「丸テール」そのルーツと言われるもう一つのストーリー|C10スカイラインのデザイン秘話公開 Vol.3

ハコスカ誕生の陰に重要な役割を果たしたデザイナーがいる。前述の鈴木潔だ。早稲田大学第一理工学部に通っている時、文化学院美術科でデッサンを学び、その後に千葉大学工学部工業意匠科へ学士入学し3年生として入っている。卒業後、57年に富士精密へ入社した。

 60年にデビューした初代ALSIスカイラインのマイナーチェンジには2つの特徴があった。1つ目は4灯式ヘッドランプ。2つ目はテールフィン。その下にコーン状の突き出した丸形テールランプが存在する。それをデザインした鈴木はスカイラインの丸形テールランプのルーツと主張するのだが、解釈は読者にまかせることにする。

 64年9月に鈴木はJETRO(日本貿易振興機構)を通じて、カリフォルニア州のアートセンター・スクール(現アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン)に留学することになった。9カ月の留学を終えて帰国する機内の新聞でプリンスと日産の合併を知った。帰国した鈴木はC10系ハコスカのインテリアの担当になった。鈴木は留学の成果を上司や同僚に報告した。アメリカで自分が描いたスケッチを披露した。この中に名車ハコスカが誕生するヒントが隠されていたことを森は見逃さなかった。

「ハンカチを広げて、その下からカーブ定規でハンカチを持ち上げると、テンションの効いた曲面ができる。これがアメリカでははやりそうですよ」と鈴木は森に話した。

「このやり方だと生き物の形と共通するものがあると直感しました。クルマとして面の扱いが画期的なものになると予感した。張りのある生きた面ができるだろうと考えました」と森。

 ハコスカの5分の1クレイモデルを見た上司の中川良一専務や田中次郎部長は「これはいい。やっと素晴らしいクルマが出てきた」と絶賛した。他社のクルマはほとんどがクレイモデルを削ってできている。どのモデルも削ると同じような面しかできない。ハコスカは中から押し出すデザインで、まさに筋肉のようだ。すべての皮膚(表面)は中から持ち上がっている。生き物みたいなデザインは面と面の境目がない(エッジレス)ものになった。

 宣伝を担当したアートディレクターの秀男が命名したサーフィンライン(元はサイドストリークライン)も中から持ち上げられたもので、フロントのバンパーの側面を起点にしたラインとリアのホイールアーチの上を走るラインで構成される。後にGT-Rではホイールアーチ上のラインは大胆にカットされることになる。

 初期のフロントデザインを担当したのは八木沼だった。森はデュアルランプを1つのものに見せたかった。「ここはこういうふうに変えたほうがいい」と森は助言した。森はフロントグリルに表情を出そうと、フロントエンドのランプの上の部分をやや削って眉毛の形を作った(唯一削ったデザインの部分)。森は最終的にランプを囲んだ輪郭を付け、ランプの間に透明なアクリルを入れ、1つのランプのように見せた。

 この頃、ハコスカのスタイルの評判はどうだったのだろうか。

「売れなさそうだが、良いとも悪いとも言えない。これは変なクルマだ。売れ行きが非常に心配だ」とプリンス自販は戸惑いを見せた。

 一般のユーザーには理解しがたい形だった。ルーフはダブルバブルより複雑なW形の谷がある。ボンネットにもW形の谷があり中央には稜線がある。トランクリッドとリアエンドにも大きな起伏がある。

 このクルマを見るにはボディカラーが大きく影響する。それを担当したのが鈴木だった。このハコスカはただのホワイトのパステルカラーだと、陰影がわかりにくい。当時「銀バス」(濃銀に青帯)があったが、それと同じでは面白くないので、やや赤みのある黒を入れて暖色系のダークシルバーに仕上げたメタリックは彫刻のように美しく輝いた。ボディデザインの思惑を見事に表現したダークシルバーのメタリックの果たした功績は大きい。

「ハコスカがデビューした時、市場の反響は大きくなく、ソリッドなカラー(原色で組み合わされた色)では街の中では目立つことなくべたっとした感じがした」と森は思った。しばらくしてメタリックの時代に入った途端に元のハコスカデザインの意図が鮮明に出始めたので安堵した。

 その筋肉のようなデザインのために苦悩した男がいた。八木沼である。八木沼はデザイナーだが、エンジニアでもあった(当時のプリンスでは当然だった)。普通、線図は40日くらいかかるが55日もかかった。

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掲載:ノスタルジックヒーロー 2012年4月号 Vol.150(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Nostalgic Hero/編集部 photo:Tatuso Sakurai/桜井健雄

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