<3>RB26やVGエンジンを設計した技術者が語るV型エンジンの優位性とは?|技術の日産を支えたエンジン屋烈伝【石田宜之】Vol.3

石田が設計したVQ30型と。VQ型エンジンは時代が要求する要素をすべて盛り込んだ理詰めのエンジンとして設計したという。VG型よりひと回りコンパクトな仕上がりだ。

       
【エンジン屋烈伝 石田宜之 Vol.3】

L型を手直しした石田に意地悪な質問を向けてみた。R30スカイライン用で一段ステップアップしたL型だが、さらに手を加えて次世代エンジンとして通用させられるか、ということである。

「さすがに無理です。R30用として開発しながら、次はもう無理だと思っていましたから。だからL型に代わるエンジンは何かと言われれば、VG型かVG型みたいな直6を作ることでしょう。ただ、FRにV型というのはあまり得策でないかもしれません」

 FRにV型が合わないというのは、世の中大多数の大排気量車を否定することになりかねないのだが。

「V字型に配置されたふたつのシリンダーは幅があって、2系統の排気を持つことになる。これをどこかでひとつにまとめなければいけない。スペース的に不利なんですよ。これがフェアレディZのようなスポーツカーなら、左右独立排気のレイアウトがとれるし、V型の持つスペース的なデメリットを帳消しにできる。これが直6だと、排気が一列のレイアウトになるのでパッケージング面でまとめやすくなる」

 V型エンジンそのものの否定論ではなく、乗用車パッケージを考えた場合の不利な要素を指摘していたのだ。

 気になったのは「VG型のような直6」という言葉だった。VG型エンジンも手掛けていた石田だけに、VG型ような直6という言い方は、VGのシリンダー、燃焼室回りのデザインを生かした直列6気筒エンジンということを意味しているのだろうか。

 しかし、直列6気筒はクランクシャフトが長くなることで、重量がかさみ重くなってしまう。直列6気筒にこだわり続けるBMWは、直6が持つ回転バランスのよさを最重視し、ここに直6のメリットを見出しているわけだが、通常どおりの作り方では大きく重くなってしまう。BMWはこの視点に立って技術開発を行い。軽量コンパクトな直6エンジンを作り上げている。メカニズムのメリットを引き出すことが最新テクノロジーなら、デメリットを消し去ることも最新テクノロジーと言えるのではないか。

 さらにVG型の開発に関して、こんなエピソードも紹介してくれた。

「VG型はSOHCのほかにDOHCも手掛けましたが、DOHCはかなり重くなってしまいました。皆さんはヘッドだけ作り替えたと思っていらっしゃるのでしょうが、VGエンジンのDOHCはブロックも作り直していますし、クランクシャフトも違うんです。エンジン名称にするとVG30EとVG30DEとわずかに一文字の違いですが、エンジン本体はほとんどが別物になってしまった。そしてそうせざるを得ない構造的な違いがあったんです。4バルブDOHC化と言えば、ヘッドだけ作り直して換装する手法を思い浮かべますが、ヘッドボルトが気筒あたり5本あり、これが4バルブレイアウトの邪魔になってしまうのです。なぜこんな手間のかかる構造にしたかといえば、ディーゼル仕様も念頭に入れていたためで、そのマージンが逆に4バルブDOHC化の妨げとなっていたのです」

 縦置きFRではなく、横置きFFとして使うことでV型エンジンにはメリットが生じるという。大排気量エンジンを比較的コンパクトにまとめることができるため、FFに向くというのだ。エンジン全長で考えれば、直列4気筒とV型6気筒では、V型6気筒のほうが短くなる場合もある。

「FFで直5を縦置きしたアウディ、直6を横置きにしたボルボの例もありますが、力ワザといった印象が強い。ここまでやるなら素直にV型エンジンを載せてもよいと思うんですが。逆に執念を感じますね(笑)。いずれにしても、初代マキシマや2代目のセフィーロを見ても分かるように、3L級のエンジンがあれだけコンパクトに収まってしまう。こうした意味で価値があると思います」

 V型エンジン本来のメリットは、コンパクトな搭載スペースで済ませられる点にあり、FFとの相性はよい。


L型の改良を終えた石田が次に手掛けた作業がVG30型のヘッド設計だった。


VG型はL型に代わるエンジンとしてL20型、L28型エンジン採用車種に振り向けられていた。またSOHC仕様に加え4バルブDOHC仕様も追加されていた。


4バルブDOHCのF31レパード用VG30DE型。


SOHC構造+ターボのY31セドリック用VG30ET型。


4バルブDOHC+ターボのF31レパード用VG20DET型。


自然吸気SOHC構造でVG型中最もシンプルな仕様となるY30セドリック用VG30E型。


昭和53年排出ガス規制をクリアしたNAPS-ZによるZ型エンジン。


L型エンジンの腰下をベースに吸排気効率に優れたクロスフロー構造(ペントルーフ型と半球型の中間形状による燃焼室を持つ)のヘッドにツインプラグ方式を採用し急速燃焼による窒素酸化物の軽減を図ったエンジンだ。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2013年2月号 Vol.155(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

4バルブDOHC+ターボのF31レパード用VG20DET型など、全ての【写真9枚】を見る

text & photo:Akihiko Ouchi/大内明彦

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