F1グランプリの世界にミッドシップ革命を巻き起こした「サーキットの鍛冶屋」ジョン・クーパー|1967年 モーリス ミニ クーパーS Vol.1

ボンネット中央にモーリス/クーパーのダブルネームのエンブレムが装着される。

       
21世紀の現代に至るまで、代を重ねてきた「ミニ・クーパーS」。その名跡の源流となったのは「サーキットの鍛冶屋」と呼ばれた、F1界のレジェンド的エンジニアのアイデア、そしてモータースポーツにおける縦横無尽の活躍であった。

【輸入車版懐古的勇士 1967年 モーリス ミニ クーパーS Vol.1】

 1959年8月26日、のちに自動車の歴史を大きく塗り替えることになる小さなFF大衆車が、高鳴る期待と一方で猜疑の目にさらされつつ、センセーショナルなデビューを果たした。

 我が国の現行軽自動車規格を遥かに下回る小さなサイズ、当時ヨーロッパで流行中のバブルカーとも見紛うばかりのボディながら、10インチの小径タイヤをボディの4隅ぎりぎりに配置したことで、4人の大人が十分に乗れるスペースを確保したユーティリティー。短いノーズ内に、コンパクトなエンジンをトランスミッション真上に横置き、前輪を駆動するという画期的なパワートレーン。この革命的とさえ言えるパッケージングは、当時の自動車界に新しい時代の実用車の誕生を予感させたことだろう。


【画像14枚】英国内法規に合わせて、トランクを開けた状態でもナンバープレートが見えるつくりとされていたマーク2までのミニのリアビューなど

 そのクルマが「BMCミニ」であることは、今さら言うまでもあるまい。当初「モーリス」と「オースティン」両ブランドで生産されたミニは、その後の小型車のほとんどに決定的な影響を与えた一方で、自身も度重なる進化を経て2000年まで生き延びる超ロングセラーとなったのだ。

 しかしこの時、本格的な「乗用車」というにはあまりにもちっぽけなうえに、わずか803cc(直後に848ccに拡大)の直列4気筒OHVエンジンを搭載したミニが、のちにモータースポーツの第一線で、しかも最速最強のコンテンダーとして縦横無尽の活躍を示すことを予測できた慧眼の持ち主は、決して多くなかったに違いない。

 その数少ない目利きの1人こそ、「サーキットの鍛冶屋」として親しまれる一方、F1グランプリの世界にミッドシップ革命を巻き起こし、ミニが誕生したのと同じ1959年と1960年にチャンピオンシップを獲得したジョン・クーパーであった。そして彼は、友人であるイシゴニスに、より速く快適なミニを作ることを提案。1961年には997ccに排気量を拡大する一方、ツインキャブ化などで55 psまでスープアップした元祖「ミニ・クーパー」が発売されるに至ったのだ。



今回の取材車両では、BMC・Aタイプエンジンに「スピードウェル」社製ヘッドやウエーバー社製キャブレターなど、60年代英国の定番ライトチューンが施されており、現在でも180km/hでの走行が可能とのこと。





ミニ用としては定番として人気のあった「RAYDIOT(レイヨット)」ミラーも、現在ではレアなコレクターズアイテムとなっている。






1967年 モーリス ミニ クーパーS
SPECIFICATIONS 諸元
●全長×全幅×全高(mm) 3054×1397×1346
●ホイールベース(mm) 2032
●車両重量(kg) 698
●エンジン型式 12F
●エンジン種類 直列4気筒OHV
●総排気量(cc) 1275
●ボア×ストローク(mm) 70.6×81.3
●圧縮比 9.75:1
●最高出力(ps/rpm) 76/5800
●最大トルク(kg-m/rpm) 10.5/3000
●変速機 4速MT
●ステアリング形式 ラック&ピニオン
●サスペンション ハイドロラスティック・サスペンション
●ブレーキ形式 前ディスク/後ドラム(サーボ)
●タイヤサイズ 145R10SP(前後とも)

【2】【3】に続く

初出:Nostalgic Hero 2015年 12月号 vol.172
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1967年 モーリス ミニ クーパーS(全3記事)

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text : HIROMI TAKEDA/武田公実 photo : DAIJIRO KORI/郡 大二郎

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