「主人は決して売らないと申しておりましたが……」カナダ固有のモデル「シビックスペシャルX」と忘れられないエピソード｜1979年式 ホンダシビックワゴン　Vol.3

アメリカ発！ニッポン旧車の楽しみ方 カナダ・スペシャル【1979年式 ホンダシビックワゴン　Vol.3】

【1】【2】から続く

忘れられないエピソード

　すっかりホンダ熱に取り付かれたマーチさん一家は、ジャスティンさんが新たにシビックを入手してくると、トワイラさんがそれを許してあげる、というコンビでコレクションが増えた。

「クルマというのは私にとって、電気で動くものじゃなくて、あくまでもメカ、機械なんです」
　と主張するジャスティンさんは、もちろん旧車一本槍だ。

　カナダの冬は寒く、路面が凍るので、道路に塩をまく地域もある。当然サビの少ない旧車をアメリカに求めたくなる。ジャスティンさんもインターネットの売買サイトを通じて、国境を越えてすぐのワシントン州にあったN600を見つけた。ところがこれには、
思わぬ顛末が待ち構えていた。

　先方へ出向いて購入を終えて、自走で国境まで戻ってきたのだが……。
「国境の手前のガソリンスタンドにしばらくN600を置かせてもらって、その間に車両輸出の手続きを済ませました。でも3日間もかかりましたよ」
　とジャスティンさんは経験を語った。カナダに持ち込んだ後は自治体の規定に従った車両検査が待っている。

「排気系を変更して、ついでに内装もきれいにして、検査の準備ができたところだったのですが」

　ところがどこから噂が伝わったのか、ワシントン州在住のあるコレクターがジャスティンさんにコンタクトしてきた。

「それで交渉の末、譲ってあげることにしました」とジャスティンさん。これはつい最近の出来事だ。

カナダ固有のモデル「シビックスペシャルX」

　コレクションとともに、人とのつながりも増えた。さらなるエピソードを、今度はトワイラさんが語ってくれた。

「97年のことでした。スペシャルXという黒いシビックを近所で時々見かけていたんです。あるときご主人が奥さんを助手席に乗せてあげてドアを閉めようとしたら、うまく閉まらない様子でした」

　私はピンときたんです、とニコニコしながらトワイラさんは話を続けた。

「初代シビックは、ドアのゴム部品が傷むとドアが閉まらないことがあるんです。だから2人に『うちの主人が直せますよ』って声をかけてあげて。それ以来すっかり仲良くなって、主人がそのスペシャルXの面倒をずっと見てあげていました」

　その2人は黒いスペシャルXをとても大切にしていたようだったが、2009年にご主人が亡くなった。

「奥さまが訪ねていらして『主人は決して売らないと申しておりましたが、こうなった以上、お2人に持っていただくのを望んでいるはずです』と、伝えてくれました」

　カナダへも渡った70年代の日本車は、今日までにカナダの重要産業へと大きく発展しただけでなく、カナダのリベラルな風土に受け入れられて愛好家による改造文化が生まれた。その伸び伸びとしたカナダの旧車改造の文化は、個性から経済性へと姿を変えていく現代のクルマに対する、過去からのアンチテーゼのようにも映るのだった。


純正灰皿の位置からディスプレーがせり上がってくる、まるで映画「007」さながらのジャスティンさん自慢の格納式ディスプレーなど【写真20枚】





シビックスペシャルXは、1200をベースに造られたカナダ固有のモデルだった。「X」はローマ数字で10の意味で、ホンダカナダの創立10周年を示す。1979年モデルとして1978年にリリースされたものである。






中庭を通り過ぎると裏通りに面してガレージがあり、そこにもシビックが並べられていた。ガレージは2台が悠々と収まり、十分な作業台や空間も確保されていた。中ではトワイラさんのフォルクスワーゲン・ピックアップがレストア中だった。




マーチさん一家は4人家族。3歳のオーブリーちゃんをだっこするジャスティンさん、並んで立つのが奥さんのトワイラさんと8歳の長女のマッキーナちゃん。昨年は家族がシビック2台に分乗し、1600kmを自走して、はるばるカリフォルニア州のショーへ参加した


【4】に続く



初出：ノスタルジックヒーロー 2014年 12月号 Vol.166（記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです）

1979年式 ホンダシビックワゴン（全4記事）

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