直線で発揮されるターボの大トルクは強烈な加速ショーを演出!|NISSAN the Race|日産 シルエット フォーミュラ スカイライン Vol.2

       
排ガス対策という大きな責務から解かれた日産にとって、レースへの復帰を計画するにあたり、このスーパーシルエットレースは格好の目標となっていた。市販車で口火を切ったばかりのターボシステムは、まだ改善の余地を大きく残す新技術で、メーカーが技術開発を建前(目的)に臨むには、またとない大義名分が揃ったレースだったからである。

 実際、トヨタ系はトムスが関わって、セリカ、カローラのグループ5カーを用意し、マツダ系はこの年に誕生したマツダスピードが中心となってRX-7(SA22C)を開発し、全盛期のツーリングカーレースを彷彿させる内容が整いつつあった。

 こうしてシーズンごとに盛況さを増すスーパーシルエットレースで、やはり決定的な動きを見せたのは日産だった。柳田に続き星野一義がシルビアで参戦。いずれも生産車の改造仕様だったが、長谷見がこれとは別に、日産の技術支援を受けながら、本格的なグループ5カーを作ってスーパーシルエットに参戦する計画を練っていた。

 結局、この話は大きく膨らみ、グループ5カーを3台新造する計画となり、長谷見を介して宣伝3課が窓口となり、追浜開発のLZ20B型ターボエンジンと、ノバ・エンジニアリングが製作したシャシーを組み合わせ、規定で許されるギリギリの量産車パーツを使ってスカイライン、シルビア、ブルーバードの3台が作られたのだ。

 今回ここで紹介する3台がその車両だが、見ても分かるように、大型のボディパーツでノーマルとは大きく異なるダイナミックな外観を持ち、これがレースファンや自動車ファンに大きくうける結果となっていた。それまでのレースは、GC、F2ともレース専用車の形をしたもので、市販車とは接点のない形であったことから一般うけがいまひとつだったのだ。

 そしてなによりこれまで経験のない強大なターボパワーが、レースの見方を変えていた。69年の日本グランプリを制したR382の6L V12エンジンは、実測で580〜590psレベルにあったが、最終期のLZ20B型(正確には20B改)はおよそ570psに達し、ほぼ同等のパワーを発揮していたのである。

 その一方でシャシー性能は市販車の延長にすぎなかったため、お世辞にも優れたコーナリング性能とは言い難く、ゆっくり回って直線だけフルスロットルという走りになっていた。レースカーとしては決してほめられた性能ではなかったが、直線で発揮されるターボの大トルクは強烈な加速ショーを演出した。

 本末転倒というわけではないが、スーパーシルエットレースは、レースそのもののコンペティション性より、こうした加速性能や減速時に排気管から吹き上げる火炎が見どころとなり、多くの観客を集めていた。

 正当派のレーススタイルから見れば、邪道とも言えるカテゴリーのレースには違いなかったが、排ガス対策規制下で高性能の楽しみを奪われていた自動車ファンにとっては、大きなストレス解消となるケタ外れの迫力と性能を持っていた。

 また、パワーとドライバビリティーを求めたターボ開発は、LZ20型エンジンがよく壊れたことで、有形無形のターボノウハウを学ぶ結果になったという。このスーパーシルエットで得たターボノウハウは、日産にとっての大きな財産となり、続くグループCカー時代に大きく生かされることになる。

 しかし、3台がそろい踏みとなった82年に、スーパーシルエットの後継となるグループCカー規定が発足したのは、なんとも皮肉な歴史の巡り合わせと言えるものだった。



グループ5規定は内容面の変更に関してかなり寛容だったが、生産車の基本形式を変更してはならないとする制約があった。このためエンジン搭載位置や搭載方向、駆動方式、サスペンション形式など動力系、走行系の主要メカニズムが制約を受けた。フロントサスがストラット形式、リアがセミトレ独立が基本だが、シルビアのリアサスだけがリジッドであるのもこのためだ。


エンジンはSOHC4気筒のL20B型をベースに、4バルブDOHC化したLZ20B型。



当該メーカーが生産する公認ブロックであることが条件で、そのほかの改造範囲はかなり広かった。日産のスーパーシルエットトリオはLZ20B型にギャレット製T05型タービンを装着。



最終期には570psを超すパワーを発揮したがラグは非常に大きかったという。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2012年6月号 Vol.151(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

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text : Akihiko Ouchi/大内明彦 photo:Masami Sato/佐藤正巳

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