トヨタのスポーツ・スピリット Vol.2|DOHC搭載のスポーツモデル。その裾野を広げるスポーティーグレードとは?

ボディのモール類を廃し、ブラックに塗られたスチールホイールを装着するなど、スパルタンな雰囲気を演出していた。KP31パブリカ1200 SR。

       
【トヨタのスポーツ・スピリット Vol.2】

【1】から続く

 トヨタ自動車はファミリーカーを得意とするメーカーとして知られている。実際、カローラやクラウンなど、ちょっと上質なセダンを生み出す自動車メーカーといったイメージが強い。保守的なクルマ造りをしているように思われているが、トヨタは早い時期からスポーティーな走りにこだわってきた。積極的に前衛的な2シーターのスポーツカーも送り出している。

 60年代から以降、トヨタは関連企業にも力を借りて、少量生産のスポーツモデルを送り出し続けている。

DOHC搭載車を各車種に用意

 ヤマハ発動機のエンジニアたちと共同で開発し、1967年5月に発売されたトヨタ2000GTは、メカニズムも進歩的だ。エンジンは高回転まで回すことができ、高性能化しやすいDOHCレイアウトで、しかも日本初の直列6気筒DOHCである。トランスミッションも5速MTを採用した。

 これ以降、トヨタはファミリーカー用のエンジンをベースに、ヘッド部分をDOHC化する手法を好んで使うようになる。燃料供給はソレックス40PHHキャブで、これを複数付けて高出力化を図った。排ガス規制が厳しくなると電子制御燃料噴射装置のEFIで高性能をキープしようと努めている。トランスミッションは5速MTだ。これもスポーツモデルの象徴だった。

ツインキャブやフロントディスクブレーキなどが奢られたトヨタの人気スポーティーグレードなど【写真12枚】

 トヨタ2000GTのサスペンションは、4輪ともダブルウイッシュボーンの独立懸架である。ステアリング形式もクイックなラック&ピニオン式だ。当時としては最先端を行くメカニズムを多く採用していたが、トヨタのスポーツモデルはこれ以降、サスペンションやステアリングギアなどのメカニズムについては、保守的な取り組みに転じた。その理由は、ベースとするクルマの多くがファミリーカーになったからである。

 トヨタは高性能モデルでレースやラリーに出場し、勝利することがメーカーのイメージアップになると知っていた。が、2人乗りのスポーツカーや硬派のスパルタンモデルは採算ベースに合わないとも考えていたのである。そのため量産車ベースのスポーツモデルやホットモデルを開発し、コスト低減に努めた。この設計ポリシーが大きく変わるのは、1981年に異次元の性能で世間を驚かせたソアラからだ。

 トヨタ2000GTが発売されて以降、DOHCエンジンはトヨタのスポーツモデルを語るうえで欠かせないアイテムとなる。ハードトップボディをまとったコロナ1600Sからは、さらに高性能を目指したトヨタ1600GTが生み出された。エンジンは9R型直列4気筒DOHCで、これにソレックス40PHHキャブを2連装している。この方程式は、セリカ1600GTなどに積まれた2T‐G型DOHCエンジンやマークⅡ2000GSSの18R‐G型DOHCでも踏襲された。

 トヨタのスポーツモデルの魅力は、すそ野が広いことである。クルマ好きの若者が手軽にスポーツ感覚を楽しめるスポーツモデルをクラスごとに設定した。カローラはエンジンこそOHVだが、これにSUツインキャブを装着し、5速MTを組み合わせた「SL」や「SR」を用意している。

 SLでは飽き足らないマニアにはセリカに積んでいた2T‐G型DOHCエンジンを移植し、サスペンションをハードに締め上げたレビンとトレノを提供した。ファミリーカーのコロナにまで、DOHCエンジンを積むGTをラインナップしているのはトヨタの良心だ。その逆もある。セリカはスポーツイメージの強いスペシャルティカーだが、ムード派のSTやLTも用意していた。表現の巧みさと豊富な選択肢によって、若者たちやクルマ好きをワクワクさせてくれたのが、トヨタのホットモデルとスポーツモデルだ。

※写真はスポーティグレードのものです。



SRというグレードも、トヨタの人気スポーティーモデル。ボディのモール類を廃し、ブラックに塗られたスチールホイールを装着するなど、スパルタンな雰囲気を演出していた。KP31パブリカ1200 SRも、ツインキャブで若者向けの仕様だった。




初出:ノスタルジックヒーロー 2015年 08月 Vol.170 (記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

トヨタのスポーツ・スピリット(全2記事)

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text : HIDEAKI KATAOKA/片岡英明

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