順風満帆「TE71勢」に走った衝撃、鮮烈デビュー「快足ジェミニZZ」!|国内モータースポーツの興亡 ラリー編 Vol.4

TE71が絶対本命視されていた1980年全日本ラリー選手権のシリーズの中盤戦に、彗星のごとく現れたいすゞジェミニZZ。

       
量産車を使うモータースポーツは、改造規定が厳しく制限されるほど、生産車の持つ基本性能が重要になってくる。排ガス対策期を乗り切った80年代の高性能量産車は、日本のモータースポーツを発展させる原動力となっていた。中でもノーマル車をベースとした競技で、その中核をになったラリーを振り返る。

【国内モータースポーツの興亡 ラリー編 Vol.4】

【3】から続く

 切れ味のよいエンジンとバランスに優れたシャシーの組み合わせが、TE71を第一級のラリーカーに仕立て上げていた。が、それだけにユーザー数も多く、TE71勢同士で獲得ポイントが分散する側面を見せ、誰がチャンピオンを獲得するか、まったく分からないシリーズ展開となっていた。


【画像12枚】1.8LDOHCパワーに物を言わせて連勝を重ね、シリーズタイトル(金子繁夫)を逆転で奪取したジェミニZZなど


 そんな状況下の1980年シーズン第8戦、岩手山岳ラリーに突如登場したのがジェミニZZだった。1979年11月ジェミニシリーズに追加されたG181W型1.8L直列4気筒DOHCエンジンを積むモデルで、ラリーショップ、アッスルを率いる金子繁夫が持ち込んだ車両だった。このG181W型はTE71勢が積む2T‐G型を15 ps上回る130psを発生するエンジンで、強力な中速トルク特性と合わせ、2T‐G勢に対して「キロ2秒速い」圧倒的な戦闘力を示していた。

 このPF50/60系ジェミニは、ドイツ・オペル社のカデットを原型とするモデルで、フロント・ダブルウイッシュボーン/リア・3リンクコイルリジッドという、当時の標準的な乗用車サスペンションとは異なるメカニズムを持っていた。とくにトラクションジャダーを防止する意味で設けられたトルクチューブが、逆にリアアクスルの接地性に影響を及ぼすなど、TE71系とは逆にシャシー性能に不安を抱えるモデルでもあった。


 こうした意味では、TE71系が総合バランス型のモデルであったことに対し、ジェミニZZは完全にエンジン主導型モデルと言うことができた。

 金子のジェミニは、この岩手山岳ラリーでデビューウインを飾ると、第13戦R‐8・RALLY&ラリーまでの6戦を優勝5回、2位1回という驚異的な戦績で駆け抜け、並み居る強豪TE71勢を相手に単身挑む形で逆転シリーズチャンピオンを獲得。

 翌1981年は、タスカエンジニアリングが前年までのミラージュからジェミニに主戦車両を変更。TE71勢はすでに熟成の域にあり、Bクラス全参加車両中の半数近くに迫る主流派だったが、排気量で200ccの差、出力で15 psの違いは決定的で、山内伸弥のジェミニがシリーズタイトルを獲得。ジェミニは2年連続で全日本チャンピオンに輝くことになった。





独オペル社のカデットを、いすゞがモディファイしてジェミニとして市販。これに旧117クーペで使われた1.8LG181W型エンジンを搭載しZZとして量産化。車体性能よりエンジン性能が上回るクルマだった。




【5】に続く

初出:ハチマルヒーロー 2014年 05月号 vol.25(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

国内モータースポーツの興亡 ラリー編(全5記事)

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text & photo : AKIHIKO OUCHI/大内明彦

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