。これに対しセリカは専用デザイン。ベース車がないから、エクステリアとインテリアを自由にデザインできる。この専用であることが、ユーザーのハートをくすぐった。

 エンジンは4機種を設定している。ムードを重視するユーザーのためにシングルキャブ仕様も用意しているが、主役はツインキャブ装着車だ。筆頭は、専用の2T-G型DOHCエンジンを与えられ、サスペンションを強化した1600GTである。キャブレターもSUタイプではなくソレックスタイプとした。最高出力は115ps/6400rpm、最大トルクは14.5㎏‐m/5300rpmだ。当然、トランスミッションはクロスレシオの5速MTを標準としている。

 セリカはユーザーの好みに応じて仕様をセレクトできるフルチョイスシステムを採用した。これもユーザー層を広げることにひと役買っている。スポーティカーを好む人は顕示欲も強い。フルチョイスシステムを活用すれば、世界で1台だけのセリカを作り出すことが可能だ。これはメーカー製ドレスアップカーの先駆けと言えるだろう。 また、73年春にはマルチパーパス志向のファストバッククーペ、セリカ・リフトバックを仲間に加えている。リアゲートを備えたスタイリッシュなスペシャルティカーで、クーペフォルムのセリカとは違う魅力をアピールした。パワーユニットも1.6Lに加え、2Lの直列4気筒を用意。イメージリーダーは、マークII2000GSSから譲り受けた18R-G型DOHCエンジンを積むリフトバック2000GTだ。


 セリカの兄弟車にはカリーナがある。デザインはまったく違うが、メカニカルコンポーネンツは共用。セリカはスタイリッシュさが売りで、対するカリーナのハードトップは実用性も加味したパーソナルカーだ。コロナのハードトップに近い性格だが、コロナより若さと新感覚を強調した。新しいジャンルのスポーティムードの強いクルマ造り。トヨタの得意とするところだ。

カリーナ

 プレステージ性の高いスポーツモデルも早い時期に開発し、送り出している。高級スポーツカーのトヨタ2000GTはその筆頭だが、日本最古のヘリテージブランドであるクラウンにハードトップを設定したのがトヨタの凄いところだ。いうまでもなくクラウンは日本人のための高級車で、50年以上にわたって人々に愛され続けている。国内専用モデルとしての強みを生かし、日本人好みの高級感あふれるデザインに一歩先を行く先進装備を加え、ユーザーの心をつかんだ。


 異色のクラウンが3代目の50系である。67年9月に登場したが、法人からオーナーカーへの脱皮を図り、「白いクラウン」をキャッチコピーとした。デビューから1年後にクラウンに加わったのが、エレガントな2ドアハードトップだ。今につながるハイソカーの先駆けとなったクルマで、この設計哲学は80年代にソアラに受け継がれている。スポーティ感覚に上質ムードを上手に織り込み、新しいユーザーの獲得に成功したのがクラウン・ハードトップだ。



 いつの時代もトヨタはスポーティなクルマ造りにこだわり、デザイン、メカニズムでもライバルを圧倒している。これがトヨタの強みと言えるだろう。





掲載: ノスタルジックヒーロー 2010年8月号 Vol.140 掲載(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Hideaki Kataoka/片岡英明

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