【父の日、黙って用意したプレゼント 3】まるでクルマが親子のアルバムになっているかのよう。|1978年式 ダットサン B210 ハッチバック GX Vol.3

ボディの細部をていねいに手入れするエイジェイさん。「B210のハッチバックスタイルを初めて見たときに、ダットサンZを連想しました」という父親のボブさんは、「当時Zは手が出ないくらい高かったから」と回想する。78年には新車の280Zが8000ドル以上、B210はその約半額だった。

       
シリーズ:父の日、黙って用意したプレゼント

Vol.【2】から続く

【1978年式 ダットサン B210 ハッチバック GX Vol.3】

触媒が付いていない仕様

 エイジェイさんが手に入れたこの薄緑色のワンオーナー車は、前オーナーいわく、アメリカ南部のテキサス州で78年に購入したとのこと。そのことについてエイジェイさんはこう説明した。
「このクルマは排気系に触媒が付いていないんです。排ガス規制はカリフォルニア州が一番厳しくて、B210は76年式から触媒がついていたからね」

 テキサス州などは広大で、人口密度の高いカリフォルニア州のような早急な排ガス対策が必要なかった。70年代後半のアメリカの排ガス対策が全国的には過渡期にあった様子が垣間見える。


「3人の子供のうち、男の子はジェイデンだけ」というエイジェイさん。おとなしくミニカーで遊ぶのが好きなジェイデン君など【写真14枚】

 前オーナー夫婦は、アメリカから南へ地続きの国コスタリカへ滞在する際に、このダットサンを持っていった。2年後にアメリカへ戻ってくると、カリフォルニア州サンタマリア市に暮らしていたそうだ。そして、夫人が死去して以来、ガレージに置かれたままになっていたクルマを、主人がようやく売りに出すことにしたのだったが、そうとう名残惜しかったらしく、長年連れ添ったクルマを簡単には手放しかねていた。エイジェイさんが訪ねていっても、その主人は面と向かって売り渋った。



「うちで以前所有していた赤いB210では、アメリカ国内だけじゃなく、カナダとかメキシコとか、行けるところならいろんなところに行ったんです。そんな思い出話を全部前オーナーにしました。そうしたら、ようやく売ってくれることになりました。これからは徹底的にオリジナルにこだわりますよ。それも、あの赤いダットサンと同じ状態のオリジナルにね」
 というエイジェイさん。

 エイジェイさんからボブさんへの父の日のプレゼントのダットサンだったが、今は実質的にエイジェイさんが所有。ガレージに保管し、大切に、大切に扱っている。ボブさんでもエイジェイさんでも、都合のつくほうが運転してショーへ出かけるのがもっぱらの用途だ。そんなダットサンへの接し方は、まるでクルマが親子のアルバムになっているかのよう。懐かしい日々の記憶がクルマから止めどなくわき出し、そしてまた新たな思い出をこれからもっとクルマの中へ詰め込んでいくかのようだった。


Vol.【4】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2014年2月号 Vol.161(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1978年式 ダットサン B210 ハッチバック GX記事一覧(全4記事)

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text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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