〈3〉R33では「GT-Rらしくしてくれ」と開発メンバーに呼ばれた|5世代のスカイラインをデザインした男 Vol.3

西泉はル・マンのためにR33のレーシングカーのスケッチを描いた。 公認取得用ロードカーに似ているが実際は相当モディファイされた。

       
R30.31,32と開発に携わってきた西泉秀俊。

 当然、R33にも西泉はたずさわったが開発の最初はメンバーに入っていない。GT‐Rのデザイン修正から参加したのだ。
しかも「GT‐Rらしくしてくれ」ということで呼ばれたという。

 この頃商品主管が田口浩から渡邉衡三に代わっていた。
 西泉が参加したときは、GT‐Rの形がほとんど出来上がっていた。デビューの日は半年後に迫っていたので、リファインするには時間が足りなかったが、西泉はグリル、フロントバンパー、リアウイングなど「全とっかえ」を強行した。

 その後、実験主管の吉川正敏が「何かやろうよ」と可変式リアウイング案を持ってきた。新しい性能を形に取り込みたかった西泉はすぐに飛びついた。空力デザインをさらに進化させることができた。

 基準車をベースにしたスカイラインGT‐R LM(2WD)は1995年、1996年にル・マン24時間レースに挑戦した。結果はそれぞれ最高位が総合10位(福山英朗、近藤真彦、粕谷俊二組)、15位(長谷見昌弘、星野一義、鈴木利男組)。

 西泉はレースが好きだったのでレーシングカーをデザインするのが夢だった。それがGT-R LMで実現した。スケッチを描き、1/4のクレイモデルを短期間で作った。しかし、クレイモデルはレースでは当然ながら違った形にモディファイされる。だが、スポーティーなイメージを創ることには成功した。残念ながら敵はマクラーレンF1 GTRといった(1995年優勝、関谷正徳、Y・ダルマス、JJ・レート組)やTWRポルシェWSC95(1996年優勝、D・ジョーンズ、A・ブルツ、M・ルーター組)だったので、FRのスカイラインGT‐R LMは良い結果を出せなかった。

「会社からル・マンに連れて行ってやるという話はもちろんなかったですね。でも98年には会社の出張の際に、F1のイタリアGP(モンツァ)にプライベート(?)で行きましたよ。フェラーリF300でM・シューマッハが優勝したレースでした。レース後多くの観客と一緒にコースに流れ込みました。鈴鹿のF1には毎年行っています」

 R34も西泉は最初参加していなかった。最初はR35ニッサンGT‐Rのプロジェクトチーフデザイナーの長谷川浩がチーフだった。粂田は1995年に第1デザイン部部長になった。粂田はR30のデザイナーだったからR34がR30を彷彿とさせるのは偶然ではなかったようだ。粂田/長谷川の作品は車全体で躍動感を表現していた。

 長谷川は他のグループに移り、入れ替わりに西泉が入ってR34GT‐Rのデザインを始める。リアのオーバーフェンダーはR33と違い、はっきりとしたブリスターフェンダーとした。「このイメージをサーフィンライン的に使い、後から逆に基準車に取り込んだのが2ドアのリアフェンダーです」 

 西泉は上司の松宮に車のニュアンスを情緒的に表現する方法を教わった。粂田には強い表現方法とは何かを教えられた。車のデザインは絵がうまいだけではなく、いかにそれを形にするかが決め手になる。西泉はR30〜R34スカイラインを、5代にわたってたずさわった希有なデザイナーである。スカイラインをデザインした先輩のいい点を貪欲に吸収し、スカイラインを進化させてきた。

 時には鉄仮面にこだわり、時にはレースに勝つことにこだわるというフレキシブルさこそ、5代にわたってスカイラインに関係できた秘密ではないだろうか。

 2005年、西泉は日産からオーテックジャパンに移り、デザイン部部長に就任した。ノーマル車のバンパーやグリルのデザインを変更したスペシャルビークルを造っている。

 西泉は高校時代に「栄光のル・マン」を初めて見た感動をいつまでも忘れていない。いつの日かオーテックジャパンで造ったマシンがル・マンを走る姿を夢見て。


ニスモが96年にル・マンに出場するために製作した公認取得用ロードカーのNISMO GT-R LMはイギリスで実際に登録された。


R33の2ドアの1/4クレイモデルのA案。ボディ側面のエア・アウトレット、インテーク、一体型リアウイングでスポーティな味付けがされている。


インフィニティFX45(北米向けSUV)プロジェクトスタート時の比較試乗。車の横に立っているのが西泉。

掲載:ハチマルヒーロー 2011年 05月号 vol.15(記事中の内容はすべて掲載当時のものです

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text:Nostalgic Hero/編集部 photo:Ryotetsu Kamisato/神里亮徹

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