<4>オールNEWの新世代CA型 Z型の不備をすべて補っていた|技術の日産を支えたエンジン屋烈伝【石田宜之】Vol.4

小径タービンを使い過給レスポンスの向上が図られたエンジンでもあった。ちなみに前エンジンとなるZ18ET型は135ps仕様(グロス/レギュラー)だったがCA18DET型では175ps(ネット/ハイオク)にまで出力が引き上げられていた。

       
【エンジン屋烈伝 石田宜之 Vol.4】

日産のエンジンという点では、1.6〜2Lレンジを受け持つCA型エンジンがこれに該当する。石田に言わせると「基本設計は1.6〜1.8Lで、2Lは気持ちオーバー気味。といっても性能面で支障が生じるという意味ではないです」となるのだが、このエンジンも石田が担当した。

 もともとこのクラスのエンジンは、長い間L型系エンジンが使われてきた。510ブルバードに始まるL13型、L14型、L16型、L18型の各エンジンで、これが排ガス対策時にZ型に生まれ変わり、この後継としてCA型エンジンが企画されたのである。

 このエンジンは、Z型エンジンの完成と同タイミングで始まったプロジェクトと考えてよく、Z型エンジンの発展性はそれほど期待されていなかった。無理もない。Z型エンジンに求められていたものは、パワーでもトルクでもなく、燃費性能や静粛性でもなかった。ただひとつ、排出ガス規制のクリアだけを目標に開発が進められたエンジンで、いったん完成すれば、それで使命を果たしたことになるからだ。

 逆に、Z型の後継エンジンには、Z型で実現できなかった各性能要素が開発目標として求められることになる。開発コンセプトは簡単明瞭。「軽量コンパクト、高効率、高性能」だった。ひと口で簡単に言えてしまうコンセプトだが、これを実現するには相当な労力が必要となる。

「とにかく求められていたのは高性能な直列エンジン。排ガス対策時の基盤技術というか基礎データが大きく生きた。排ガス対策で積み重ねた燃焼技術が、高性能エンジン開発の基礎技術として有効活用できた。もしこれがなかったらもう少し開発に時間がかかっていたでしょう」

 こうした意味でのCA型エンジンは、実用性を備えつつスポーツモデルにも搭載可能な新世代エンジンとしてよくできていた。NA/ターボ、FFとFRというように汎用性のあるエンジンで、L(Z)型4気筒の後継として性能の守備レンジが広いエンジンだった。比較対象がL型とZ型では正当な評価にはならないかもしれないが、910ブルーバードやS13型シルビアで、軽快なレスポンスを楽しんだ人も少なからずいることだろう。

 石田自身もこのエンジンの出来には納得しているようだ。時代にあった要求性能を十分なだけ盛り込むことができたからだ。こうして話をしていると、乗用車エンジンにとって必要な音や振動の問題を、ユーザー以上に気にしている様子も感じられた。

 石田といえば、どうしてもスカイラインGT-RのRB26型というイメージを強く持ちがちだが、以前それにかかわる話をしたときには、一部特定領域の性能だけが突出したエンジンのほうが作りやすい、と話したことがある。

 むしろ難しいのは、音や振動、燃費といった実用性能と高出力性や高トルク性の両立だという。場合によって相反する性能項目を高い次元で満足させなけばならないからだ。しかし、このことができなければ、市販車用、乗用車用エンジンとしては失格、石田はこう考えているようだ。

 次はRB型エンジンについて話を聞くことになるが、CA型を経てRB型の開発に取り組んだ石田の意識の中には、高性能と実用性の高度な両立ポイントが常にあったはずである。この点についてぜひ確かめてみたい。


L型をベースに排出ガス規制のクリアを狙ったZ型エンジンだったが、ターボ化することで性能面の弱点を補っていた。効率化を図ったクロスフローヘッド構造がターボ化を容易にしていた。このエンジンはCA型が登場するまで使われることになる。


CA18DET型エンジンのカットモデル。バルブトレーン系にコッグドベルトを採用。信頼性を確保しつつ軽量化に目が向いたエンジンだ。


小径タービンを使い過給レスポンスの向上が図られたエンジンでもあった。ちなみに前エンジンとなるZ18ET型は135ps仕様(グロス/レギュラー)だったがCA18DET型では175ps(ネット/ハイオク)にまで出力が引き上げられていた。


T12オースターに搭載された4バルブDOHCターボのCA18DET型。FF方式と組み合わせジャジャ馬的なパワー感があった。


同じくT12オースター用SOHCターボのCA18ET型。


縦置きFRのS13シルビア用自然吸気4バルブDOHCのCA18DE型。


シンプルなシングルキャブ仕様のM10プレーリー用CA18S型。

掲載:ノスタルジックヒーロー 2013年2月号 Vol.155(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

縦置きFRのS13シルビア用自然吸気4バルブDOHCのCA18DE型など、全ての【写真8枚】を見る

text & photo:Akihiko Ouchi/大内明彦

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