「ねえママ、見て見て。このクルマ可愛いね」なんていう子供の声が聞こえてくると、うれしくなります|1975年式 ホンダ・シビック CVCCとCR-X Vol.3|アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方

1975年式ホンダ・シビックCVCC。ホンダ初の本格的乗用車として、4輪車メーカーとしての地位を確立する立役者だっただけでなく、その先進的な排ガス対策エンジンでアメリカの自動車業界を驚かせた。

       
【1975年式 ホンダ・シビック CVCCとCR-X Vol.3】

Vol.2から続く

何をやるにも2度の作業

 それはトルーさんがいつものように仕事をしていた、2009年春のある日のこと。事態が動いた。検査中だったクルマのバックミラー越しに、放置されたシビックを誰かが取りにきたのを見つけたトルーさんは、仕事を放り出して慌ててその人のもとへ駆け寄った。

 幸いにもその人はシビックのオーナーだった。オーナーの話を聞くと、同型のシビックを3台持っていたこと、この1台ですべて処分が終わること、そしてもうすぐ解体屋が引き取りに来ることが分かった。このシビックは自分の娘のクルマだったそうだが、「アフリカへ10年間行って戻ってきた娘には、運転できない事情ができてしまって、クルマはそのまま15年間も置きっぱなしになってしまった」とオーナーは説明した。



 トルーさんは、見守るだけで何もできなかった3年間の自分の思いを話し、シビックを引き取る事を申し出た。するとオーナーは、別に保管していたパーツと一緒に快く譲ってくれた。

「とにかく走れるようにするために必要なところから修理を始めました。ところが、このクルマは何をやるにも2度手間がかかるんです。初めはガソリンタンクの洗浄を頼んだときでした。洗浄が済んで送り返されてきたタンクを取り付けた後に連絡があって、中に工具を入れたまま忘れたとかで、再びタンクを外さなきゃいけなかった。それからキャブの分解掃除を自分でやったときは、組み上げてエンジンをかけたらすぐにフロートのバネが壊れてしまって、また分解してやり直し。さらにリアブレーキのホイールシリンダーを交換したときは、ブレーキ液のエア抜きしようとした途端、マスターシリンダーが動かなくなりました。マスターシリンダーを交換してエア抜きも無事に済んだら、今度はフロントブレーキのキャリパーがおかしくなった。それでキャリパーを交換してまたエア抜き。そんなことの繰り返しでした」

 と苦労話も止まらないトルーさんだったが、このシビックで出かければ、いつもあちこちで話しかけられるという。

センターキャップとともに4輪すべてオリジナルでピカピカに光り輝いていたホイールと、見つけるのも大変だったという12インチのサイズのタイヤなど【写真5枚】



「『ねえママ、見て見て。このクルマ可愛いね』なんていう子供の声が聞こえてくると、うれしくなります」

 生活を便利に環境にも優しく、というメッセージをアメリカへ伝えた初代シビック。当時のルックスのまま、こうして今も、運転する人と見る人の心にスマイルをもたらし続けている。


初出:ノスタルジックヒーロー 2014年7月号 Vol.163(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

ホンダ・シビックCVCCとCR-X(全3記事)

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text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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