「五感の響宴」エンジン音にターボのスプール音が重なって、旧車独特のにおいのトッピングが!|1980年式 日産 スカイライン HT 2000 GT Vol.3

大きなボンネットにフェンダーミラーという日本旧車独特の特異な景色を運転席から眺めることは、オーナーにだけ与えられた特権であろう。

       
カナダ発! ニッポン旧車の楽しみ方
【1980年式 日産 スカイライン ハードトップ 2000 GT Vol.3】


【2】から続く

クルマを学ぶためのC210

 オージラさんの手元に届いた銀色に輝くスカイラインは、「3m離れて見ればきれいに見える」という状態だった。

「公道上に出す前にずいぶん手を入れました。ボディ全体に出ていたサビを一通り直して、いじり回されていた足回りはS 13シルビア用のパーツを流用して組み直しました。傷みのひどかった内装も全部はがして、オーディオと合わせて自分の好みに仕上げました」。

 と説明してくれたオージラさんは、現在32歳の実業家。14年前にカナダへ移住し、商業不動産のマーケティングの仕事をした後、地元フランチャイズのハンバーガー店オーナーとなった。複数所有する店舗を慌ただしく回りながら、「自分でも調理をする」毎日。フェラーリF355とフォード・マスタングをも愛車にするオージラさんにとって、スカイラインの位置づけは「クルマを学ぶための学習用」だという。

「クルマの内部も外部もしっかり学んで自分の手で改造をしてみたい。そのために一番大切なのは、実際に自分で旧車を改造してみること、と父が言っていました。このスカイラインは私にとって初めての試みになります。エアケアの心配はなくなるし、父や友達に聞いたりインターネットフォーラムで調べたりしながら、ようやくこれから機関にも手をかけ始めるところなんです」。

 とその気持ちを表現してみせた。

 改造が浸透しているカナダゆえ、オージラさんもエンジンを換装しようと一度は考えたが、このスカイラインに搭載されたエンジンが日本初のターボエンジンだと知って踏みとどまった。

「C210はマイナーだし、パーツを手に入れるのがとにかく大変。運転するたびになにか壊れるんじゃないか、人にぶつけられるんじゃないかと、ドキドキしながら運転しています」

 そう思いながらも外へ出て走るのをためらわないと言うオージラさんは、このターボのスカイラインを運転する快感をこんな言葉で語った。

「運転席からの眺めが大好き。長くて平らで真四角なボンネットにフェンダーミラーが乗っかっているのって、ものすごく個性的に映ります。低回転から加速していくとエンジン音にターボのスプール音が重なってきて、そこにエキゾーストの音がかぶさって、さらに旧車独特のにおいのトッピング……。こんなフィーリングは他のどんなクルマだって味わえない。こんな空間は、世界の他のどこにも存在しない。まさに五感の饗宴です」。

 今、世界に轟くGT‐Rの名声の陰で、歴代スカイラインは旧車となり、自ら海を渡ってその伝説と実力と、そしてその魅力を海外へと伝え始めている。こうして世界は、日本旧車の歴史への理解を、ますます深めつつあるのだ。


1200kgを超えるジャパンの車体を力強く加速させた日本初を誇るターボエンジン、L20E-T型など【写真13枚】




愛車3台を比べると「スカイラインは静かで平和」というオージラさんは、カナダ唯一というこのC210スカイラインがすっかりお気に入り。「人との会話が最高に楽しい。『こんなクルマ、見たことない』っていう人がほとんどで、たとえスカイラインを知っているという人でも、『実際に見たのは初めて』っていいます。走っているとサムズアップはもちろん、『ナイスカー! 』って叫んでくれた人もいたくらいです。信号で止まるたびに、むしろ話しかけられないことのほうが珍しいくらい。こんな体験、たとえフェラーリに乗っていたってできません」






オージラさんが大切にしているという日本の雑誌を開くと、スカイライン・ジャパンの見開き広告が飛び出した。「当時の日本の『プレイボーイ』にC210の広告が載っていたと誰からか聞いたのですが、何年何月号かまったく分からなかったので、インターネットに出ていた古本を片っ端から買って見つけました」とオージラさんは話してくれた。





日本初を誇るターボエンジン、L20E-T型。L20型が採用していたターンフロー式の吸排気では、吸排気管の取り回し上ターボ装着との相性が良く、この乗用車用ターボエンジンは15psアップの145psをひねり出して、1200kgを超えるジャパンの車体を力強く加速させた。ドイツでは70年代初頭からターボ車が登場していたが、日本は10年近く遅れたものの、満を持してドイツ勢とのターボ競争に火花を散らし始めた。ジャパンはその牽引役だった。

【1】【2】から続く


初出:ノスタルジックヒーロー 2015年 02月 Vol.167 (記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1980年式 日産 スカイライン ハードトップ 2000 GT(全3記事)

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text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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