見どころは戦闘機の設計で培ってきた空気抵抗力学と軽量化技術|1965年式 トヨタスポーツ800 Vol.2

アルミ地にアルマイト処理が施されたメーターパネルが、スポーツカーらしさを引き立たせる。

       
ライトウエイトスポーツと呼ばれるクルマは多い。今でも軽量ボディのスポーツモデルは存在する。が、最近のクルマは安全対策や快適装備を盛り込んでいることもあり、車両重量は思いのほか重くなってしまった。軽量化と気持ちいい走り、優れた経済性は、設計者にとって永遠の課題だ。この難問を半世紀も前に解決したのが、トヨタスポーツ800である。

【1965年式 トヨタスポーツ800 Vol.2】【1】から続く

 パブリカとともに長谷川龍雄の設計哲学がよく分かるのが、1962年秋の第9回全日本自動車ショーに参考出品した「パブリカスポーツ」だ。そのネーミングからうかがい知れるように、メカニズムの多くは空冷の水平対向2気筒エンジンを積むパブリカ700のものを用いている。これはライトウエイトスポーツの試作車で、研究用のクルマだった。だが、社内で評判がよかったのでショーに参考出品したのである。

【画像22枚】今となってはとても貴重な10穴のホイールカバーなど

 パブリカスポーツは脱着式のスライドルーフに目がいくが、見どころは時代の先を行くエアロダイナミクスと徹底した軽量化だ。開発プロジェクトの中心となった人物は、立川飛行機出身のトヨタ自動車工業のエンジニア、長谷川龍雄さん。その長谷川さんは戦闘機の設計で培ってきた空気抵抗力学と軽量化技術を駆使して、この試作車を造っている。

「空気力学的アイデアによって出発した航空機ムードのボディスタイルに、風洞実験による修正を加えて、空気抵抗の少ないボディとした」

 と、取材の時に長谷川さんは述べている。また、アルミ材やプラスチックなどの樹脂も積極的に使おうと考えた。このパブリカスポーツを正常進化させ、量産に向けて改良を加えたのが2代目のパブリカスポーツだ。1964年秋の第11回東京モーターショーに参考出品され、翌1965年春にトヨタスポーツ800と名を変えて正式デビューを飾っている。

 量産モデルは左右にドアを追加し、ルーフ部分は取り外し可能なオープントップとした。エンジンは790ccの2U型水平対向2気筒OHVだ。パワフルとは言いがたいが、優れたエアロダイナミクスと580kgの軽量ボディを武器に、さえた走りを見せつけている。何度かステアリングを握り、サーキットで走らせたこともあるが、理屈抜きに運転するのが楽しい。21世紀の今になってよく分かるのが、長谷川さんの卓越した先見の明と設計の妙だ。





メーターは左からタコ、油圧+油温、スピード、電流+燃料の順に配置される。




シンプルなデザインのシフトノブ。同系のトランスミッションを使うパブリカと比べると、ノブ自体は短くなっている。




初期型のシートは、表面ステッチのパターンに特徴がある。シートバック上部に横方向のステッチが入るのが初期のモデルで、1966年6月からシートバック上端から縦6本のステッチに変更スポーツカーらしさを引き立てる、アルマイト処理されたメーターパネルなど


1965年式 トヨタスポーツ800(UP15)
SPECIFICATIONS 諸元
全長 3580mm
全幅 1465mm
全高 1175mm
ホイールベース 2000mm
トレッド前/後 1203/1160mm
最低地上高 175mm
車両重量 580kg
乗車定員 2名
最高速度 155km/h
登坂能力 sinθ0.464
最小回転半径 4.3m
エンジン型式 2U型
エンジン種類 空冷水平対向2気筒OHV
ボア×ストローク 83×73mm
総排気量 790cc
圧縮比 9.0:1
最高出力 45ps/5400rpm
最大トルク 6.8kg-m/3800rpm
変速機 前進4段・後退1段、2〜4速シンクロメッシュ
変速比 1速 4.444/2速 2.400/3速 1.550/4速 1.125/後退 5.812
最終減速比 3.300
燃料タンク容量 30L
ステアリング形式 ウォーム、セクターローラー
サスペンション前/後 独立懸架トーションバー式/非対称半楕円
ブレーキ前/後 ツーリーディング/リーディングトレーリング
タイヤ前後とも 6.00-12-4PR
発売当時価格 59.5万円

【3】に続く


初出:ノスタルジックヒーロー 2015年 08月 Vol.170 (記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1965年式 トヨタスポーツ800(全3記事)

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text : HIDEAKI KATAOKA/片岡英明、NOSTALGIC HERO/編集部 photo : ISAO YATSUI/谷井 功

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