「これはいける!」毎日の足に使えるクルマに仕上げるのが目標|アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方|ずっと忘れられなかった小さなクーペとの再会|ホンダ・クーペ Vol.3

大きいクルマが当然だったこの国で、「渋滞、公害を緩和するために、小さなクルマに乗ればいい」という提言は60年代からあった。しかしそんな呼びかけも、マッスルカー全盛の中では当然のようにかき消され、「小さい」「錆びやすい」などと揶揄された新参者は、その価値を認められるまでには長い時間を要したのだった。

【ずっと忘れられなかった小さなクーペとの再会|ホンダ・クーペ Vol.3】

タイムカプセルが開けられた

 ようやく巡ってきた機会が目の前にある。みすみす逃すことはできない。そう思ったアンダーソンさんがガレージにいた人に事情を聞くと、一人暮らしだった老婦人が亡くなり、遺品の整理をしているということだった。残されていたクルマは、骨董品コレクターだった老主人が亡くなって以来、10年以上も放り出されていたらしかった。

「ガレージには他にもセダン(N600)が2台ありました。でも私はクーペにしか興味はありませんでした」

 アンダーソンさんは遺産処理を請け負っていた市職員に掛け合った。その結果、遺族にはクルマを相続する意思はなく、法的な手続きを経て1千ドルを支払い、晴れてアンダーソンさんはこのクーペの新オーナーとなった。

 しかし、元オーナーがどんな人だったか知るすべもなかったし、このクーペについての情報交換も何一つできなかった。閉じられていたタイムカプセルが開けられて、このクルマは再び日の目を見ることができたものの、くしくもその歴史と記録はすでに永遠に封印されてしまっていたのだった。

 まるで忠犬が主人を待つかのごとく、前だけを見つめてそこに佇んでいたクーペは、アンダーソンさんが押しても引いても動かなかったという。「どうせすぐそこまでだ」と強引に牽引すると、ブレーキが張り付いていた後輪は、アスファルト上で煙を上げた。

 ようやく持ち帰った自宅でシリンダーにオイルをさして、手回しで丁寧にピストンを動かした後、キャブをきれいに掃除した。そして新しいバッテリーを取り付けると、エンジンがかかった。

「これはいける!」

 アンダーソンさんは、次々と作業に取りかかった。ブレーキの修理にもかなり手こずったが、一番大変だったのはガソリンタンク内の清掃。蒸発したガソリンが残したヘドロがたっぷりとたまり、その処理に閉口したそうだ。

 こうして必要最低限の整備を済ませ、自走できるようにさえなれば、それからの作業は楽しくなってくる。勧められてやることにした全塗装は兄のポールさんが引き受けて、オリジナルと同色のオレンジに仕上げてくれた。次はインテリアの修繕を始める予定だ。

「この『すごく小さい』っていうのが好きなんですよ。自分でコツコツやりながら、毎日の足に使えるクルマに仕上げるのが目標です」

 とアンダーソンさんは言った。

 タイムカプセルが開けられて、そこから現在へ抜け出てきたホンダ・クーペ。それは自らの過去を忘れ去りたいかのように、口を閉ざしたまま新しい時代に生き、これから新オーナーのもとで自身の新たな歴史を積み重ねようとしている。そして今、時代は「エコ」という舞台を整えて、この小さなクルマの活躍を心待ちにしている。

掲載:ノスタルジックヒーロー 2013年8月号 Vol.158(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

エンジン下のトランスミッション、前輪を駆動する左右等長のドライブシャフトなど【写真5枚】

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text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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