12年越しで手に入れたハコスカGT|アメリカ西海岸のハコスカGT 1

エンジンのサウンドを甲高く響かせながら、フリーウエイの隣の車線を追い越していくハコスカに、誰もが目を奪われていた。ハコスカはエキゾースト音を抑えてあり、耳にストレートに届くL型エンジンのサウンドが心地よい。

       
国産旧車の中で、いつもダントツの人気を博しているクルマは、ハコスカの愛称を持つGC10スカイライン。

 日産L型直列6気筒SOHCエンジンを主力パワープラントとして、GT-RにはS20型直列6気筒DOHCエンジンを搭載。今なお、中古車市場でも高値で取引されている旧車界の王様だ。そんな日本でも大人気のハコスカにひと目惚れして、太平洋を挟んだ向こう側で恋い焦がれていた人がいた。それが32歳のアイヴァン・ジャラミーロさんだった。ジャラミーロさんの熱き「恋ばな」を聞いていただこう。


 高度成長期の頃のボクの思い出といえば、それはクルマと重なっている。近所の駐車場に止まっていた真新しいクルマの1台1台が、いまでも目に浮かぶ。今日の街の風景も、同じクルマがそこに止まっているだけで、思いなしか昔の元気を取り戻したように見えてくる。単にノスタルジーだろうか。いや、そんなことはないはずだ。あの時代を体験していない今の若い世代にも、ボクと同じような「旧車熱」におかされている人たちがいるのだから。

 見ているだけでもうれしくなってくる。なぜこんなに旧車が好きなのだろう。自問してみても答えはよくわからない。1人でそんなことをつぶやいていたあるとき、「スカイラインを持っています」と言う若い男性が、海外にもいることを知って驚いた。


 アメリカ西海岸のサンフランシスコからベイブリッジを通って東の対岸へ渡ると、メジャーリーグのアスレチックスの本拠地、オークランド市だ。そこから少し北、小さく隠れるようにあるアルバニー市は、サンフランシスコ湾を望む丘の斜面に小さな家が並び、花のよく似合う明るい雰囲気が漂う。

 この街に住むアイヴァン・ジャラミーロさんは、厳格なメキシコ系移民の両親の家庭に育った。あまり笑いもせず、その神妙にしゃべる様子からまじめさが伝わってくる。子供の頃からクルマが好きで、父親の手ほどきで15歳になったその日に免許を取ってから、シボレー・カマロなどの身近にあったアメリカ車をいじって楽しんでいた。ところが1998年のある日のこと、香港へ出かけた友人がクルマの雑誌を持ち帰ってきた。それを手に取ると、その見開きグラビアに写っていた、横浜の大黒ふ頭に集まっていた1台の日本車に目を奪われた。ひと目惚れだった。

 それがどんなクルマかなんて知らなかったし、510ブルーバードとの見分けすらつかなかった。ハコスカと呼ばれるクルマだとわかると、すぐに本を読みあさり、このクルマについて調べ上げた。そして分かったのは、アメリカには個人輸入された数台があるだけで、容易に手に入るクルマじゃないということだった。思いばかりが募る日々、アメリカにある全ての旧車スカイラインを調べ上げ、売買を追跡し続け、そしていつか自分の目でこのクルマを見られる日のことを夢見ていた。

オーナー
「クルマの差別はしないのがポリシーです」というアイヴァン・ジャラミーロさん。どんなクルマに
も興味を持っているが、特に日本車、なかでもスカイラインにだけは「他にはない、この形がいいん
ですよね」とぞっこんだ。



 その日から12年が経った2010年4月のある日、ネットオークションにハコスカが出品されているのを見つけた。もちろん、迷うことなくすぐにビッドし始めた。が、数日間は値段がほとんど動かない。みんな様子をうかがっているようだった。そしてオークション最終日、値段が急に動き出した。ジャラミーロさんは、1万2000ドルまでと自分の予算を定め、それ以上は出せないと心に決めていた。しかし、容赦なく上がる値段。わずかに時間を残し、価格は1万2000ドルを突破した。間髪入れず、オークションを見守っていた親友のポール・ブルーノさんからメールが入った。「どうするアイヴァン、続けるのか?」

 この時、この若者は素直にあきらめることができなかった。ここでケチって見逃したら今度またいつ出合えるかわからない、そう不安になった(典型的な旧車熱の症状ですね)。そして、まさに最後の20秒、新たなビッドを入れたとたんにオークションが打ち切られた。12年越しの恋、夢にまで見たハコスカを手に入れた瞬間だった。

ハコスカ 外観
にらみつけるようなそのエクステリアだけでなく、簡素なキャビン、造形の美しいインパネなど、イ
ンテリアもクラッシックなスポーティーさを醸し出すハコスカ。アメリカでもGT-RやS20型エンジン
の知名度は高く、憧れも強い。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2011年8月号 Vol.146(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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