流麗なフォルムを持つクーペボディがクールだった古き良き1960年代|麗しきスポーティーバージョンの時代 Vol.1

当時、サニーやカローラといった大衆車にクーペボディを与えたスポーティーモデルは、スペシャリティーカーと同じような意味を持っていた。

       
日本のモータリゼーションは1960年代になって右肩上がりの急成長を遂げ、日本グランプリが開催された63年からは高性能化したスポーティーバージョンも続々と誕生している。
 当時はセダンがファミリーカー、2ドアクーペは粋なスペシャリティーカーと同義語だった時代だ。セダンと違う、スタイリッシュなクーペボディをまとっているだけで高性能なスポーティーカーと見なされ、自慢できたのである。

 スポーティーバージョンの定義はあいまいだが、ファミリーカーをベースに高性能なエンジンを積んだり、セダンのセンターピラーから後ろのデザインを変えて2ドアクーペに仕立てたクルマのことを指す。セダン派生モデルであるところが、スペシャリティーカーやスポーツカーと違うところだ。

 スペックにこだわるクルマ好きとカーマニアは、ノーマルのクルマよりも高性能でないとスポーティーバージョンとは認めなかった。だからシリーズの上級に位置するスポーティーグレードはキャブレターを1基から2基に増やし、ツインキャブ化してパワーとトルクを絞り出した。
 ファミリーグレードの2割から3割増しのパワフルなエンジンを積み、高性能を誇示している。また、排気量を増やして高性能化したスポーティーバージョンも少なくない。

 この手のスポーティーバージョンは、サスペンションを強化したり、太いタイヤを履いてフットワークとハンドリング性能も磨いている。1960年代の後半からはラジアルタイヤを履くスポーティーバージョンが現れ、スタビリティー能力の違いを見せつけた。タイヤをグレードアップしているだけで、優越感に浸れた、いい時代でもある。

 1960年代のスポーティーバージョンの多くは排気量1.6Lから2Lのエンジンを積んでいた。OHVエンジンが全盛の時代に高回転を苦にしないSOHCエンジンを積み、格の違いを訴えている。だが、数年のうちにコンパクトサイズのスポーティーバージョンがのしてきた。軽量ボディに高性能エンジンを積んでいるから速かったし、維持費の面でも優位に立っている。

 1.2L〜1.6Lエンジンを積むスポーティーカーというと、今の若い人たちはFF方式のベーシックな2BOXモデルを思い浮かべるだろう。だが、昭和の時代は違う。今よりひとクラス上のプレミアム性の高いスポーツモデルといった格付けだった。

 キュートなデザインの2ドアクーペも多い。その火付け役が日産のB10サニー・クーペとトヨタのカローラ・スプリンターである。両車ともコンパクトクラスでしのぎを削るライバル同士だったが、スポーティーバージョンの分野でもガップリ四つのライバルとなっている。

 駆動方式は上級クラスと同じ後輪駆動のFRだ。軽快なハンドリングを武器に、気持ちいい走りを存分に楽しむことができた。性能的に見るべきところは少ないが、手軽にスポーティー感覚を楽しめるところがいい。

しかし1960年代はまだ選択肢が狭かった。

各社がホットバージョンを送り出し選択肢が一気に増えるのは、自動車が身近な存在となる1970年代である。

そして各社がしのぎを削った結果、流麗なフォルムを持つクーペボディであればスポーティーカーと見なされた1960年代から、エンジンやサスペンションなど、高性能な機構を盛り込んでこそスポーティーバージョンとなる70年代へとつながっていく。

次回はそんな1970年代のホットバージョンについて解説をする予定だ。



1968年に登場したサニークーペ。


エンジンは名機と名高いA型エンジンを積んだ。


エンブレムはサニーのSマーク。





1968年5月に登場した初代カローラ・スプリンター。


リアへ向かって流れるようなクーペフォルムの専用ボディは、ノッチバックの姉妹車であるカローラとは、別のカッコよさがあり、皆があこがれを持って眺めた。


後に別の車種となるが、初代はカローラのファストバッククーペに与えられた名前が「スプリンター」だった。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2012年12月号 Vol.154(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

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text & photo:Nostalgic Hero/編集部

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