アメリカの改造ダットサン240Zの実力 1|もしS30フェアレディZがフロントミッドシップだったら……

トムさん自慢のZ「シャーク」。大掛かりな改造にもかかわらず、240Zのボディラインの美しさは全く崩れていない。サメをイメージしたという斬新なラメ入り2トーンカラーの塗装はやや好みの分かれるところ、と言えるか。

       
アメリカには、日本のような厳格な車検制度は存在しない。すべては「オウン・リスク」。

 自分が乗っているクルマは、自分でしっかりと管理しなさいということだ。つまり旧車をベースにした車両改造も自由にできる。

 日本から見ると本当に恵まれた環境の中、S30フェアレディZに魅せられたトム・ニッカーソンさんが、クルマ造りの原点に立ち返って、Zが生まれた当時には実現できなかった考え方で、新たなZを自らの手で造り出した。奇抜な改造車だけど、なんだかうらやましい……こんな旧車の楽しみ方ができるなんて。

 クルマの動力性能を高めるための基本事項は明確である。車体を軽くすること、重量バランスを良くすることなど、改めて述べるまでもない。

 FR車において、エンジンを前輪車軸の後方に収めるレイアウトは「フロントミッドシップ」と呼ばれ、その他のFRと区別されるようになった。このレイアウトは旋回性能、すなわちハンドリングの向上に大いに貢献する。しかしその半面、キャビンが狭くなるので実用上は不便になるし、それならと、キャビンを広げるためにホイールベースを長くしたりすれば、旋回性能に悪影響がでるので、それこそ本末転倒だ。ゆえに「スポーツカーにのみ適したレイアウト」ということになる。

 イギリスの名門ロータスは、早くから軽量化と重量バランスの重要さを認識していた。同社初期の市販車であるセブン(1957年)、エリート(1957年)、エラン(1962年)などのFR車では、FRPを使ったボディの軽量化だけでなく、エンジンを前輪車軸の後方にきっちり収めることで重量バランスの向上を図った。

 そして我が日本でも、トヨタ2000GT(1967年)はエランにならって、直列6気筒という前後に長いエンジンであるにもかかわらず、きちんと前輪車軸後方に収めて重心を低くする設計をしていた。

 これに対して、S30フェアレディZ(1969年)は開発経緯が異なっていた。ロードスターであった先代フェアレディを引き継ぐコンセプトで、4気筒エンジンを前提に設計が開始された。しかしながらその開発中に、アメリカでの市場を見込んで排気量の大きい6気筒エンジンの搭載が決定され、長くなったエンジンの一部が車軸の前方へ突き出るレイアウトが確定した。結果的には、性能、スタイリング、実用性、そして整備性の良さまで兼ね備えたこのZが、当時の日米両方で大ヒットしたことは承知の通りだ。

ガレージ
トムさんを訪ねたとき、4台のZが止めてあった。左の赤い280Zはガレージ内にある240Zのエンジ
ン用のドナー。黄色の280Zは「サフラン」と名付けた奥さま用のZで、特別な改造はせずパワース
テアリングを装着し、エクステリアの飾り付けをしてある。


 もしZがフロントミッドシップとして生まれていたら、はたしてどんなクルマになっていただろう。そんな改造をした人がいる。

 カリフォルニア州レベックという田舎の村に住むトム・ニッカーソンさん。この15年間、69歳になった今でもS30Z一筋の筋金入りのZファンだ。Zに魅せられたトムさんは、小手先のクルマいじりでは飽き足らず、本気で始めた改造をどんどんエスカレートさせてしまった。

 トムさんが「シャーク」と呼ぶ、改造Zを目の当たりにしてまず驚くのは、その外観である。

 グラデーションのかかったラメ入りの2トーンカラーに塗られたボディ。「ジョーズ」を思わせるいかついフロントマスクと左右の「エラ」。そして奇天烈なマフラー、などなど。確かにS30Zの面影は残しているものの、「これは族車なのか!?」が第一印象。

 驚きつつも、「要は中身だ」ということでのエンジンを見せてもらおうとすると、シャークのフロントが大きく前方に開いた。往年のスーパーカーを思い起こさせる、中身を全てさらけ出すような大胆さだ。そしてそこには確かに、キャビン方向へと後退させられたL型エンジンがあった。

 日産が初めてSOHCを採用したという一連の6気筒L型エンジンは、排気量にかかわらず外観は同一、重量もほぼ同一である。従って、排気量が最大のL28型がシリーズ最高出力を発生することになる。シャークにはこのL28型が積まれていた。

 このエンジンが載るボディのほうだが、これはわざわざ重い280Zを使う必要はなく、軽い240Zを使えばいい。端的に言ってしまえば、280Zの重いボディを240Zの軽いボディに替えたということだ。これだけで相当な軽量化になる(カタログ上の車重で200kg以上も異なる)。

フェアレディZ リア
左右のドアとリアハッチは純正のまま。テールランプにはLEDを使用している。異様な見てくれのマ
フラーからは、意外にも「正統派」的なエキゾースト音がする。マフラーの下に位置する調整可能な
スポイラーが、高速でのテールリフトを抑える。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2011年6月号 Vol.145(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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