燃焼させた後の廃棄物にまで責任を持て! CVCCで「マスキー法」の排ガス規制を克服|1975年式 ホンダ・シビック CVCCとCR-X Vol.2|アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方

このシビックの背中を丸めたようなデザインのおとなしいたたずまいは、見る人に威圧感を与えない。アメリカ政府とビッグスリーの排ガス規制論争を尻目に消費者の信用を徐々に勝ち取っていった、そんな当時を想像させる後ろ姿だ。

       
【1975年式 ホンダ・シビック CVCCとCR-X Vol.2】

Vol.1から続く

排ガス規制をCVCCで克服

 ホンダ車が北米市場へやってきたのは、1969年の「ホンダ・セダン」(N600)が最初で、1971年には「クーペ」(Z600)がそれに続いた。それでも常に「ホンダはしょせん2輪車メーカー」というイメージが付いて回った。1972年になって4気筒エンジン搭載の乗用車「シビック」を送り出し、本格的4輪車メーカーへと脱皮していくまさにそのとき、厳しさを増す排ガス規制にカウンターパンチを受けた形になった。

 1963年に初めて制定されたアメリカの大気汚染の法規制が、自動車にも及んだのが1970年。通称「マスキー法」と呼ばれた改正法だ。それまでエンジンとは単に、燃料を燃やして高い出力を取り出す装置に過ぎなかったのに、改正法では、燃焼させた後の廃棄物にまで責任を持て、という話になったわけだ。この「排ガスをきれいにしなければクルマを売らせない」という政治からの圧力に対し、地元アメリカのビッグスリー(GM、フォード、クライスラー)は経済的な影響を盾に真っ向から反発した。



 自動車メーカーにとってそんな逆風吹きまくる70年代初頭を、北米市場に新参だったホンダはむしろ好機ととらえた。社会の環境意識の転換と要求に、ホンダはいち早く真摯に、そして正面から技術をもって挑んだのだ。

 アメリカの目標に合格するエンジンを作ってみせよう。そのためにはどういう技術が良いか。「リーンバーン」という方法が選ばれた理由は、ガソリンを薄めにして燃焼すれば、その分、大気汚染物質の排出を減らすことができるからだ。しかし、ものを作るというのは言うほどに容易でない。理屈のままにガソリン混合比を下げればシリンダー内の混合気の濃度ムラによって、時には点火ミスを起こす。そうするとガソリンをそのまま大気に排出してしまうことになる。それでは元の木阿弥だ。

 そこで薄い混合気に確実に点火する方法としてホンダのエンジニアが工夫して作り上げた仕組みが、シリンダーの脇に設けた副燃焼室だった。その小さい副燃焼室で混合気にしっかり火をつけてから、その火を元火にしてシリンダー内でリーンバーンを起こさせるという仕組みを作り上げて、問題点だった点火ミスを解決したのだった。

助手席側(右側)にある、右ハンドル仕様の設計そのままのブレーキブースターなど【写真5枚】



 その結果、完成した量産エンジンがCVCC(1972年)だ。それは、当時不可能とまで言われたアメリカの排ガス基準を満たした自動車エンジンとして、誰もが驚いたほどの成果だったのだ。

 強引に制定されたアメリカの排ガス規制には、日本の政治も敏感に反応した。1973年ごろにはすでに頓挫し始めていたアメリカの排ガス規制だったが、日本では光化学スモッグが社会問題となる中、昭和48年排ガス規制を皮切りに、昭和50年、昭和51年、昭和53年排ガス規制と独自に進歩し、日本の自動車メーカーの努力も続いた。その裏には公害に対するつらい思いがあり、自国の空気を守るという意識があった。80年代に登場した2元触媒や3元触媒技術の普及によって70年代の排ガス対策技術の役目は終わったが、その意識や精神は現在のハイブリッドや電気自動車、水素エンジンの開発に引き継がれている。

Vol.3に続く


初出:ノスタルジックヒーロー 2014年7月号 Vol.163(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)


ホンダ・シビックCVCCとCR-X(全3記事)

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text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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