ルパンⅢ世のあのCM前のズッコケぐるまがモチーフか?|あなたの知らないアルミ弁当箱の世界 その2 クラシックカー編

ダットサン ベビィと思われるクルマが描かれたかわいい弁当箱だが、実は謎が多い一品だという。

       
【1】から続く

戦前に生まれたアルミ弁当箱は、金属物資不足のため戦時中には一時姿を消したが、戦後復興の歩みの中で復活し一般に広まった。やがてアルミ弁当箱の蓋には絵柄が入れられるようになり、クルマの絵や漫画のキャラクターが描かれたものが子どもたちの人気を集めた。誰もが親しんだアルミ弁当箱の世界を覗いてみよう。



 1970年代後半に一大ブームを巻き起こしたスーパーカーブームが、アルミ弁当箱の世界にも広がったことは、前回の「あなたの知らないアルミ弁当箱の世界 その1」で紹介した。ここでは、70年代後半のスーパーカーブーム以前は、どのような「クルマ」たちがアルミ弁当箱に描かれていたのかについて見ていきたいと思う。

前回より、アルミ弁当箱の解説をお願いしている「日本アルミ弁当箱協会」の会長を務める「マツドデラックス」さんにまずは概要を伺ってみる。

「謎」が多いアルミ弁当箱のイラストの由来などを「想像と妄想」していく【写真7枚】


マツドデラックス氏
「日本アルミ弁当箱協会」の会長を務める「マツドデラックス」氏。『新人類』と言われた『花のサンパチ』。
元ソフトテニスの日本リーグプレイヤーでもあり、漫画の原作も行う。
350を超えるコレクションの中から、今回は自動車関連やヒーローものなどのアルミ弁当箱をセレクトしていただいた。


――(マツドデラックス《以下マ》)トレンドは大きく三つに分けられます。1つめは「実車」であるクラシックカー。2つめは、その時代憧れの存在であった「レーシングカー」。そして3つめは「漫画、特撮」などに登場するクルマたちです。中には真面目なアルミ弁当箱もあれば、あれ? っと思うような弁当箱もあります。そして、一方スーパーカー後の世界。つまり70年代後半から80年代は「アニメキャラクター」一色になっていきます。前回同様今回も私のアルミ弁当箱コレクションの中からいくつかピックアップし、おもしろマジメに紹介してまいります。

ダットサン ベビー(サンケイ)

このイラストではオープンカーとして描かれているが実際のダットサン ベビィはクーペタイプのボディだった。

――(マ)この弁当箱は「謎」が多いアルミ弁当箱のひとつです。まず製造元として刻印のある「サンケイ」というメーカー自体に不明な部分が多く、現存するアルミ弁当箱(絵が描かれている物)も少ないようです。この弁当箱に描かれているクルマは「ダットサン ベビィ(ダットサン ベビー)」と思われるのですが、実在するクーペタイプのボディではなくオープンタイプで描かれており、「グレー」なものとなっています。ダットサン ベビィは、1965年から1973年まで神奈川県横浜市(一部東京都町田市にまたがる)にある「こどもの国」で活躍した「子供専用」のクルマでした。ベース車は、コニーのグッピーで約200ccのエンジンを搭載したAT車でした。子供専用免許を独自に発行していて、私も子供時代に1度訪れたことがありますが、乗れる年齢ではなっかたのでチャンスを逃しております。

−−(編集部《以下編》)ダットサン ベビィは「こどもの国」で使われていた乗り物。今でいうゴーカート的なものだが、より本格的なものだった。車両のベースは愛知機械工業が生産していたコニー グッピーという小型のピックアップトラックだ。デザインは初代フェレディZのデザインを手掛けた松尾良彦氏が担当。グッピーは小型トラックだったので、子どもたちがより楽しく乗れるようにとスタイリッシュなクーペスタイルの乗用車を目指してデザインしたそうだ。松尾さんは、BMWイセッタや、フィアット500などを意識したと語っている。200ccのエンジンに組み合わされたのは岡村製作所(現在はオフィスファニチャーなどでおなじみだが、1951年に画期的な純国産トルクコンバータの開発に成功している)製のオートマチックミッションを備えていた。2015年には、こどもの国の開園50周年を記念して、日産がレストアを手掛けており(当時そのニュースをご覧になった方も多いことだろう)、その際にレストアされた車両が今も時折日産のショールームに展示されている。そんなダットサン ベビィをモデルにしたと思われる貴重なアルミ弁当箱がこれだ。


弁当箱の底に入れられたSANKEIの刻印

――(マ)アルミ弁当箱としては、当時「赤」は女の子向け、「青」が男の子向けという定説もあったようなのでこの弁当箱は女の子用として販売されていたのかもしれません。

−−(編)当時は男の子向け、女の子向けのアイテムは明確に別れていた時代。青=男の子、赤=女の子という色分けも定番的だった。だが、子供向けの乗り物とはいえ、女の子向けにわざわざクルマ(しかも運転手は男の子)の絵柄をあしらうというのはどういうわけなのだろうか? という疑問も湧いてくる。氏がいうように、アルミ弁当箱の世界は、すでに製造メーカーが現存しないところがほとんで、当時の企画意図などは謎のまま。ゆえに「想像と妄想」で楽しむほかはないのだというが、まさに謎は謎のままだ。


クラシックカー アルファロメオ TYPE6C(メーカー不明)


――(マ)クルマシリーズとしては意外と正統派ではないかと思われるこのアルミ弁当箱ですが、実は、これも「想像と妄想」を掻き立てずにはいられない一品です。製造元は不明(刻印なしのため)、シリーズ化として他の絵柄の同タイプを見たこともない。と謎は続き、なにより気になるのは何故この車種が選ばれたのか? という点です、その理由を想像すると妄想は無限に広がっていくのです。

−−(編)1931年製と表記された「アルファロメオTYPE6C」は、おそらく「ミッレミリア」などで活躍した1750グランスポルトを描いたものだろう。時代を代表する名エンジニアであるヴィットリオ・ヤーノの傑作と言われ、輝かしい戦績を持つこの車両がアルミ弁当箱に描かれたことは、現在から見れば納得できる話でもある。だが、この弁当箱を製造していた当時は、海外のモータースポーツ事情などはあまり一般的に知られていなかったはずだ。もし、タイプ6C 1750グランスポルトの活躍を知っていて採用したとすれば、その担当者はかなりのマニアだったことになる。逆に知らなかったのだとすれば、いつどこでこのクルマの存在を知り、弁当箱の絵柄に採用しようと決めたのか? たまたま雑誌や図鑑などで見かけただけなのか……。

――(マ)商品を企画し販売したのはおそらく1960〜70年前後。とするとその時点で30〜40年前に活躍したクラシックカーを、どうしてアルミ弁当箱の絵柄に採用しようと思ったのか? 当時の担当者の心中どうだったのか興味を掻き立てずにはいられません。


クラシックカー アルファロメオ? メルセデス?(フジマル工業)

上の青いクルマはメルセデス・ベンツSSKに似ているように見えるが、下の赤いクルマはアルファロメオ? 
それともブガッティ? はたまた全く別のクルマか?


――(マ)よっぽどの「クルマ好き」か、たまたまこのクルマを選んだのか? もしかすると企画担当者がルパンファンだったのか? とついつい妄想を広げてしまう楽しい絵柄です。「ルパンⅢ世(シリーズ2)」でCMの時にルパンが飛び乗りサスペンションが壊れて傾き、ハンドルが取れるあのクルマがアルファロメオなんですね。下の赤いクルマをアルファロメオ、上の青い車がメルセデス・ベンツと考えると、「ルパンⅢ世」の影響だったと妄想できるのです。そう考えるとアルミ弁当箱の図柄が決まるまでにどのような「企画会議」が行われていたのか想像するだけで楽しくなります。

−−(編)「ルパンⅢ世(シリーズ1)」に登場するルパンの愛車はメルセデス・ベンツSSK、そして、氏が指摘するように「ルパンⅢ世(シリーズ2)」でCMの時に登場するのが、アルファロメオ・タイプ6C 1750グランスポルトだ。青いクルマがメルセデス・ベンツ SSK、下の赤いクルマがアルファロメオと考えると、氏の言う通りルパンにインスパイアされたに違いないと解釈できる。だが、上のSSKは確かにそれっぽいが、下はアルファロメオというよりブガッティに似ているような気もする。そうなるとルパンとは無関係? とも考えられるはず。すると今度は逆になぜゆえ、その組み合わせになったのかという新たな疑問が湧いてくる。ブガッティならボディカラーは青にすべきだろうし……。逆に特定の車種とわかりにくいようにしたのか? とまさに「想像と妄想」は広がるばかり。まさに氏が言うように、当時このフジマル工業でどんな「アルミ弁当箱図柄決定会議」が行われていたのか、ひと目覗いてみたくなる!



初回のスーパーカーシリーズに続く、2回めはクラシックカー編、次回は、レーシングカー編をお届けします。お楽しみに。

【3】へ続く

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