クルマ好きの家族に囲まれた幸せなクルマに|カリフォルニアの幸せを運ぶ青い鳥になったダットサン510 パート2

カリフォルニアでも時々見かけるポピュラーなダットサン510だが、それでも初期型は非常にレアだ。整備も行き届いていて、フリーウェイ走行にも全く不安はない。

日産の名車として、今なお多くのファンを持つ510ブルーバード。セダンボディのお手本のようなスタイリングを持つこの乗用車は海外にも輸出され、アメリカでもその人気は衰えていない。そしてここに1台の68年式の初期型4ドアがある。日本で生産されてマレーシアに輸出、その後アメリカに渡った赤いボディのダットサン510。波乱の時期が過ぎ去って、今、大切にしてくれる家族の元で、幸せに暮らしている。


 世界中で人気を得た510だが、実は輸出に当たっては一部仕様に変更があった。日本国内ではL型エンジン(L13、L16)に4輪独立懸架というメカが基本で、北米市場へは大排気量エンジン(L16)のみの設定。それ以外の一部の国には、OHVのJ型エンジンに後輪リジッドサスペンションを組み合わせた(すなわち技術的には一時代遅れの)廉価版も存在した。北米市場で人気を博した510は、67年の製造開始の翌年以降、北米市場に合わせた変更が徐々に加えられた。このため初期型の残存数は、現在ではきわめて少ない。


人物 自動車運転
オーナーのエクトール・ビルエッタさん。右ハンドル&コラムシフトの操作も手慣れたものだ。
「わざわざマレーシアから取り寄せたスピードメーターが、調子悪くなっちゃったんだよね」と
言っていた。



 ビルエッタさんが所有する510は初期型であるため、対面式ワイパー、ベンチシート、コラムシフト、テールランプなどにその特徴が見られる。ただビルエッタさんも不思議に思っていたように、なぜかボディにアンテナやバッジ類の穴が一切開いていなかった。L13型エンジンの搭載とともにセミトレーリングの後輪独立懸架は日本国内仕様と同一で、それを聞いたビルエッタさんは驚きつつもうれしそうだった。


 ウエーバーの吸気音が好きなビルエッタさんは、このクルマを手に入れてすぐにキャブレターを交換した。ところが、ウエーバーのことはよくわかっていたつもりだったのに、エンジンが始動しなかったことに困惑。その原因を突き止めるまでが大変だった。すると思いも寄らぬことに、ガソリンチューブが全く違うところにつながれていたのだった。その不自然さに、ビルエッタさんは故意に施されたものかと勘ぐったが、腹を立てても仕方のないことだった。素直にそれを元に戻すと、すんなりとエンジンが始動。それ以来今日まで実に快調に走っている。

人物
スワップミート参加用に、最近71年式ダットサン521トラックを安く入手。しかしまともに動かなか
った。友人でメカニックのアルバレスさんが、手を真っ黒にしながらエンジンの調整をすると、見事、
元気に走るようになった。点火タイミングがかなりずれていたそうだ。

ダットサン510 日産リーフ 外観
ビルエッタさんの住むマウンテンビュー市の周辺には、ハイテク・インターネット企業が集まる。グ
ーグルの屋外駐車場の充電ステーションに止まっていた電気自動車、日産リーフとツーショット。左
に並んでいるのが充電器だ。奥には充電中のシボレー・ボルトの列があった。


 ビルエッタさんはレストランで働きながら一家を支えている。1年前まで3台の510を所有していたが、節約のために1台にしたそうだ。「一度にお金はかけられないから、少しずつ直しています」という。そんな家族の大黒柱に奥さんのエルバさんは協力を惜しまず、休みの日にはスワップミートにも一緒に参加する。クルマが大好きな11歳のランデルくんは「運転免許を取ったらこのダットサン510に乗るんだ」と指をさした。10歳になったばかりの弟のネイサンくんは「スカイラインに乗りたい!」のだそうで、ビルエッタさんは「お金がかかりそうだなあ」と笑っていた。そして、この4ドアの510を買う決心をするきっかけになったギャビーちゃんはもうすぐ3歳。クルマ好きの家族に囲まれて、これからどんな女性に成長するのだろうか。
 ダットサン510、日本名をブルーバードという。そう、幸せを運ぶ、あの青い鳥のことだ。

クルマ 人物
家族ぐるみの付き合いをする友人で520トラックのオーナー、デルリオ夫妻(後列)もこの日加わっ
て、お互いのクルマについてのこれまでのたくさんのエピソードに花を咲かせた。ギャビーちゃんと
ランデル君が抱えているガラス製のトロフィーは、地元のダットサンのイベントで思いがけず2位を
獲得したときのもの。




掲載:ノスタルジックヒーロー 2011年12月号 Vol.148(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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