そして、広島からベルギーへ。スパ・フランコルシャンまでの歩み|R100スパ・クラシックレース参戦リポート Vol.5

2015年9月17日 スパ・フランコルシャン ついに加藤さんは夢にまで見たスパ・フランコルシャンの地に立った。オールドビットの先が有名なオー・ルージュコーナーだ。「リトル・ジャイアント」の異名をとったR100ロータリークーペが激走した、まさにその場所だ。

       
加藤さんの「スパ・ドリーム」実現にあたって大きなサポートを行ったマツダ。そのマツダとの橋渡し役となったのが、マツダのクルマ造りやモータースポーツ活動の情報を配信するウェブサイトを主宰するエムゼットレーシング代表の三浦正人さん。そこで、ここからは時計を巻き戻して、スパまでの道のりを三浦さんに語ってもらうこととしよう。

【R100スパ・クラシックレース参戦リポート Vol.5】

【4】から続く

 知己を頼ってマツダへアプローチしてみると、「それほどの長きにわたってマツダを熱烈に愛していただいているお客さまには、ぜひお会いしたい」との回答をもらい、加藤さんに連絡した。加藤さんは、「僕の個人的な夢なので、そんなに大げさにする必要ないですよ」とやや困惑気味だったが、なかば無理やり広島にお連れし、担当役員に会ってもらった。役員からは、「マツダはまさに加藤さんのようなお客さまとのご縁を大切にしたいと考えています。なんらかのご支援をさせていただきます」との返答をもらった。また古くからのクルマ仲間であるマツダ・デザイン本部長の前田育男さんとも会うことができ、加藤さんにとっては実り多い広島行きとなった。さらに、1970年のスパ24時間にエンジン担当メカニックとして帯同していたマツダOBの松浦國夫さんの話は、特に興味をかきたてるものだった。「あれは、私のレース人生で最もつらく、悔しい思いをしたレースでした。しかし、それを原動力にレース用ロータリーエンジンは改良を重ね、壊れないエンジンとしての評判を確立していきます。それが、1979年のデイトナ24時間優勝、1981年のスパ24時間優勝、そして1991年のルマン24時間優勝につながっているのです」と、松浦さんは語っていた。


【画像61枚】ファミリアが保管されている愛知県大府市のガレージなど


 2014年12月に岡山国際サーキットで行われたマツダファンフェスタで、ファンの群衆を前に加藤さんはスパ挑戦を宣言した。「40年以上にわたって夢見てきたスパに、私のファミリア・ロータリークーペで行ってきます」。当時ドライバーだったマツダOBの片倉正美さんや松浦さんも会場に駆けつけ、ファンとともに加藤さんに拍手でエールを送った。いよいよ機は熟した。

 国際的なヒストリックカーのレースに出場するために、オーバーフェンダーやブレーキ径などの改善を施し、既に入手していたもう1台のファミリア・ロータリークーペを31号車仕様へとコンバートし、リバリーを塗り直す作業も並行して行っていた。エンジン調整を含め、2台のマシンの準備ができたのは、欧州への送り出し期限のわずか10日前のことだった。

 かつて碧南マツダでロータリーエンジンの担当メカニックをつとめ、フォーミュラデビュー前の中嶋悟のサバンナRX︲3のメンテナンスを行っていたこともある杉山栄一さんが、2台のファミリア・ロータリーの従軍医師である。加藤さんと杉山さんは、REスギヤマのガレージで、ギリギリまで車両のセットアップに追われ、送り出し最終日の7月20日を迎えた。

 きれいにワックスがけされ、大型トレーラーの荷台に載せられた2台のファミリア・ロータリークーペは、春日井のガレージを後にし、一路広島へと向かった。70年の遠征時と同じ広島・宇品港から輸送船に乗り、ベルギーのアントワープへと向かうためだった。


2015年7月 静 岡
加藤さんは、FIA公認を証明するヒストリック・テクニカル・パスポートを入手するため、オーバーフェンダーを規定に合うように小さく作り直しすなど、車両の改修に多くの時間を費やした。14年12月の岡山での写真と比べるとよくわかるだろう。ようやく準備が完了したのは、シェイクダウンテストの数日前だった。




2015年7月 愛 知
吸排気系をシールし電気系統もビニールで覆うなど送り出し準備を行ったのは、現地スパでもメンテナンスを担当するREスギヤマ。トレーラーに積み込まれた2台は、広島を経てベルギーのアントワープへ向かった。




2015年9月 東 京
東京のマツダ本社を訪れた加藤さん(右)。チームウエアは1970年当時にマツダワークスが着用したものを正確に再現。レーシングスーツも新調し、準備は万全。前田さんが着用しているのは最新のマツダ役員チーム用スーツだ。




2015年9月17日 スパ・フランコルシャン
ついに加藤さんは夢にまで見たスパ・フランコルシャンの地に立った。オールドビットの先が有名なオー・ルージュコーナーだ。「リトル・ジャイアント」の異名をとったR100ロータリークーペが激走した、まさにその場所だ。



【6】に続く


初出:ノスタルジックヒーロー 2015年 12月号 vol.172(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

R100スパ・クラシックレース参戦リポート(全6記事)

関連記事: マツダ GO

関連記事: ファミリア

text & photo : MASATO MIURA(MZ RACING)/三浦正人(エムゼットレーシング)

RECOMMENDED

RELATED

RANKING