彼の転職がなければスカイラインはこの世に存在しなかった!?|スカイラインを愛した男 櫻井眞一郎氏を偲ぶ Vol.2

櫻井は510ブルーバードのフロントサスペンションとC10スカイラインを共用せよと伊藤に命令したが、アッセンブリーで共用することはせず部品の共用にとどめた。スカイラインとの写真はオーテックジャパンの玄関で撮影された。

今でこそスカイラインの生みの親として知られる櫻井眞一郎だが、大学を卒業後は清水建設に入っている。

 これは櫻井は自動車に関係する仕事につきたかったが、世の中は不況で、トヨタも日産もいすゞも人を採らなかった。
 そこで大学の教授から「建設会社の試験を受けると、日当も出るし、お昼も白米のご飯が出るし、汽車賃も出る。絶対受からないから受けるだけ受けなさい」と言われて清水建設を受けた。すると受かるはずがないのに、家に合格通知がきてしまったのである。

 「私は行きません」と教授に抗議したところ「学校の立場があるから頼むから行ってくれ。自動車会社から求人があったらすぐ連絡するから」となだめられ、いったん清水建設に就職した。

 1年もたたないうちに係長になったが1年半後、たま自動車から「欠員が出たから1人くれないか」と学校に連絡があり、52年10月にたま自動車に入社した(1カ月後の1952年11月にプリンス自動車工業に社名変更、1954年4月に富士精密工業と合併し富士精密工業となり、1961年2月にプリンス自動車工業に改称)。


羽田空港でタラップの前で撮られた記念写真。右から3番目が櫻井。


「入社番号は501番でした。給料は安かった。でもクルマが好きですから自分でやりたいことがやれてよかったですね。合併して、立川飛行機がルーツのプリンス自工出身の人と中島飛行機がルーツの富士精密工業出身の人が一緒になりました。

 尊敬できる上司は立川飛行機時代に与圧式機密胴体を設計した日村卓也さん。1952年3月に発表したプリンス・セダン(AISH)を担当していました」

 配属されたのは設計課で、シャシーを担当していた課長代理の日村の下で仕事をすることになった。櫻井は一見ヌーボーとしてふけて見えるが、頭はシャープそうだし、理論も筋が通っていた。
 日村は「この男はモノになる」と直感した。日村は「今後会社の規模もどんどん大きくなる。そのためには自分が今やっている仕事を委譲していかなければならない。櫻井はそれにうってつけの男であり、自分の持っている技術とノウハウのすべてを彼に伝えてやろうと思った」。

 日村はまったく未経験の櫻井にいきなりチェンジレバーのリモートコントロール装置の図面を描かせた。

 当時の国産車のトランスミッションのチェンジレバーは床から直に出ていた。現在のクルマはフロアシフトが多いが。プリンスは外車並みのステアリングの脇にチェンジレバーが付くいわゆるコラムシフトに挑戦した。輸入されていたヒルマンを参考にしたにもかかわらず、強度不足でユーザーの手に渡ってから壊れ、販売されたクルマの数だけクレームがついた。

 これは櫻井にとって最初の手痛い失敗だったが、国産車は故障しても当たり前の時代だったし、リコールという方法も確立されていなかったので、あまり大問題にならなかった。

 その後、櫻井はサスペンションを担当するようになったが、慣れない設計なのでよく間違えた。間違いに気づくとあわてて製造工場に駆けつけ、機械の前に下げてある図面を、頭を下げながら赤鉛筆で直して回った。

 こうして何カ所か回ると大体直ったが、息せき切って額に汗してやってくる新人の櫻井を見て気の毒に思ったのか、戦時中の飛行機の時代からやっている熟練工たちはみんな「ああ、いいよ」と気持ちよく直してくれた。

 櫻井は日村についてこのように語っている。

「日村さんは地味な方だったが大変お世話になったし、今でも尊敬しています。仕事については大変厳しい人で、入社早々の若造にはとても無理ではないかと思われるようなことを命じられた。『できません』と言うと、『お前にできなければ他にやるものがいない。お前しかいないんだ』と言われ、私は歯ぎしりしながらでも、やらなければならなかった」

 日村の設計哲学から直接的に影響を受けた櫻井は『人間と対話できるクルマ作り』を目指すようになる。多分に日村の考え方と共鳴するものがあり、櫻井に引き継がれたものと言っても過言ではないだろう。



櫻井は若い頃から老け顔で、新人社員の時も課長に間違われた、というエピソードもある。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2011年6月号 Vol.145(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

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text & photo:Nostalgic Hero/編集部

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