【3】プロトタイプ「R380」のプロジェクト立ち上げ|最強のレース組織 日産ワークスの歩み Vol.3

第3回日本グランプリは、1966年、新設の富士スピードウェイで行われた。プリンスが満を持して4台のR380を投入。タキレーシングのポルシェ906を下して優勝を飾った。大型フェンダーのフェアレディは、北野が操るフェアレディS。

       

 第2回日本グランプリは第1回と異なり、各メーカーがフリーハンドで戦ったことでメーカー間の実力差が浮き彫りになる結果となっていた。そしてこのことは、メーカーごとにモータースポーツに対する取り組み方に違いがあることを示していた。

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第3回日本グランプリのTS部門に参戦したスカイラインGTは、クロスフローヘッドを持つS54CRと
呼ばれた車両で、このクラスでは圧倒的なエンジン出力を誇っていた。

 なかでも、技術力を看板にするプリンスは、新たな挑戦として純レーシングカー開発のプロジェクトを立ち上げていた。これがプロトタイプ「R380」のプロジェクトだったが、なにしろ本格的にレースが始まってからわずか2年。日本に純レーシングカー作りのノウハウがあるわけでもなく、まずは世界の一流品を見たり聞いたりすることから始まっていた。

 これがよく知られる「ブラバム」の話で、プロトタイプ開発に関する基礎情報を得るため、プリンスの開発陣が渡欧。その結果、信頼性と安定度の高さから、ブラバム製のスポーツカーシャシーを購入。それを参考にマシン開発を行う手法が選ばれていた。模倣と言えばそれまでだが、なにもノウハウがない時代に、すでに完成された物から学ぶ開発手法は、その後の過程で独自性を盛り込むことができれば正解への早道となる手法だろう。

 こうした意味では、ブラバムSC-64型(BT8用)シャシーを参考に、3改型にまで発展したR380は、こうした代表例のひとつとして数えることができるだろう。そのR380は、設計・櫻井眞一郎、実験・青地康雄の両名を軸とする態勢で、65年の第3回日本グランプリに向け、開発が進められていくことになる。結果的に、65年の日本グランプリは中止となり、完成間もないR380はオーバルトラック(日本自動車研究所)を使った国際速度記録に挑むことになるが、残念ながらアクシデントにより、全項目に挑戦できないまま記録会を終えていた。

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プリンスチームのキャプテン、横山達がドライブするプリンスR380 1型(正確には1改型)。初期
モデルから1年の熟成期間を経ていたが、完成度の点ではライバルのポルシェ906に大きく水を開け
られていた。

 一方、プリンスがR380を開発し、本格的なレース活動を立ち上げていたころ、日産はチーム編成の強化を図り、第3回日本グランプリを目指していた。といっても、プリンスのように具体的な純レーシングカーの開発プロジェクトがあったわけではなく、レース活動は、もっぱら自社の生産車両を基本とする内容に終始していた。

 第2回日本グランプリを、第1回日本グランプリから続く態勢で戦っていた日産は、グランプリ終了後にドライバーのまとめ役を依頼していた田中健二郎と正式に契約。その田中は、プリンスの伊藤史朗に勝てるドライバーとして、ホンダ時代の愛弟子、高橋国光と北野元を呼び寄せていた。折しも当時のホンダは、自社の契約ライダーを外国人態勢に一本化する方針を打ち出したばかりで、行き場をなくした有能な2輪ライダーが、次々と4輪の世界に転向を果たしていた。


 その「日産ワークス」追浜は、フェアレディとブルーバードでツーリングカー/グランドツーリングカーレースに参戦し、ベレットやコロナS、クラスは異なるもののスカイラインGTを相手に果敢なレースを挑んでいた。


 ほかにも日産車によるレース活動は、追浜ワークス以外に、宣伝課を軸に編成された「大森チーム」によっても行われていた。ちなみに、当時の大森チームの顔ぶれは、黒沢元治、長谷見昌弘、鈴木誠一らで、黒沢と長谷見は田中がホンダ時代に育てたホンダ・テクニカル・スポーツの門下生でもあった。


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日産ワークスが繰り出した410ブルバードSSS。TSクラスのレースで、ランデブー走行を繰り広げて
いるのは高橋国光(手前)と北野元(後方)。日産ワークスの北野と高橋の名は、すでにこの時代に
鳴り響いていた。

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船橋サーキットでのGTクラスのレース。フェアレデイは宣伝課・大森分室の車両で、前が鈴木誠一車、
後ろが長谷見昌弘車。

サーキット
東京圏のサーキットとして1965年に開設した船橋サーキットにより、日本のモーターレーシングは
さらに活況する。1965年の全日本自動車クラブ選手権レースT1クラスの模様で、ゼッケン27の津々
見友彦ブルバードSSが優勝。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2011年8月号 Vol.146(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)


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text&photo:Akihiko Ouchi/大内明彦 cooperation:Nissan Motor Co.,Ltd./日産自動車

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