【2】スカイラインGTが、ポルシェ904かわして一時トップに立つ!|最強のレース組織 日産ワークスの歩み Vol.2

生沢徹がドライブするスカイラインGTが、トップを快走していたポルシェ904をかわしてトップに立った瞬間。観客席は騒然となった。

       
1963年の第1回日本グランプリで大敗を喫したプリンス自動車は、雪辱を果たすべく、1964年の第2回日本グランプリに向けてスカイラインGTを開発。必勝態勢で7台ものエントリーを行っている。生沢徹のドライブするプリンス自動車のスカイラインGTが、ポルシェ904かわして一時トップに立ったシーンはあまりにも有名だ。
 この当時はプリンス自動車と日産自動車はライバル関係にあり、ダットサン・フェアレディ(SP310)で同じGT-2クラスを戦うものの惨敗する。プリンスも日産も、思うような結果を残せていないが、この時の敗北感が後の最強ワークスへとつながる原動力になったのだ。


 日産はプリンスとは少し異なる状況下にあった。すでに1958年(昭和33年)のオーストラリア・モービルガストライアル(ラリー)に210型ダットサン(富士号、桜号)で戦績を残し、南アフリカやサファリといった国際ラリーを視野に捉えていた時期で、自動車技術のみならず、モータースポーツでも先進者を自負する存在となっていた。

 日産は、鶴見の第3実験課を軸とするグランプリ対策チームを編成すると、難波靖治を実行部隊の要に、レース用ブルーバード(P410)、セドリック(G31)、フェアレディ(SP310)の開発を行いながら、ワークスチームのレベルアップに取り組む状況となっていた。

 実際のところ、当時の日産は、たしかに技術力を売り物にはしていたが、プリンスのように動力性能や運動性能を前面に押し出すものではなく、どちらかといえば、安定した実用性能に結びつく信頼性を指して「技術」と呼んでいたようなふしもある。

クルマ
第2回日本グランプリで、GT-2クラスを走ったダットサン・フェアレディ。最上位は7位と見るべき
ものがまったくなかった。新鋭スカイラインGTの前に完敗する。


 当時の日産の持ち駒、フェアレディ、セドリック、ブルーバードは、モータースポーツのベース車両として見た場合に、必ずしも適切なメカニズムを備えた車両とは言い難かった。
一方で、これらの車両を操るドライバー陣容の充実化も急務となっていた。基本的には、第1回日本グランプリの参戦ドライバーが中心となるチーム構成で、鈴鹿サーキットを貸し切ってはトレーニングにあてていた。

 このとき、鈴鹿サーキット(正確にはホンダ)側の人間として、日産チームの現場アドバイザーを臨時で務めたのが田中健二郎だった。日本人GPライダーの先駆けとして知られる田中は、当時、ホンダ・テクニカル・スポーツ(2輪)のまとめ役として若手ライダーを育成している最中だった。
田中が4輪ドライバーとしても優れた資質を持つことを見抜いた難波は、ホンダと折衝して田中を獲得すると、主将格としてチームに迎え入れ、チーム作りを任せていた。

 一方、日産がレース仕様車の開発とチーム体制の強化を図っていた頃、プリンスは、第2回日本グランプリで、「絶対に勝てる」量産車として、スカイラインGTの企画を急ピッチで進めていた。


 グロリア用G7型SOHC直列6気筒エンジンをスカイライン1500のボディと組み合わせる荒業は、スカイラインGT誕生のエピソードとしてあまりに有名だが、「たかがレース」のために、ここまで本腰を入れてしまう企業体質は、いまふり返っても驚き以外のなにものでもない。


 前年の日本グランプリで屈辱を味わった日産、プリンスの両メーカーは、またしても苦杯をなめることになる。日産は、田中のブルーバードが優勝したものの、セドリックはグロリア、スカイラインの前に大敗。車両自体のベースポテンシャルの差が明らかになっていた。

クルマ
ワークス参戦が可能となった1964年の第2回日本グランプリでは、プリンスの繰り出したグロリア、
スカイラインがそれぞれのクラスで圧勝。2000ccまでのツーリングカーを対象としたT-6クラスは
大石秀夫(写真)と杉田幸朗が1~2位を占めた。



 ツーリングカークラスで日産勢を一蹴したプリンスは、GT‐2部門で本命のスカイラインGTが、突如参戦が決まったポルシェ904を相手に惜敗。残念な結果となったが、レーシングカー然としたポルシェと互角に渡り合ったことで、むしろ、負けてなお強しの雰囲気を漂わせていた。しかし、当のプリンス陣営はレースの勝ち負けより「我々もポルシェのような車両を作ってみたい」という印象を強く持ったというから、どこまでも探求心の旺盛な会社であった。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2011年8月号 Vol.146(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

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text&photo:Akihiko Ouchi/大内明彦 cooperation:Nissan Motor Co.,Ltd./日産自動車

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