日産だけじゃなくトヨタでも! パイクカー3部作が巻き起こした空前絶後の社会現象|パイクカームーブメント

今の時代に眺めても個性的なデザインが並ぶパイクカー達。

       
【パイクカームーブメント】

 1万台が2カ月間で完売したBe-1。予測の5倍近い受注を集めたパオ。倍率20倍の抽選となったフィガロ。近代の日本でこれほどまでに話題となったクルマは記憶にない。特徴的なデザインを持つクルマとパイクカー3部作の違いは。そしてなぜ3部作だけが成功したのか。

 ターボやツインカム、インジェクションが登場し、エンジン技術が飛躍的に進歩。さらに電子制御や電子デバイスが積極的に投入され、新技術も各分野で誕生。80年代はクルマの性能が数段レベルアップした。そんな時代に突如として現れたパイクカーは、今振り返ってみると非常に特異な存在だ。

 Be‐1、パオ、フィガロの3台どれを取っても、クルマとしての基本性能は平凡なもの。最先端の装備がおごられているわけではない。にもかかわらず、異常なほどの注目と反響を集めた。その最大の要因はやはりデザイン。この3台は改めてデザインの重要さと必要性を教えたとともに、新たなデザインの可能性を示した。クルマを表現する言葉で「可愛い」が使われたのは、パイクカーが初めてだろう。日本の自動車デザインに関して、この3台がもたらした功績は非常に大きい。

東京・南青山にオープンしたBe-1ショップ、約2年間の販売だったが今でも熱狂的なファンが多いWiLL Viなど【写真12枚】

 実際、3部作後にはデザインが特徴のクルマが多数登場している。その一部を上で紹介しているが、3部作のようなインパクトはない。パオと同時期に登場したエスカルゴや、パイクカーの再来と話題となったラシーンは今でも評価を得ているが、3部作の恩恵がないとは言い切れない。2000年代初頭に、トヨタがアサヒビールや松下電器産業らとともに進めたWiLLプロジェクトから生まれたWiLL3兄弟も大きな成功は収められなかった。

 その違いは何なのか。それは見た目を個性的にするだけではなく、そのひとつひとつに意味があるか。つまり〝本物〟かどうかだ。デザインは見た目だけではない。素材にも造形にも意味があるから本物となり、それが人々のハートに訴える。3部作にはそれがあった。




Be-1の特徴はデザイン面だけではない。たとえば東京・南青山にはBe-1ショップをオープンし、車両の展示はもちろん、ウエアやバッグ、ステーショナリーなどのグッズを販売。ショップ全体でBe-1の世界観をアピールした。また、横浜スタジアムでリリーフカーとして使われるなど、話題に事欠かなかった。






パイクカー第2弾のパオ。お披露目された1987年の東京モーターショーでは連日大盛況。市販モデル(写真上)とショーモデル(写真右)では、バンパー形状が異なるほか、リアクオーターウインドーの開き方など、相違点が確認できる。




1989年のモーターショーで発表されたフィガロ。左の写真が当時の様子だが、何重もの人だかりができ、注目度の高さを物語っている。エメラルドのボディカラーに輝くメッキ、上品な内装、とステージに飾られると一段と華やかさが増す。





カタツムリをイメージした商用バンで、パオと同じ1987年の東京モーターショーで披露され、89年に発売されたエスカルゴ。ベースはADバン。約2年間のみの販売で、約8000台が生産されている。現存車両が少ない希少車だ。





B13サニーをベースにしたRVで、1994年にデビューしたラシーン。フラットなボンネットやウインドーが特徴的で、レトロな印象。駆動方式は4WDだが本格的なものではない。スタイルと雰囲気を楽しむ1台として人気を集めた。






シンデレラのかぼちゃの馬車をイメージしたWiLL Vi(ウィル・ヴィアイ)。クリフカットのリアウインドーが特徴で、リアやサイドビューはとても個性的だ。2000年1月のデビューで、約2年間の販売。今でも熱狂的なファンが多い。




WiLLプロジェクト第3弾として登場したWiLL Cypha(ウィル・サイファ)。個性的なデザインに目を奪われるが、提案したのはクルマの次世代通信。トヨタの情報ネットワークサービス「G-BOOK」を標準搭載して話題となった。

横浜スタジアムでリリーフカーとして使われたBe-1、カタツムリをイメージした商用バンのエスカルゴなど【写真12枚】

初出:ハチマルヒーロー 2013年 8月号 Vol.022(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

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text : Rino Creative/リノクリエイティブ 

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