プリンス スカイラインGT-BとプリンスR380 タイプ1 総力戦で迫ったポルシェの後ろ姿 2

日本のレース原点となった2台の兄弟車、スカイラインGT-BとプリンスR380 1型。GTカーとして参戦したツーリングカーのスカイラインGTは、ポルシェ904の登場に意表をつかれ、その屈辱から本格的なレーシングカーというより、ポルシェに勝てるレーシングカーの製作へと突き進んでいく。これがまさにR380なのだ。


 クランク軸の長大化が重量増の決定的要因となる直列6気筒は、軽量コンパクト化を最善とするレーシングエンジンの設計思想では、いつの時代も敬遠される傾向にあり、近代レーシング史のなかでは、一定の成果を収めたエンジンは稀である。自信をもって一時代を築いたと断言できる直6は、このGR8型とBMW・M88型ぐらいのものだろう。

 GR8型は、メカニズムの上で直接G7型とのつながりはなく、プリンスは白紙状態で純レーシングエンジンの開発に臨めたはずだが、それでも2リッターと直列6気筒に落ち着いたのは、この枠組みに技術的なノウハウや自信があったことと、4気筒系の評価を一段低く見積もっていたためだろう。

 当時のレーシングエンジンは、高出力化のために高回転化を目指す傾向が強く、ピストン速度を低く抑えられるマルチシリンダー化は、高出力化への絶対条件と考えられていた。

 実際、グループ4(スポーツカー)、グループ6(プロトタイプカー)で使われたエンシンを眺めてみると、2リッター級では4気筒がなく、アルファロメオ・ティーポ33のように、2リッターながらV8のレイアウトを採用するメーカーすらあった。また、範囲をF1にまで広げれば、1.5リッター時代に12気筒を採用した、ホンダのような例も見ることができた。

 スペースフレームの車体構造を、ブラバムに学んだことは、エンジン選択とは逆に、ある種の手堅さと受け取ることができる。当時、市販されるスポーツカーシャシーはそれほど多くなく、せいぜいロータス(23/30/40)かブラバム(BT5/BT8)あたりで、堅実な設計手法のブラバムが目に止まった、ということなのだろう。

R380 外観 真横
G7型をレース用に昇華させたGR8エンジンで、この長大な直列6気筒をミッドシップマウントした
R380。そのパッケージングでは重心位置、重量バランスの点で必ずしも好都合ではなかったはず
である。

R380 外観リア
生産型のセダンとレース専用車のR380で、ボディ構造やデザインに共通性があるわけもないが、テ
ールランプをスカイラインGT用としたことで、両者の間になんらかの関係があることを示唆するこ
とになるから不思議なものだ。レーシングカーのイメージを市販車に重ね合わせる手法は、その後
スカイラインの定番となっていく。


 しかし、これも時期を考えるとなかなか微妙で、あと2~3年時代が遅ければ、ローラやマクラーレンがグループ7カーで広めたモノコック構造が採られていた可能性も十分あった。ただ、日産も含め日本のレーシングカーは、主戦場となった富士スピードウェイの30度バンク対策として、耐久性に優れるスペースフレーム構造を採用する例が相次いでいた。

 それにしても、ポルシェ904の登場で一種のカルチャーショックを受けたプリンスが、打倒ポルシェを目指してレーシングカーのプロジェクトを立ち上げ、そのR380が熟成の度を深めると、今度はポルシェが目指すル・マンを意識し始めることになるのだから、なんともおもしろい巡り合わせになっていくと思えてしまう。

 ただ、日産のル・マン挑戦が結実するのは、実にこれから20年後のこととなるのである。


R380 エンジン
グロリア用に開発されたG7型直列6気筒エンジンをレーシング用に昇華させたのがGR8型となる。現
存するエンジンは日産時代になってからのものが大半で、このR380 1型に積まれたカムカバーにプリ
ンスの文字が刻まれたものは貴重である。

R380 シャシー

R380が基本構造に大きな間違いもなく改良を重ねて正常進化を果たせた裏には、堅実で基本理論に
忠実なブラバム製シャシーを手本としたことが挙げられるだろう。その後、出力の向上で基本剛性の
見直しも図られたが、初期のR380を短時間で戦えるレーシングカーとした陰の主役は、紛れもなく
BT8のシャシーということになるだろう。

R380 インパネ
R380 1型のボディカウルはアルミ製。コクピット回りのデザインは、純レーシングカーらしくシン
プルなものだが、マイル表示のスピードメーターが設けられていたことは少々驚きだ。ポルシェ904
のように、将来的には公道も走れる高性能スポーツカーとしての販売を意識していたのだろうか?


掲載:ノスタルジックヒーロー 2011年8月号 Vol.146(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Akihiko Ouchi/大内明彦 photo:Masami Sato/佐藤正巳 cooperation:Nissan Motor Co.,Ltd./日産自動車

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