初代クラウンそして……キャノピー構造のパブリカスポーツ【存在感を示したトヨタデザイン】1950〜70年代に生産されたトヨタ車のデザイン背景をモータージャーナリストが語る! 

ピンクのクラウンアスリート、そして歴代クラウンのご先祖様が、存在感ある曲面ボディを持った初代トヨペットクラウンだ。写真は57年式クラウンデラックス(RSD)で、マイナーチェンジ後のフロントガラスが一枚もののタイプ。本文にあるとおり、登場当初はフロントガラスが中央で左右2分割となっていた。

世界一の生産台数を誇るトヨタは、自動車部の創設を第一歩とするなら約90年、トヨタ自動車として創業してからでも約80年を超えた。

トヨダG1型トラックやトヨダAA型乗用車、新日本号と呼ばれたトヨタAE型乗用車などは、トヨタが生んだ戦前の傑作である。が、自動車先進国である欧米とガップリ四つで戦うことができるようになったのは戦後だ。しかも10年を経てやっと同じ土俵に上がることができた。その最初の作品が、1955年1月に誕生したトヨペット・クラウンである。



 その少し前まで、日本車のデザイントレンドはヨーロッパだった。日産はオースチン、いすゞはヒルマン、日野はルノーと提携し、ノックダウン(国内組み立て)を通して量産化技術の習得に意欲を燃やしている。だからメカニズムだけでなく内外装デザインも、ヨーロッパテイストが強かった。これに対し自力で乗用車の開発に取り組んでいるトヨタは、自動車王国であるアメリカを手本に成長していく。

 この時代、自動車は便利な乗り物であることよりも超高価なぜいたく品と見られている。オーナーは乗用車を所有することによってステイタスを手に入れることができた。だからトヨタは立派で、豪華に見えるクルマ造りに努めたのである。手本にしたのは、クロームメッキを多用し、テールフィンの長さを競ったアメリカ車だ。

 初代クラウンは、メカニズムにもデザインにもこだわった高級セダンである。注目されることのひとつは、トヨタ車として初めて大型のプレス加工技術による大量生産を実現したクルマであることだ。ボディを見てもらえば分かるが、それまでの日本車と比べるとボディパネルの面質と工作精度は群を抜いて高かった。

 エクステリアは優美なアメリカ車をスケールダウンした力強いデザインだ。当時の小型車枠をいっぱいに使い、伸びやかなシルエットとりりしい顔立ちを上手に表現している。クロームを効果的に使ったフロントマスクやワンポイントアクセントのメッキモール、フィン状のテールなどはアメリカ車の流行を巧みに取り入れたものだ。大開口の観音開きドアもクラウンを特徴付ける装備と言えるだろう。

 デビュー時、キャビン前後にはめたガラスは分割式だった。技術的にむずかしくて曲面ガラスを使えなかったためだが、グレード追加やマイナーチェンジの機をとらえて一枚ガラスに変更し、視界と見栄えをよくしている。驚かされるのは、マイナーチェンジの域を超えた大がかりなデザイン変更を行っていることだ。1958年12月に発売したRS20系からは一文字のモールや2トーンで伸びやかさを演出した。これに続くRS30系クラウンではさらに重厚な雰囲気をかもし出している。

 トヨタはマイナーチェンジでボディパネルを一新するなど、大胆な変更を行うことが多い。その源流は観音開きの初代クラウンにあった。商用のマスターラインを含め、後期モデルはスタイリッシュだ。

 1960年春に送り出されたミドルクラスの2代目コロナは、ヨーロッパ車のような端正なデザインが特徴だった。直線に丸い面を織り交ぜた3ボックスのセダンボディを、オペル・レコルトに似すぎている、と批判する人もいる。似ていることは否定できないが、ブルーバードと比べるとエレガントなデザインだ。女性層を魅了し、これが評判となって幅広い層のユーザーを獲得することにも成功した。

 コロナに続いて投入したのが末っ子のパブリカである。コンパクトサイズでありながら独立したトランクを持つ3ボックスデザインを採用し、顔立ちもキュートだ。背伸びしたコンパクトセダンだったが、外観は華やかさに欠け、装備も物足りなかった。そのため販売は伸び悩んだ。

 この苦境を乗り切るため、メッキのモールディングなどで着飾り、快適装備も充実させた「デラックス」を仲間に加えている。バリエーションを拡大することによって販売を伸ばしたが、マイナーチェンジの機会をとらえてフロントマスクなどの化粧直しも断行した。この整形美人は好感度アップに大きく貢献する。パブリカの販売で苦汁をなめたことは、後に登場するカローラのよき教訓となった。

 このパブリカには今も語り草となっているスタイリッシュなスポーツモデルが存在する。1962年秋の第9回全日本自動車ショーに参考出品されたパブリカスポーツだ。車体メーカーの関東自動車工業(現・トヨタ自動車東日本)がデザインを手掛けた流麗なスポーツクーペで、個性的なスライディングルーフ式ドアを採用して話題をまいた。エクステリアは今見ても新鮮だ。

 もう1台、エポックを画したデザインで登場し、注目を集めたのが2代目のRS40/MS40系クラウンである。現代の高級車と並んでも、気品と高さは見劣りしていない。高級車としてのエレガントさは際立っていた。目を引くのは精緻なプレス技術だ。また、フェンダーとボンネットをひとつの面にしたフラットデッキの美しさも特筆できるところである。プリンス・グロリアも同じ手法を採っているが、モダンな新世代の高級車として称賛したいのはクラウンだ。

 当時の日本車としては驚くほど優美なプロポーションで、前から後ろまで破綻なくまとめられている。水平基調の伸びやかなラインに目がいくが、エッジなどには柔らかな面を上手に組み合わせた。フロントグリルとエンブレムも技巧を感じさせる、きらびやかなデザインだ。

 とくに感嘆したのは、フェンダーとボンネットから続くフロントグリルの合わせ目、そしてリアフェンダーからリアエンドにかけてのデザイン処理だ。Cピラーからトランクに流れるラインも美しい。この2代目もマイナーチェンジでデザインを大きく変えた。バンパーのなかにウインカーランプを埋め込み、リアもワイド感を強調するため横長テールランプとしている。

 コロナやクラウンをモデルチェンジする少し前からトヨタのデザインレベルは一気に上昇カーブを描いた。世界水準に大きく近づいたのは、ライバルメーカーに先駆けてデザイン部門を立ち上げたからだ。これを機に、アメリカのカリフォルニア州にある「アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン」に有望な若手を派遣し、デザインの指導を受けさせている。

 成果があらわれるのは1960年代半ばの作品からだ。その筆頭が、国際商品を掲げて1964年9月に発売された3代目コロナである。ストレート基調にスラントノーズのシャープなアローライン、ひとクラス上を感じさせる堂々としたデュアルヘッドランプを売り物に登場したコロナは、ピニンファリーナがデザインした尻下がりの2代目ブルーバードを販売面で圧倒。ベストセラーカーの座を奪い取った。セダンをベースにデザインした2ドアハードトップもセンセーションを巻き起こしている。

 1960年代はイタリアを中心とした海外のデザインがもてはやされた時代だ。ミケロッティやピニンファリーナ、ジウジアーロ、ブレッツナーなどのデザイナーに、セダンやスポーティーカーなどのデザインを依頼している。こうしたデザインの動向を冷静に見ながら、独自の境地を切り開いたのがトヨタだ。日本人好みのデザインを追求する姿勢を貫きとおし、デザイン部門の育成に並々ならぬ意欲を見せ、秀作を数多く生み出した。1966年秋に登場し、瞬く間にサニー1000を退けて不動の首位を築いたカローラ1100は、トヨタデザインの集大成と言えるファミリーカーだ。

 1960年代が生んだ2台のスポーツカーも、トヨタデザインのレベルの高さを証明したクルマと言えるだろう。1台はエアロダイナミクスと前面投影面積を徹底追求してデザインしたトヨタスポーツ800だ。もう1台は、魅惑のグランツーリスモ、トヨタ2000GTである。

 この2台は誕生から間もなく半世紀以上が経つが、その美しさはまったく色あせていない。両車とも撫でてみたくなるほど曲面が美しいスポーツカーだ。コンパクトサイズだが、強いオーラを放っている。

 1970年代デザインの旗手となったのもトヨタだ。切れ味鋭いデザインが話題をまいたセリカは、日本のカーデザインに一石を投じたスポーツクーペである。73年にはファストバックデザインのリフトバックも送り出した。フレンドリーな曲面美で人々をとりこにしたのがトヨタデザインだ。


1959年式の初代トヨペットコロナスタンダード(ST10)。2代目コロナがヒット作となったので、丸いボディの初代は、知る人ぞ知る存在となっている。


ヒットとなった2代目コロナデラックス(RT20D)は1964年式。今なお美しいフォルムのセダンボディを持つ。


1962年に出品されるなり、ドアのない個性的なデザインやそのスポーティーなデザインが話題となったパブリカスポーツ。車両は復元車、当時の車両は現存しない。


空冷水平対向2気筒OHV、697ccのU型エンジンを搭載し、1961年に登場した初代パブリカ(UP10)。66年4月のマイナーチェンジでパブリカ800となるが、その1年前にはトヨタスポーツ800もデビューしていた。


今なお多くのファンを魅了するトヨタ2000GT。今見ても新鮮に感じる曲線美が半世紀以上前に作られたのは奇跡と言えるだろう。


ユーザーがエンジンやインテリアを選べるフルチョイスシステムを採用し話題となったセリカ。

掲載:ノスタルジックヒーロー 2013年6月号 Vol.157(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

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text:Hideaki Kataoka / 片岡秀明

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