アメリカにおける日本の旧車の輸入と登録|アメリカ西海岸のハコスカGT 2

アメリカで人気の高いピックアップトラックは、テールゲートに大きくメーカー名が入っていることが多い。フリーウェイでたまたま出合ったこのピックアップの運転手は、果たして右前を行くクルマが「NISSAN」だったと気づいただろうか。

       
よく知られているように、ハコスカを始めとするスカイラインは、アメリカには正規輸出されなかった。国内レースのみでの戦績や当時のトラック重視の企業戦略、フェアレディZの爆発的な人気、加えて日米における排ガス規制の強化と、さまざまな懸案があり、スカイラインの国内での存続すら危ぶまれていたからだとも言われる。

 一方アメリカでは、フェアレディ240Zを始めとする日本車の成功でその人気が高まるにつれて、クルマファンが在日米軍兵などを通じて日本国内仕様車をアメリカへ持ち出し始めた。日本では時々個人輸入されたクルマを見かけるが、逆にアメリカへ輸出したという話はあまり聞かない。アメリカへの輸出は難しいのだろうか。

 アメリカで旧車を走らせるには「輸入」して「登録」すればいいわけだが、実は輸入という点においては、現在意外と問題が少ない。DOT(旧運輸省に相当)とEPA(環境省に相当)は、生産から25年以上経ったクルマに対しては、衝突安全性などの検査を免除している。港に着いた車両は、税関を通して(膨大な量の書類が必要だが)アメリカ国内へ持ち込むことができる。

ハコスカ 外観
右ハンドルなので、信号で止まると隣のクルマの運転手や歩行者によく声をかけられる。「スカイラ
インじゃん!」という人、「何そのクルマ?」という人、それぞれの反応。サンフランシスコ周辺に
かかる計8つの橋は、全て1方向のみ有料だ。料金所では、ウインドーレギュレーターをくるくる回
して窓を開け、腕を伸ばして支払いをするのが大変。



 次に登録だが、これを扱うDMV(陸運局に相当)は難関だ。DMVは州ごとの機関である。カリフォルニア州の場合、現在の州法に従うと、76年以降のクルマは、排ガス検査に合格しなければならない(現実上ほぼ不可能と言われる)。それ以前のクルマならば排ガス検査は免除。ところが州が変わると、例えば北米日産本社のあるテネシー州のように、大都市部分以外ではほとんど排ガス検査がないという州もある。

 登録の際の検査は保安器具にも及ぶ。DMVの検査官に車両を検査してもらうのだが、これが思うように進まない。州外からのクルマの検査が主な役割なので、国外からのクルマは「よくわからないのでCHPに問い合わせたほうがいい」と検査を断られてしまう。CHP(カリフォルニア州高速警察隊)はDMVの上部機関にあたる役割も持っていて、DMVよりもこっちのほうが手ごわい。なので、DMVで検査してもらえるよう願いつつ、日を変え場所を変えて、合格できるまで何度もトライするのだ。クルマはさまざまな凶悪犯罪に利用される可能性が高いため、担当する役所はみな非常に慎重である。R34スカイラインGT‐Rの不法登録に関して、FBI(連邦警察)が調査を始めたという情報も最近確認された。

ハコスカ 外観
フリーウェイを走行中、なんとエンジンが不調に。フューエルポンプは作動しているのに、ストレー
ナーにガソリンがなかった。つまりガス欠。燃料タンク内の燃料計のフロートが引っかかったのが原
因。同行していたブルーノさんがガソリンを買いに行ってくれて、無事解決。


ハコスカ ストレーナー
何といってもパーツが手に入りにくいのが悩み。クラッチマスターシリンダーは510&240Zからの流
用で、純正品とは逆向きにつくチューブは自作で対応した。



 結論を言えば、個人で行うには非常に困難な作業だ。日本車を輸入販売している業者もあるが、言葉や商習慣の差異のため「日本の業者は旧車を国外に出したくないんだろう」などといううわさも流布している。熱烈なファンたちがアメリカで日本車旧車を走らせるにも、それなりの苦労があるようだ。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2011年8月号 Vol.146(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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