北欧のミュージアムで展示される、きれいな2代目トヨタ・カローラ|エスポー自動車博物館/フィンランド エスポー Vol.1

旧東ドイツで製造された1956年式IFA・モデルF9。ボディの鉄板がやたらと分厚く頑丈で、屋根をたたいてもゴンゴンと音がするだけ。押しても蹴ってもへこみそうもないほどだ。それでも、2サイクル2気筒エンジンを積んだ車体は、車重わずか900kg。DKWは現アウディの母体となった会社だが、IFAは東ドイツ版DKWともいえたメーカー。このクルマの展示に代表されるように、東西のクルマが入り交じったのが実にフィンランド的。エスポー博物館の魅力だ。

       

100年を経た元・馬小屋の建物 手作り感満載のミュージアム

【エスポー自動車博物館/フィンランド エスポー Vol.1】

北欧フィンランドの首都ヘルシンキ。そこから西へ約20km行ったエスポーという街にあるミュージアムを紹介しよう。築後100年という建物の中には、庶民が普通に使ってきたクルマたちが展示されている。肩肘張らない、優しい雰囲気の空間が魅力的だった。

非常にきれいな状態で展示されていた2代目トヨタ・カローラや、初代ホンダ・プレリュードなど【写真22枚】

 ヨーロッパの北に位置する国、フィンランド。独自の自動車メーカーを持たないこの国には、小規模の自動車博物館が点在している。そのうち首都ヘルシンキ近郊で、比較的大きな規模を誇るのが「エスポー自動車博物館」だ。

 この博物館の原型は、地元のレーサーだったラフ・フフタさんのレース車両保管庫だった。それを博物館とする構想を打ち出し、1979年エスポー自動車博物館として運営が始まった。現在は市販車両の展示が主になっていて、特徴的なのは、旧東西世界のクルマが入り交じって展示されていること。西欧と東欧の間に位置したフィンランドという国の地理と歴史をよく示している。




1990年式トラバント。旧東ドイツで開発、製造された2サイクルエンジンのクルマとして1958年にスタートし、1991年まで製造された。この最終型は1990年の東西ドイツ再統一の際に登場したモデルで、ぐっと近代的になった4サイクル水冷エンジンを搭載した。この個体は展示に向けて博物館のスタッフが作業中で、これからエンジンルーム内の整備を行うところだった。





1931年式オースチン・セブンはイギリスで大衆向けに簡素な作りで低価格を実現したクルマ。日本の国民車構想のはるか前のことだ。そんなセブンは複数の国でライセンス生産された半面、日本ではダットサンの製造した11型(1932年)がセブンを参考にしたと言われている。セブンを設計したハーバート・オースチンは、ダットサンによる技術盗用を調査するため、量産態勢に入った1935年式ダットサン14型を入手したが、結果的には特許訴訟には至らなかった。それは、ダットサンが35年からの初の工場量産に向け技術をどんどん進化させていて、14型ではすでにセブンとは似ても似つかないクルマになっていたからだった。






フィンランドの歴史の一部を物語る消防車。展示用に車体中央に設けられた板にそれが暗示されていた。そこには「ビープリ町消防車1936-40」、「オリマッティラ町消防団1940-91」とある。ビープリは40年までフィンランド東部の町だったが、いわゆる「冬戦争」を経てロシアに割譲されてしまった(現在はビボルグと呼ばれるロシアの町になっている)。オリマッティラはフィンランド南部の町。その2行の間に「オリマッティラへ行くのが楽しみだ」と書いてあるのは、冬戦争の末にビープリから立ち退くはめになったフィンランド人の不運な歴史を皮肉ったものだ。


【2】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2015年 10月号 vol.171(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

エスポー自動車博物館/フィンランド エスポー(全2記事)

関連記事: 博物館へ行こう

text & photo:HISASHI MASUI/増井久志

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