問題です! 「ブルートⅣ」という名前はどちらのクルマでしょうか?|アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方|ジムニーを愛するアメリカ人オーナー|71年式 スズキ・LJ10ジムニー Vol.1

日本の軽自動車とは対照的な、巨大なアメ車の代表のような1969年式プリマス・フューリーは、1978年に亡くした兄の形見。機関系のトラブルがないのが幸いで、お金を貯めて今から14年前にようやくきれいに塗装し直すことができたそうだ。

       
人とは違うものが好き。珍しいものを見ると、どうしても欲しくなってしまう。そんな「珍しい物好き」の存在は、洋の東西を問わないらしい。1970年代初頭のアメリカは、自動車産業の発展に呼応するように、環境対策運動も盛んになっていた。そんな国に、なんと2サイクルエンジンを持った日本車が輸出されていたのだ。

 アリゾナ州フェニックス市の郊外に住むケリー・マケンドリックさんは、そのうちの1台のオーナーだ。世界的な排ガス規制のために、日本でも姿を消してしまった2サイクルエンジン搭載車。マケンドリックさんは、なぜわざわざこのクルマを愛車に選んだのだろう。

 マケンドリックさんの日本車との出合いは12歳の時。お医者さんが持っていた新車のダットサン240Zに乗せてもらう機会があった。このクルマのことをすっかり気に入ってしまったケリー少年は、「いつか自分もZに乗るんだ」と幼いながらにそう決心した。

 一方、スズキ・ジムニーに出合ったのはそれから10年後の1980年のこと。それ以来、この2台の日本車に対する思いが心の中で絡まり合いながら、マケンドリックさんの人生にかかわっていった。

 22歳になった学生のマケンドリックさんがユタ州に住んでいたころ、近所の人がLJ10ジムニーという日本車をどこからか手に入れてきた。クルマが好きだったマケンドリックさんといえども、それまでスズキというメーカーのクルマなんて聞いたこともなかった。それでもこの小さなクルマは、とにかく運転することが楽しくて、2人であちこちに遊びにいった思い出は、今になっても忘れないという。

 壊れたセルモーターを交換しようと思って2人でスズキの販売店を訪ねると、「スズキのクルマ?スズキには2輪車とスノーモービルしかないんだよ」と言われてしまった。もちろんまだインターネットなどない時代のこと。結局パーツを手に入れることはできず、それなら手放すと言ったその友人に払うお金もなかったマケンドリックさんは、途方に暮れてしまった。そしてジムニーは別の隣人に買い取られていった。

 あの日から24年経ち、思い出を胸にマケンドリックさんがはるばる当時の隣人を訪ねてみると、果たしてそのジムニーは隣人の裏庭に確かにあった。しかしそれは放り出されたままで、すでに朽ち果てていた。「こりゃだめだ」。マケンドリックさんは思い出のジムニーをあきらめ、インターネットでのジムニー探しに夢を求めた。

 そして7年前、ついに見つけた1台が今回取材した車両だ。
 それは1000マイルもの遠方だったが、アイダホ州で正式に登録されていて、公道走行にも問題がなかったという。


「山の中のオフロードに走りにいったこともありますよ」というマケンドリックさんは、たまにしか走らせないこのクルマを運転することを、とても楽しんでいる様子だった。目いっぱいアクセルを踏んでも時速43マイルしか出ず、アメリカの一般道に多い時速45マイルの制限速度にすら達しなかった。


アメリカでは「ブルートⅣ」という車名で販売された1971年式スズキ・LJ10ジムニー。1971年から72年にかけて数百台が輸出されたようだ。マケンドリックさんの所有する個体は、アルベールグリーンと呼ばれた塗装や、タイヤまでもが状態のよいオリジナルであることが自慢だ。


布地のドアは、こんなふうにボディに取り付けられるが、実際に使ったことはないとのこと。幌を付けても付けなくても、気温が45℃を超すようなアリゾナの夏の暑い日には、とても乗れないのだそうだ。


テールランプが突き出しているのはアメリカの安全基準に適合するため。それにぶつからないようにテールゲートを水平位置で止めるための鎖は、輸入の際に取り付けられたものらしい。リアゲートの右下位置には「BRUTE IV」と書かれたステッカーがあった。ナンバープレートからは、このクルマがヒストリックカー登録されていることはわからない。


荷台に後部座席が備え付けられ、3座席が確保されている。本来はテールゲートが下まで下がって昇降用ステップが使える作りになっていた。

ノスタルジックヒーロー 2013年2月号 Vol.156(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

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text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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